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今しか描けないものを描く「Ma•Ma•Match」
気がつけば3月も下旬です。
桜がそろそろ咲くと言う予報だったはずなのに、近所の桜の木の蕾は「春休みは寝るためにあるでしょ」と布団を被る子供のよう。みなさんお変わりないですか。
私はネームが終わらず死にそうになってます。軽々しく言うものじゃないのですが、感覚的に本当に「死にそう」「お先真っ暗」・・・。そういうときは黒いものにまとわりつかれるというより、眉間のあたり7センチの円の中で溶岩を鍋に入れて煮ている感じです。
深く息が吸えないし、近くしか見えないし、横も上も見えません。
「描けないじゃすまないんだよ」
毎月聞こえるこのセリフも聞こえてきました。デッドラインが近いのです。
でも15枚目まで行ったネームをかなぐり捨て、また1ページ目から描き直しています。
怖い。でも面白くない漫画を描くことのほうが怖い。
今描いているものが面白いのかどうなのかわからないまま、浅い息で行ったり来たりしています。こういう時、時間はとにかく減っていくだけの氷。解けないでと焦る気持ちにはなっても、味方にはなってくれません。
でも味方になってくれる時間もあります。
過去の自分の作品です。
過去の頑張りを見返すと、どれほど拙くても「この時はこの時ですごく頑張っていたな。作品にそれが出てるな…」と受け止めることができます。
捨てたもんじゃない。天才じゃないかもしれないけど、全精力を傾けた仕事だ、と思うことができる。そういうものを残してくれているので、時間も悪いものではありません。
その中でも割と最近の頑張りを傾けた漫画が、4月に発売になります。「Ma•Ma•Match」は青年誌【goodアフタヌーン】(講談社)に掲載していただいた長編読み切りです。
今回その発売に際して、表紙イラストのメイキングをnoteに置かせてもらおうと思います。
アナログで描こうか?デジタルで描こうか?とそこから悩んで今回はアナログです。
手書きの水彩イラストがどうやって出来ていくのか、見ていっていただけると嬉しいです。
・・・・・・・
①下絵の試行錯誤はクリップスタジオで。構図を考えて小物を書き込んで、A3の紙にプリントアウトしました。実はこの「絵柄を決める」がイラスト仕事の半分を占めるのではないかと思うんですが、絵を描くのを見せる段階でその苦労は見えなくなる・・・。
めちゃめちゃ悩んでたくさんラフを描いてこの構図にしたことを知るものは誰もいない。
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②下絵をトレースしてブラウンのインクで線画にします。ハイライト部分を白く残したいのでマスキングインクで部分的に塗って保護します。
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③何度も書いている気がしますが、イラストはグレーをどれだけ効果的ににあつかえるかだと私は思っています。下塗りはホルベインのグレーオブグレーとシェルピンクを混ぜたものを全体にブワーッと大きな筆で塗っていきます。
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④大きな部分を水彩で塗っていきます。後ろの鉄の扉は分離色で複雑な色を出してみました。ジャージはコピックのグレーを4本くらい濃さを変えて使って塗っています。
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⑤小物を書き込んでいきます。描きたかった「ほんだし」。
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⑥色味の参考にしたのはなぜか「ニューヨークの摩天楼」。どうして。
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⑦辛かったサッカーボール。最近のボールは模様が凝ってるので、この辺も大事なリアリティかなあと頑張りました。コピックと面相筆で書き込みます。
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⑧瞳と眼鏡を描き込みました。どの箇所もやり直しが効かないけど、目の失敗は「全部書き直すしかない」と思う分水嶺。なんとか失敗せず描けました。ジャージに赤い線を入れました。
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⑨髪の毛やシューズにホワイトを入れて・・・水彩の部完成です。
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⑩マスキングテープをとって、このイラストを講談社に持ち込み、デジタルデータにしてもらってから私に戻してもらい、最終修正。あれ?そうするんだったらやり直しきくんじゃん・・・。
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イラストが出来上がっても、ここからまた大きな課題があって、それは表紙デザインです。この絵をどう切り取って、どのようにタイトルを載せて、色はどんなことを狙って決めて、どのバランスで読者さんに見てもらうか・・・。
絵は素材にすぎません。料理をしてくれるデザイナーさんにイラストを渡したところまで私の仕事でしたが、そのあとどんな一冊になるのかは私以外のいろんなプロの総力戦になります。
たくさんの叩き台のデザインデータ、タイトルロゴデザイン、カバー内側の色味の確認、色校正のやりとりもあり、一冊本を出すことの大変さを感じるやりとりがありました。
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「Ma•Ma•Match」本編に加えて、書き下ろしの短編「Pa•Pa•Patch」も描きました。どちらも私にとって今しか描けない漫画になったと思っています。
「ママのサッカーのやつ楽しかった。続き描かないの?」とうちのサッカー少年が言ってきます。少年も少女も高校生も大人も楽しめる作品であったらいいなと、贅沢なことを思っています。
どうぞあなたに手に取ってもらえますように。
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定額メンバーさんに向けては、メイキングを動画にしたものを公開しています。ネームはどうするんだ!?と思いながら編集しました(死)。よかったら見ていってくださいね。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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