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#360 売上向上のDXと、コストカットのDX

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

今月企画して行う金融機関向け生成AIワークショップのコンテンツ作成に当たり、先週、集中的に調査していた生成AIですが、色々調べてみると、次のようなことが分かりました。

・情報を扱う産業で、元々顧客接点が多い金融機関業務は、生成AI利活用の親和性が高い
・日銀が先月公表したレポートによると、国内金融機関が生成AIに関して何らかの利活用の取り組みを実施、検討したのは8割以上にのぼる
・一方で、国内の生成AI利活用の段階を「1. 個人利用 → 2.自社内利用 → 3. 顧客向けサービス活用」と置くと、3の段階まで進んでいるところは少ない
・生成AI利活用にかかる日米比較によると、米国で「新規サービスへの活用」を目的とする企業が多い一方で、日本企業は「業務効率化」目的が多い傾向
・知的就業者における生成AIの業務利用度の国際比較によると、世界平均が75%であるのに対して、日本は32%と低い水準
・低い理由は、「経営者の生成AIに対する期待感が低い」、「生成AIで何ができるかよく分かっていない」、「わかったとしても、自社の業務ユースケースに落とし込めない」など
・個人で生成AIについて学習しても、それを実践で活用する機会も少ないので、学習する人が少ない、学習しても長続きしなくなることも一因
・だから、林の現時点での総括としては、既存業務への影響を懸念して利活用に躊躇しがちな「既存業務の効率化」だけでなく、既存に影響が少ない「新しいサービス開発」の領域での生成AI利活用の会話量をもっと増やすことが、より必要なアクションだと考える

で、後半の「生成AI利活用が国際比較の中では低い理由」については、似たような話をどこかで聞いたことがあるなーと思ったのですが、それが2018年あたりから広く使われるようになった「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

日本ではなかなかDXが進まない、というのは、様々な分野で聞く話ですが、「そもそもデジタルとは何かよく分かってない」とか「デジタルを活用しようという経営者の意識が低い」とか「デジタルが何か分かってても、自社の業務ユースケースに落とし込めない」とか、上述した「生成AI」の部分を「DX」という言葉に置き換えてもそのまま成り立つくらい、普及が進まない理由が類似していると考えています。

だから、DXにおけるユースケース考案の考え方を用いると、みんなが頭を悩ませている生成AI利活用のユースケース考案のヒントもあるのでは?と感じるようになりました。

過去に聞いた梅澤高明さんによるインタビュー放送を参考にしながら、デジタル化のメリットやユースケースを整理する上での切り口を整理してみようと思います。

売上向上のDX

デジタル化にしても生成AI利活用にしても、それそのものが目的になることはありません。企業活動や自治体運営等の基本に立てば、黒字体質の組織になることが前提で、黒字体質の組織に必要なことは、事業活動を通じて「売上を上げる」か「コストを下げる」か、というところに帰結します。

梅澤さんが、遊びの予約サイト「アソビュー」を運営するアソビュー株式会社の山野智久さんと「観光DX」について話していたのが分かりやすかったのですが、ここでも「売上向上のDXと業務効率化のDX」を分けて議論が展開されています。

まず、山野さんがお話されている「観光産業における売上向上のDX」では、チケット販売、集客などのデジタル化が紹介されています。

観光業における集客の中心は、これだけ「デジタル化」という言葉が一般的になってきた現代においても、「観光協会にチラシを置く」とか「紙のポスターを貼る」になりがちです。自治体の広報誌も紙の冊子のところってまだまだ多く見かけますよね。

それを作っている側も、普段の生活の中では当たり前のようにスマホに代表されるデジタルガジェットを使っているのに「いざ集客しよう!」となると、昔ながらのポスター貼ろう!になってしまう。

毎年3万枚近くのポスターが刷られていますが、在庫として残ってしまっているのが現状のようです。当然、担当者もそれに気付いてはいるものの、過去から事業予算が割り当てられていて付き合いの長い業者もいるため、それが削られないようにしているなんて話がザラにあります。

当然、ある観光場所の認知を上げることは売上向上の第一ステップですが、直接的にその場所に来ないと認知できない紙のポスターなどの印刷物はリーチできる人の範囲に限界があります。

人が情報収集する時に使うデジタルチャネルで「見つかる」形に持ってくることで、売上向上を図る、という当たり前の考え方が大切。考え方自体はシンプルで理解しやすいものの、実態として紙のポスターや印刷物からデジタル側に集客の主戦場をシフトできているかと問われると、できていない地域や観光場所が少なくないのが実態ではないでしょうか。

コストカットのDX

コストカット目的では、観光協会のターゲティングの話になるのですが、デジタル化されていない状態では、観光協会や観光関連の担当者も「どういう人が来ているか曖昧にしか把握できていない」という課題が多いとのこと。

「多分、この沿線から来ている人が多い。6割くらい?」とか「見た感じ、家族連れが多いと思う」とか、正確な数字で答えられないケースが実は少なくありません。

だから、何となく把握している情報を根拠に、対象の沿線に広告を打ったりしているわけですが、10年前は確かにその住宅地から来ている人が多かったが、新しく高速道路が開通して、別の地域からの方が人が来るようになったとか、そのあたりの取りこぼしがあるらしいのです。

仮に、同じ1,000万円の広告費をターゲット地域でないところに投下したとしても効果は期待薄ですが、コンテンツがより刺さる地域にピンポイントで広告を出せれば、当然費用対効果が上がりますね。利用客がデジタル化されていることで、実は「A地域ではなくB地域からの観光客が6割」みたいなより正確な根拠に基づく投資ができるので、これまでドブに捨てていたような広告宣伝費の投資効果を上げることもできます。地味ですが、これってかなり大きい話です。

デジタル化の真価とは?

私がコストカットのDXで面白いと感じるのは、単なるコストカットだけでなく、「売上向上のDX」とも表裏一体であるということです。

例えば、これまで観光施設で人が行なっていた受付のチケット確認をQRコードにするだけで、省人化が図れるというのは、人件費削減だけでなく、空いた人がこれまで取り組めていなかった、人間ならではのよりアナログな付加価値サービスに移行できるということです。

私の考えでは、より付加価値が高く、顧客満足度を高める独自的な取り組みというのは、実はデジタルではなく、アナログな世界にあります

以前ご紹介した「一手間と工夫による売上向上」の話も、自然というデジタルとは真逆の世界で、人が知恵を出して敢えて一手間かけるから実現できる独自的な価値です。

デジタルとは、「その技術そのものが、これまで出来てなかったことの実現」と解釈されがちですが、私は「これまでは手間がかかり過ぎて出来てなかったアナログの深化」にこそ真価があると考えます。

  1. デジタルチャネル活用など、デジタルそのものによる売上向上

  2. 業務効率化、省人化によるコスト削減

  3. 省人化・自動化で空いた労力と時間で、一手間かかるアナログ価値深化による売上向上

という、3つの観点を切り口にすると、「ただ漠然とDXを考える」よりも、具体的なユースケース考案の議論が進むのでは?と考えています。

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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