駅前の本屋
駅員に定期を見せて
改札をくぐり、駅前に出ると
パンとたい焼きの匂い
減ったお腹がぎゅるると、
まるで催促のように鳴る。
減ったお腹を無視して、
学ランの僕は駅前の本屋へ入る
ロック中心の音楽雑誌をパラパラ、
ゆっくりと立ち読みする。
好きなバンドの記事があった。
駅に電車が着きそうな時間になると、
店内で本を見ていた客らが
いそいそと外に出て行く
駅に電車が着いた後にはまた、
新しい客が次々と店の中に入ってくる。
(それが何だかいつも面白く感じていた)
その本屋の2階は文房具売り場で、
普通の階段でも行けて、螺旋階段でも行けた。
螺旋階段を昇るとき、降りるとき、
1階の店内の風景を見下ろすのが好きだった。
客がみな思い思いに本を選んでいるのが見えて。
駅前にあった本屋は「新陽堂」といった。
そこで過ごした帰宅前の時間は、
何だかいつも不思議な安らぎに満ちていた。
あれからかなりの時が過ぎたが、
同じビルは今も駅前にある。
色々な店と人の歴史をまるで夢のように、
思い出したり、忘れたりしながら、
古びた姿で、今日もそこに建っている。
「駅前の本屋」詩・山田正史