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『奪われた僕たち』1話 感想

2.5次元舞台のトップランカーとして活躍する荒牧慶彦さんと、子役時代から世に名を知らしめた実力派・須賀健太さんが本格サイコスリラードラマに挑戦した本企画。
荒牧慶彦さんが社長を務める(株)PastureとKINGRECORDSの共同企画とのこと。さらにドラマシャワーからドラマフィル枠として一新したMBSは、2.5次元で活躍する俳優さんを起用したコンテンツをいくつか制作してきましたが、今後さらなる幅広いドラマジャンルへの挑戦を掲げています。
その一手目、序盤の布石打ちはじめ第三線の隅的な安心コンテンツとして登場したのが"サイコパス"猟奇殺人鬼荒牧慶彦という衝撃的な内容でした。普通のことやってるだけじゃダメだから、チャレンジして数字を取りにいこうという気概を感じます。



あらすじ

山奥でひっそりと暮らす麗しいピアノ講師、光見京(扮する荒牧慶彦)は不気味なほど静かにピアノを奏でる。
都会で仕事がうまくいかずにくすぶるフリーディレクター、堺洋一(扮する須賀健太)にひとつの荷物が届く。
うだつの上がらない日々を変えたい堺は、自暴自棄さながらに危険そうな山奥のロッジを尋ねるが、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
元から交わっていたのか、光見の手の内であえて交わってしまったのか。恐怖に歪みながらも堺はカメラを回し続け、光見に翻弄されていく。


モラルが欠陥したサイコパスモンスター荒牧慶彦vs可哀想ガイシャ須賀健太というキャッチーでファンの興味を呼ぶ、つかみの設定を活かしたストーリーのはじまりに期待が高まりました。犯罪心理学を突きつめたくなってしまう、シンプルだが論理的な脚本構造の作り込みがよかったです。

過去に賞を取った栄光に縋りくすぶる映像ディレクターという堺の設定と映像クオリティが、チープな印象になりやすい2.5系の人材をたくさん使ったドラマに臨場感を持たせていました。行動選択や演技・素材が多少荒削りでも、堺の存在のおかげで世界観全体を納得してしまえる布石の置き方が上手いなと思いました。

構成上、須賀健太さんの単独のお芝居のターンが長いのですが、映像でもスッと見れてしまうからやはり演技がお上手なんだなと感じます。
須賀健太さんは『ライブ スペクタクル NARUTO』で我愛羅を演じており我愛羅のシーンと芝居に涙した記憶があるので、やはりお芝居で何かを伝える馬力のある役者さんなのだろうなと改めて感じることができました。

実在した事件をオマージュしてるのでは?と犯罪の歴史などが好きな方にはピンとくる要素が随所に散りばめられており、不気味さがありつつも深淵の底を覗き込みたくなってしまう、魅力あるストーリーに第一話から早くも引き込まれました。


サイコパスの荒牧慶彦はみんな見たかった

漫画やアニメを原案とした2.5次元舞台というフィールドで活躍する2.5次元の王子様には、"夢"が求められます。キャラクターのイメージに直結して人気が出ている部分があるので、夢を壊せば人気も落ちるという構造。
荒牧慶彦さんという俳優は、役者とアイドル的な側面を同時に求められる"2.5次元の王子様"たる実力がある人だと感じます。

その"実力"とは一般的な役者に求められる芝居のスキルとはやや異なり、舞台への集客力、SNSでの話題性やファンサービスの能力、男っぽい汚い部分を見せないなど、アイドル・商業的な側面が大切になる分野だと私は捉えています。
荒牧さんは求められているポジションを演じられる器用な胆力があるのに、悪い意味での"芸能人"になりきらず親しみやすい人間味が残っているアンバランスさが、稀有な存在だと感じます。
もちろん夢を見せてくれる荒牧さんなら「素でありのままでやってるだけだよ」とファンに向けて答えてくださると思いますが、そんなアホな人ではないだろう〜とファンながらに思います。

今回の連続殺人犯光見もまた、相反する要素を兼ね備える二律背反が不気味で魅力的でした。美しくて知能の高い殺人鬼が持つ人から"好かれるテクニック"と猟奇性を同時に併せ持つ歪み、そして荒牧さん自身が備えるアンバランスな魅力が重なるような、良い誇張表現でした。

倫理の轍を超えて異常行動をとってしまう世から浮いた連続殺人犯の存在は、世界の中で際立って映るものです。光見がまとう真っ白なタートルネックがより一層不気味で美しく光ります。真っ白な服が宗教家をも彷彿とさせ、たまらない胡散臭すぎるエッセンスを効かせています。

荒牧さんは知能が高そうな印象を受けるので、ソシオパスというよりはサイコパス寄りのキャラクター像を描かれている点がファンとしても納得でした。
少なくとも私はサイコパスっぽい荒牧さんは待ち望んでいましたし、見たい荒牧慶彦さんの姿でした。不気味で美しい光見京、最高に好みの猟奇事件犯罪者でした。

光見の光のない目とガード層が厚くて本音の見えない感じが、荒牧さんのパーソナリティ深淵をもちょっとだけ覗かせてもらえた気がして楽しかったです。
正直なところ、ご本人的にはコンプレックスに被る部分なんじゃないかなと思うので(対岸から見た統計と想像に過ぎませんが)この役をやれる自分を受け入れる段階になったこと、その漢気に脱帽です。自分にとってはあまり好きではない部分を受け入れて直視する、世間に受けるならコンテンツ化するって、『芸能モラトリアム』的な葛藤を乗り越えた成長段階にいないとできないと思うので。

光見の愛用武器が注射なのが荒牧さんに合ってる!と興奮してしまいました。チクッとやって毒殺。荒牧さんらしい(?)殺害方法でした。綺麗な毒蜂ですね。


ファンの子的に、荒牧さんが殺人犯って大丈夫なのか?夢を壊さないか?と心配でしたが、サイコパスは見目麗しく善の行動をふるまう事ができる知能指数の高い犯人のことだと捉えているので、仕上がりが麗しい品のある荒牧さん像は許容されているのか?


ラストはあの宗教家みたいな胡散臭い白い服が血に染まって殺されて、光見のドキュメンタリーを終えて欲しいと歪んだ本能がやられ慶彦を願ってやみません。


◯される友達① 玉城裕規さん

玉城裕規さんはなんとはじめに殺されてしまう役!拷問される恐怖の表情、監禁されて朦朧とする姿、毒殺されるまでの流れが完璧なサスペンス耐性があり、お芝居がよすぎました。
殺されるの『上手い』のなぜ?荒牧さんと親交のある俳優さんで知ってる人だからか、あああー!やられたー!とウケてしまいました。

玉城さんの演技力の無駄遣いだという意見を見かけて変な声が出ました。

玉城さん本体は沖縄出身で人がよさそうな空気があるから光見みたいなクソ胡散臭い男に騙されるんだろうか、と妙な納得感がありました。たとえ何かしでかしたことに対する報復だとしても、光見は怪しすぎる。私ならあんな人に絶対近づかないなと思いました。裏笑いならぬ裏警戒が発動します。

ですが、表面的な善やふるまいにすんなり騙されてしまう人が多くいるからこそ、昨今の推し活(広義の意)やキャバクラのような夢をみる仕事が人間の産業として何百年も続いているのだなぁとしみじみ想いを馳せてしまいました。

今後殺されてしまう?!荒牧さんに親交のあるキャスト陣にも注目です。



人はなぜ罪を犯すのか


私は犯罪心理学が好きで個人的によく調べているのですが、それは社会心理学や民俗学などすべてに繋がる部分があるからです。汚くて、綺麗で、欲深い人間という存在が好きで、人間を深堀したいからです。シェイクスピアもそう説いていたならば、やはり人間の業の深さというのは、役者さんという存在にもリンクする部分なのだと思う。

異様に周りに合わせるのが上手い荒牧さんにも残忍な犯人にもなぜ?と生い立ちや過去をなぞりたくなってしまう。なんでこの人はこの人格の仕上がりなのか?という点の材料を線で結んでいく作業が好きなので、特に犯罪モノの不気味な作品は好きです。

海外の刑務所で重罪犯として独房に入れられたサイコパスと接してきた海外のカウンセラーの方がインタビューで『善意が正解なんだけど、胡散臭い』と言ってたのが興味深かった。勘の鋭い人が肌感で察知する胡散臭さって、ここの善性のいびつさなのだろうなと思いました。だから騙されやすい人って前後の背景でなく、表面しか見ていなくてすぐ騙されちゃうんだろうな。

粉飾決算や横領、インサイダー取引など、『今ここで私が手を下せばやってしまえるだろう』という場面が日常的にはある。罪を犯すためのきっかけはいくつも転がっている。ただ私が犯罪を犯さないのは、自身の中に善性とモラルがあるからです。行動の先の将来への影響という予測ができ、それが今生きている社会の中で『信頼』に繋がる事を知っているからです。
人間の善性を取り繋いでいるものなんてお天道様教育、家族、社会秩序のような脆いもの。そして秩序が希薄な人間は『ケーキの切れない非行少年達』となり言葉やルールが通じないので、組織や社会が崩壊してしまう、おそろしい癌となり得るのかもしれない。

モラルや善性が欠如する人間の生い立ち、気になる!光見の過去に興味津々で、次のお話を待ちたいと思います。


毎週木曜日MBSドラマフィルム枠にて放送。
TVer、他配信サイトでも見逃し配信中。


『奪われた僕たち』概要

2024年4月11日(木)より
MBSドラマフィル枠にて放送

企画:Pasture×KING RECORDS
制作:ホリプロ




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