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#346 貧しい東京と豊かな富山。都心で豊かな生活ができるのは一部に過ぎない事実

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

都市分野の専門家である木下斉さんによる「貧しい都民、豊かな地方民」の解説を聞き、自分でも「都道府県別の経済的豊かさ」のデータを理解しておこうと思ったのと、データを見ながら都内の生活と地方の生活について考えることがあったので、文章にまとめておこうと思います。

この放送を聞いたとき、実家の福井で2日過ごした後、富山で生活をしている妹家族の家に泊まっていて、富山の生活の一部を見て感じることもいくつかあったことから、「都民の自分と豊かな富山」という切り口で筆を進めていこうと思います。


都道府県別の経済的豊かさ

まず、本議論のきっかけとなったレポートは、国土交通省国土政策局が「企業等の東京一極集中に関する懇談会」の中で提示した「都道府県別の経済的豊かさ(可処分所得と基礎支出)」というレポートです。

「都道府県別の経済的豊かさ(可処分所得と基礎支出)」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001389727.pdf

上図で「富山県」を青枠、「東京都」を赤枠で囲ってみました。

所得の部

まず、全世帯(2人以上の勤労者世帯)の「可処分所得(=収入のうち、税金や社会保険料を引いた所得で、自分で自由に使える手取り収入)」を見ると、富山が1位の464,635円、東京は3位の436,475円で、この時点で富山県、ついでに私の出身地の福井県は、東京都よりも上位に来ていることが分かります。

ただ、この数字は、一部の突出して所得が高い人も含んだ数字となっており、基本的にそういう人は都内に出てくる傾向が大きいということで、トップラインががっつり上がっている数字です。

そこで、より現実的な数字での比較をするために「中央世帯(各都道府県における可処分所得上位40〜60%)」でランキングをまとめ直したのが右側部分です。
これで見ると、富山は変わらず第1位の420,262円、東京は12位まで落ちて392,716円となります。つまり、東京はトップラインの引き上げ効果が相対的に高い地域であるということがいえます。富山や三重の可処分所得が大きいのは、工業をはじめとしたモノづくり中心の中小企業が多いからとのことでした。

支出の部

次に、基礎支出(=食料費、家賃、光熱水道費の合計)を見てみます。
基礎支出のワースト1位は予想通り東京都で、199,372円。200,000円近くが家賃の支払、食料費、光熱費に持ってかれてるということですが、都内に住んでる私もここは近い感覚があります。

富山も意外に上位で、基礎支出 160,620円の第8位。富山では、持ち家主義で結婚したら多くの人が一戸建てを建てるのが普通で、20代でもバンバン家を買う価値観があるから、住宅ローンの返済が多くを占めているのでしょうか。

そして、可処分所得から基礎支出を差し引いた差額は、富山が第2位の259,642円東京は第42位の193,343円にまで落ちています。
つまり、中央世帯の差額を見ると、収入はあっても生活コストが高く手元に残るお金は、富山が東京よりも月々6万円以上高いということです。

通勤の機会費用

さらに、純粋な可処分所得と基礎支出だけでなく、通勤を機会費用に算出した時の数字の評価もされています。

東京は予想通り、通勤の機会費用は月58,142円で第1位、2〜4位も都市圏の県が並んでおり、まぁ予想通りです。富山は月22,252円で第22位となっており、月々の機会費用ベースでも3万円以上の差が出ています。
これを考慮した金額では、富山は第2位の237,390円、東京は最下位の135,201円で、東京に住んでる自分としては悲しくなる数字になっています。

生活の質にも目を向けてみる

富山で暮らしている妹家族は、小学校3年生と1年生の2人の子どもがいる家庭で、平日も含めて一泊させてもらうだけでも、都内の生活とのリアルな違いが多く見られました。

もちろん家庭によって違いはあるものの、妹の場合、職場は車で10分もかからない場所にある一方で、自分は片道1時間以上の満員電車通勤です。往復で考えると、毎日2時間近くの通勤時間の差があります。上述した通勤による機会費用が大きいのは納得できる結果です。

さらに、妹は旦那さんが富山出身の人で、実家も家から車で5分くらいの場所にあります。すでに旦那さんのご両親は仕事をリタイアされていることもあり、子どもが急遽風邪をひいた日は、車で連れて行って1日預けて仕事をしているとのことでした。

都内で子育て中の自分には無理な選択肢です。自分の両親は福井に住み、妻の両親は都内ではあるものの、電車に乗ってわざわざ預けに行くのも大変なので、両親に急遽預けるというのは難しく、自分か妻のどちらかがテレワークしながら家で子どもを見ていることになります。

うちはまだ子どもが3歳と1歳なので、子ども一人で時間を潰すこともできませんから、家にいることに飽きてくる子どもを見ながら、仕事をせざるを得ない状況になります。子どもの熱が出て急に呼び出し、となったら、私か妻のどちらかが迎えに行かないといけません。今は、私よりも妻が比較的テレワークベースの職場であるため、妻が何とか対応してくれている部分もありますが、妻も当然出社の日やテレワークでも都合がつかない日もありますから、また1時間以上電車に乗って保育園に迎えに行く、ということになってしまいます。

東京でのこの暮らしは、「子育てしやすい環境」と言えるのか?

経済的に豊かだという事実にピンと来てなさそうな富山の人たち

ちょうど富山にいるタイミングでこの経済的豊かさの話を聞いたため、富山の知り合いの方々にも実際に何人か話をしてみました。
しかし「自分たちが日本の中で、相対的に経済的に豊かであるという実感は、あまりなさそう」でした。子育て環境の話は妹にもしてみましたが、「富山では、土日に子どもたちを連れて行く場所がなくて困る」みたいに嘆いてました。
(東京であれ、場所はあれどどこに行っても混んでるし、地価が高い都心からは離れた場所に住んでいるので「土日子供を連れてく場所がない問題」は同様だと感じています)

他にも、「学校での学力が優秀な学生ほど『県外の大学に進学後、地元に帰ってきたい』と言って一度県外に出ると、そのまま就職して帰ってこなくなってしまう、学校での学力がそれほど優秀でない学生は、県外に出ることなく地元の中小企業に就職するも、それ自身にあまりポジティブな印象を持っていない人が多い」と話していました。

「高校から商業系や工業系の学校に通い、手に職付けた高卒・高専卒の人の方が、何となく時間を過ごしてしまうだけの4年制大学の卒業者よりも希少性が高いから、将来的に収入も上げていけるようになっている」はずですが、大半の方はそうは言っても国公立大学進学のブランドイメージは強く、就職でも都内を目指してしまう人が多い、と話していました。

前半に触れたレポート内容から、東京圏に来ても明らかにサクセスストーリーを掴めるのは一握りの人だけなのに、多くの人は過去のイメージに囚われて東京圏を目指してしまう。そこに認知の深いギャップがあります。

とは言え、実質的な経済的豊かさに差があるのは事実だし、それに気付いて場所を選んでいる人も少なくないはず。そういう人が徐々に増えて行けば、「みんな東京に行けば、経済的に豊かになる!」という幻想的な認知も徐々には変わってくるのでは?と考えています。

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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