未来 2022年10月号 掲載10首
かぎろひのはたてに響むヴィオロンの黝き痣もて祝福をせよ
VTuberの正典に触るる星座にて薔薇中毒のロザリオを繰る
モスクワは燃えてゐるか幾万の屍の眼の青き燐火に
薫風に青葉躍れる蘭の上の花蟷螂は水葬されき
虫食ひの紫陽花の葉を見てをりぬ烏揚羽はためらひがちに
半神のおもかげありてセルフィーに六花降りつるかそけき自瀆
姫釣鐘は地下アイドルの贄なるか銀のコインの腐るごとくに
薔薇色のクラリオンもて芍薬のおまへの罪を数へろ 天使
薄荷油を垂らしし後の鼻腔より香気を吸へば陶片追放
紋白蝶が花々の上を飛びゆけばヴェニスはなほも鎖されてをりぬ
メモ:海彼通信より
「歌稿を見ていてよく思うが、あまり「短歌っぽくしよう」と思って作らない方がいい。この方が抒情的だと私たちが思い込んでいる表現は古めかしい俗情と紙一重の時がある。例えば、結末を連体形などで言いさしにする、呼びかけるように「ね」を入れる、初句切れの時に無理に助詞を省く、など。こういった修辞が効果的な場合もあるにはあるが、私たちは私たちの時代の表現を模索したい。」(黒瀬珂瀾さん)