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通り過ぎてしまう結晶に重石をつけて
こんにちは。みなさんお変わりありませんか。駆け抜けていく4月の後ろ髪を少しだけ握って、久しぶりにnoteを書いています。
4月をぐるっと思い返してみます。いつも生きるので精一杯で息切れしているような日々。その時間をぐるっと息を吸いながら見渡します。
心を少しだけ浮かぶ風船のようにイメージして、風船に結んだリボンを手放してみます。ふよふよとただよう心が「ここだよ。ここが一番引っ張られるよ」と行く場所・・・・
それは4月のはじめの新学期スタートの朝でした。
一学期の最初でものすごく荷物が重くて泣きそうになっている新四年生と新二年生の長男次男がかわいそうになって、自転車で小学校まで送っていった朝でした。
後部座席はまだしも、前の座席に乗る次男のSくんはもう膝が前カゴに入るかギリギリで、ランドセルとお道具箱セットの入った袋を抱き抱えて大人しめのアルマジロのようになっています。
電動自転車の力を借りて、はあはあとたどり着く校門前。2人の男子を下ろして「いってらっしゃい」と別れます。もう黄色の一年生用の帽子じゃなくなったSくんと、四年生という高学年の年齢になったRくんを「おおきくなったなー」と見守って、自転車のハンドルにまた手をかけた時、違う親子の姿が目に入りました。
お父さんと、リュックを背負った男の子。
校門前から、校門の中をずっと見ています。ずっと見ています。ずーっと見ています。
その男の子とお父さんの姿を、何だかずーっと私も見ていました。
しばらく見ていてやっと気が付きます。
あっ。この親子は、あの親子だ。
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いつも小学生男子2人を自転車で小学校に送り届けたあと、戻る道ですれ違う親子だ。
お兄ちゃんと弟くんとお父さん。兄弟はいつもお揃いのシャツを着て、それが恐竜だったり電車だったりするのだけど、とにかくいつもお揃いのシャツ。手を繋いだり、お兄ちゃんが弟をおんぶしたり、時には抱っこをしたりして、いつもいつも仲よさそうに橋を渡っていた兄弟。それを後ろから見守りつつ、2人分の保育園用リュックを持って歩いているお父さん。
すれ違うたびに、「かわいいなあ。なかよしだなあ」と思っていた兄弟とお父さん。
ああ、そうか。
お兄ちゃんが一年生になったんだ。
私のところからは見えないけど、あの校門の中には去りゆくお兄ちゃんがいるんだ。
ずっと見てる。お父さんと弟君は、ずーっと校門の中を見てる。
あ、お父さんが手を振った。
お兄ちゃんがきっと校舎の中に入るんだ。見えなくなる寸前に、お兄ちゃんが振り向いて手を振ったんだ。
弟君は手を振りません。お父さんが肩に置いた手を自分も握って、笑わずに、お父さんと手を繋ぎ直して回れ右して歩き出しました。
私はこのお父さんと兄弟を見て、ずっと見てきて、そしてまた違うステージの一歩を踏み出すところを目撃して、どうしようもない胸の奥のざわめきを感じていました。
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もう一緒に保育園に行くことはないのでしょう。もうお揃いのシャツの出番も減るのでしょう。お父さんと兄弟との3人の時間も、疲れた顔してこなしていた登園の日々も、もう戻らないのです。
私の心の風船は、あの4月の小学校の校門前に生まれた磁力に引っ張られて、ふわふわと戻ります。「ここに重石を置こう」と決めたかのように。Googleマップのピンのように。
誰かがそんなふうに見ていたことを、あのお父さんも兄弟も知らないでしょう。
でもあそこにあったせつない区切りの時間には、ぜったいに「人格」があった。「世の中の男は」とか「結局パパってこんなんだよね」とか「男の兄弟って大変」とかそういういろんな世の中の【大きな主語】に一緒に混ぜることができない、個人の大切な思いと思い出の積み重ねがあったのです。
一生懸命さと愛情を誰かに伝える時、必要なのは形容詞ではなくエピソードです。行動と時間の積み重ねてできていくエピソードが、その結晶が、きっと自分にもあるのに、おそらく自分自身では気がつくことができない。
自分の結晶を見逃してしまう代わりに、誰かの結晶に気づくのかもしれない。
そんなことをまた忘れてしまわないように、4月のnoteに書いておきます。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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