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#353 金融機関における生成AI活用検討の現在地
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
11月に生成AIに関する企業向けワークショップを開催予定でして、各社や業界団体としての検討状況について、色々とインプットを行なっています。
この仕事は、職場で生成AIの専門部署にいるからとか、上から指示されたから取り組んでいるわけではありません。生成AIが業務の中で当たり前に使われるようになるのは時間の問題だと捉えて、自分のチームの仕事であると自ら定義し、関係者を巻き込みながら進めています。
個人レベルではChatGPTやPerplexity、CopilotやCanvaなどを使いながら、お客さんや協力会社の方などの身近な方たちと、現行業務に対して生成AIをどう活用するのか、という当たり前に会話する機会をとにかく増やす必要があると考えて取り組んでいます。
幸い、IT業界に勤めていることもあり、生成AIの専門家は近くに沢山いますし、活用事例に触れる機会も多く持てます。
社内だけでなく、社外を見ても様々な企業や業界団体の検討レポートにアクセスすることができるので、定期的にこれらのトレンドをまとめておくだけでも、生成AIに関する世の中の現在地をある程度は抑えることができます。
せっかくなので、ワークショップ向けに用意している話の一部について、頭の整理も兼ねて、ここでもまとめていきたいと思います。
今日は特に、生成AIの本格導入には慎重姿勢を取らざるを得ない一方で、業務内容としては生成AIとの親和性が高いと考えられる金融機関における生成AIの検討状況について言及します。
金融機関における生成AIの導入状況
先週、日本銀行の金融機構局が、国内金融機関の生成AI利用に関する調査結果を初めて公表しました。
大手行、地銀、信金など155の金融機関を対象に今年の4〜5月にアンケートしたもので、国内金融機関の3割程度が生成AIを利用しているとの結果が出ています。
試行段階や検討段階を含めると、8割以上の金融機関が利用に前向きな姿勢を示しており、残り2割弱の「施行・利用検討なし」と回答している金融機関は人材不足で管理体制が整備できないことを主な要因としています。
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生成AIの導入目的は、ほぼ全ての金融機関が「業務効率化・コスト削減」を挙げており、文書の要約・校正やシステム開発・運行管理を挙げています。
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具体的には、顧客との面談記録や銀行業務の専門書、マーケット情報の要約や、報告書の添削、融資稟議書の作成などです。
システム開発においては、ソースコード自動生成や設計書の整合性確認などが挙げられています。システム開発の分野において、個人的に最も生成AI活用が効いてくると考えているのは、いわゆるレガシーシステムで仕様がブラックボックスになっているシステムのリバースエンジニアリングの領域です。ソースコードを読みこませて設計書を吐き出してくれれば、たとえ8割程度の正確性であっても人間が一から解読してドキュメンテーションしていくよりも遥かに効率的に進められると考えられますが、まだここまでには至っていないようです。
実際に使ってみての評価は、「規定などの情報検索」以外の用途においては、「概ね期待通り」が大半となっています。
「システム開発・運行管理」については、「期待を上回る」との評価が相対的に高く、やはりこの方針での活用は色々とポテンシャルがありそうです。
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「規定などの情報検索」で「期待を下回る」が多く見られたのは、規定類は法令や他の関連規定やマニュアルとの繋がりが強く、「別紙参照」の形で記載が省略されることも多いことから、生成AIが全体像を理解するハードルが高いことが分析されています。
クラウド等の新技術が出てきた時もそうでしたが、金融機関は特に「新技術の利便性の追求」と「リスク対策・ガバナンス」のルール・体制構築を両輪で進める必要があります。
とは言え、国内金融機関の大半が、「生成AIの活用」に対してアレルギー反応を示すスタンスではなく、活用手段をポジティブに模索している点には可能性を感じます。
こういう話は「技術より技能」が求められますから、技術がいくら進展しても、それを使いこなす人間側の知恵や能力が付いてこないと普及は進みません。
もともと金融のような「情報」を扱う分野では、そもそもデジタルの親和性が高いというのと、それだけ人手不足や既存のビジネスモデルでは苦しい現状があるということであるとも理解できるでしょう。
同じように「情報」を扱う分野としては、「教育」なども該当すると考えていますが、現場の抵抗感は強く、「生徒が考える能力が落ちてしまう!」というような声も根強いと聞きます。今後、業界や組織間の「生成AI格差」はますます広がるという実感があります。
金融データ活用推進協会の生成AI検討
生成AIのような技術の導入が現場に浸透するかどうかは、個社対応ではどうしても限界があり、業界横断での検討が進むかどうか、が1つの重要な要素になると考えています。
金融機関における生成AI検討においては、「金融データ活用推進協会(FDUA、Financial Data Utilizing Association)」が、2023年7月に生成AIワーキンググループを立ち上げ、金融業界全体でのガイドラインの策定や生成AIに対する理解度深化のための勉強会を推進しています。
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https://www.boj.or.jp/finsys/c_aft/data/aft240521a4.pdf
本ワーキンググループが策定しているガイドラインとハンドブックでは、金融業界に特化した実践的な内容を目指しているとのこと。
従来型のAIと生成AIの違いといった基本的なところから分かりやすく整理いただいています。
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生成AIが最もらしい嘘をついてしまうハルシネーションや権利侵害等のAIリスク、金融機関が考慮すべきAI原則、規制等についても一通りまとめられていますが、特に私が注目したのは、生成AI活用の段階論です。
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上図の通り、レベル1では「アイデアの壁打ち」、「文章案作成」、「簡単なプログラミング」等、個人の業務効率化や発想に刺激を与える用途として利用するところからはじまり、レベル2ではRAGにより「社内ルールの問い合わせ対応、営業支援」等の特定分野により特化したアプリ構築の段階に進みます。ちなみにRAGとは、"Retrieval Augmented Generation"の略で「検索拡張生成」を指し、自社に蓄積された大量の業務文書などの社内情報や外部の最新情報から、信頼できるデータを検索して情報を抽出し、それに基づきLLM(Large Language Model)に回答させる方法です。
LLMで外部データを参照して回答するときの似たような概念として、RAGの比較対象になるのがファインチューニングです。RAGでは、ユーザからの質問に対して汎用LLMが都度外部データを検索するのに対し、ファインチューニングでは、あらかじめ外部データをLLM自体に学習させて特化LLMとすることで、都度外部データにアクセスしない点が異なります。
金融機関のコールセンター業務など、回答の仕方を定型的にしたいときにはLLMをファインチューニングしておく、業務や専門分野に特化した回答を優先したいときはRAGを実装するなど、用途に応じた実装手段があります。
話を戻すと、レベル2までが社内利用メインなのに対して、レベル3に移行すると「お客様向け問い合わせ対応」など社外向けサービスそのものに取り込み段階まで進みます。
いきなりレベル3の「生成AIチャットボット」の導入等までいかなくても、例えばトップ営業員の知見をAIアバターに学習データとして取り込ませて、社内接客研修として活用するとか、社内稟議書などの定型文書作成シーンでの活用など、活用のロードマップを踏むことで、利用者の心理的なハードルを払拭し、何が得意で何が不得意か、の実感値が持てます。
このステップを設計して段階的に進めていくのが実装に向けて関係者を巻き込みながら進めていく順番になると思うので、このあたりをベースに議論を深堀りしていきたいと思います。
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