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#397 「なんちゃってDX」から抜け出す思考。デジタル化の本質を考える (2/2)

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

前回からの続きです。

DX=デジタルトランスフォーメーションという言葉から本来連想される印象は、トランスフォーメーション=元の形がすっかりなくなってしまうくらい変容することです。であるにも関わらず、実態として「行政のDX」や「業務プロセスのDX」などの言葉が指している対象は「行政のIT化」や「業務プロセスのIT化」のように、単なる紙ベースの仕事を情報技術で置き換えた、くらいのものが多く、脱ハンコやリモート会議の導入くらいのものは、本来DXとは呼べないですよね、という話をしました。

今日も前回と同様、西山圭太さんの「DXの思考法」をベースにして、そもそもDXにおける考え方の転換というのは何なのか?を深掘りしたいと思います。
極めて聡明な論理展開で、本日ご紹介する「抽象思考」などもあり腑に落ちるには少し時間がかかるかもしれませんが、もともと難しい事象をここまで分かりやすくリードしてくれている文章はなかなかないと感じたので、気になる方はぜひ本書を手に取ってみられてください!

全てを抽象化から始める

前回の記事で、DXに本来必要な考え方は産業構造の変容であることについて紹介しました。

Beforeデジタルで日本企業の調子が良かった時代の産業構造は、業界や各企業がタテ割りとなっており、企業内で「熟練」という名の暗黙知を作ることが、他にはマネできない効率化や製造プロセスの改善に繋がり、競争力になっていました。一方、デジタルが得意なのは「ヨコ割り」ミルフィーユ型の業界横断型の課題解決であったため、これまでの戦い方は通用しない、ということです。

この「タテ割り」ではなく「ヨコ割り」での課題解決に必要な基本的な考え方が、「具体化の前に抽象化を」になるんですね。

西山氏の言葉を借りて表現すれば、「デジタル化は抽象化による課題解決」です。
つまり、目の前のAという課題に対して、A'という解決策をもって対応するのではなく、目の前のAという課題と、他のB、C、D・・・という課題に対して、一気に解決できるZという解決策をもって対応する、ということです。

具体的な課題に対して、具体的な解決策で対応する、というのは、タテ割り業界の世界線では上手く機能していました。日本がかつて成功していた時代には、目の前の具体的な課題に対して、より技術を深掘りし高品質化のアプローチを極めて対応するシーンが多かったのです。私はIT関連の仕事をしていますが、かつてのプロジェクトでは、いかにお客さんの要望を取り込んだ「痒いところに手が届くシステム」を高品質で期限通り作ることが最重要視されていました。

これは、タテ割りのところで述べたかつての暗黙知や熟練を組織内に秘匿することによる戦略とも合致してくる話ですが、個別にカスタマイズされた業務プロセスやシステムが蔓延っているのは、このような価値観が背景にあります。

一方で、SalesforceやServiceNowなどに代表される欧米のパッケージ型ソリューションでは、導入企業で個別カスタマイズを行わず、システム仕様に業務プロセスを合わせることがほとんどです。
これは、個社に特化した課題解決のプロセスではなく、最初から多数を相手に商売をすることを前提とした最大公約数のソリューションを提供しているということ。つまり、Aさんの課題、Bさんの課題、Cさんの課題の具体にアプローチするのでなく、一度抽象化された課題を一気に解決する「ギリギリまで標準化」された解決策になります。

なるほどと思ったのは、システムを導入する側の考え方として、例えばM&Aの際に、カスタマイズされたシステムを持っていることは、企業価値の低下に繋がるという考え方でした。

家をアナロジーとして考えると、都内の標準的な3LDK、4LDKのマンションの方が、個人好みに手が加えられまくった一戸建てよりも一般的にはリセールバリューが高くなりますよね。

独自にカスタマイズされたシステムを持つことも同様で、M&Aで獲得した企業に独自の業務プロセスやシステムがあると、その習熟のためにコストがかかるばかりか、下手すると全体の業務プロセスに統合するために、元々のシステムを捨てて新しいシステムを導入するためのコストが必要になります。

最初からN売りする思考

よくある横展開ソリューションの上手くいかない例は、はじめは目の前の一社のために個別最適を貫いて作ったシステムを、同業界の別のお客さんに展開しようとするアプローチです。
「はじめが具体」なので、後から別のお客さんの課題解決を図ろうとする時に、どうしてもカスタマイズしないといけない部分が大きくなり、「そのまま流用する」ことがほとんど不可能です。そのため、コストメリットを出すことができずに、「はじめから抽象」の競合に負けてしまうという構図です。

ドイツの優良な中小企業の話が紹介されていたのですが、彼らの戦略はまさしく最初からN売りする思考で「はじめから抽象」で商品開発していることです。
日本の多くの企業のように卸売業者をほとんど使わずに、世界各国に自らの営業所を持ち、直販体制を取っているとのこと。そこに派遣されるスタッフは、バリバリのグローバル人材ではなく、これまで海外など行ったことのない、生え抜きの社員とその家族だったりするらしいです。つまり、地元の中小企業で必ずしもグローバル経験が豊富な人が社員にいなくても、成立するモデルということです。

各地の販売スタッフは、各地域で営業活動を行い、個社の課題を吸い上げます。それらに対して個別に対応していてはとても企業体力が持ちませんから、いきなり具体の解決策を用意するのではなく、一度各地から吸い上げた個別の課題をドイツ本社で整理して、「ギリギリの標準化ライン」を定めて商品開発し、それを各地で販売するアプローチを取っているとのことです。

本来は海外に拠点を多く持っている大企業の方が得意な戦略に見えますが、M&Aなどで財務上は一緒になっていても、世界各地の課題を抽象化して「ギリギリの標準化」を追求できている企業は少ないように思います。
結局は、各地域で個別対応となっている現状も多い。本来「グループ内シナジー」と呼ばれるものが指す取り組みは「ギリギリの標準化」だと考えますが、ドイツの優良企業の話を受けて、そこにまだまだ伸び代があると感じました。

「ギリギリの標準化」から逃げない

「目の前の課題にすぐに飛びついて具体で解決しようとしない」が、DXの本質的で重要な思考になるわけですが、単なる課題の抽象化だけでは競合他社とは違いが分からないオリジナリティのない商品開発になってしまいます。
だから標準化しつつも、ギリギリまで個別要望にも対応可能な「ギリギリの」標準化が重要です。これには抽象と具体を行ったり来たりして、ギリギリラインを模索するしかないわけです。

本当は、欧米のように「標準ルールを作る側」に回れるのが一番強いですが、日本はその辺りがなかなか苦手だと感じます。ですがせめて「標準化を目指す商品開発」からは逃げてはならないなと。

日本では今のところ市場規模もそれなりにあるので、シンガポールや韓国のように「はじめから海外に売ることを前提」とした商品開発へのインセンティブが強くありません。
「英語が苦手だから」とか「海外標準がよく分からないから」で敬遠したくなる気持ちも分かるのですが、かつてあるシステムの国際規格の標準化設計に取り組んでいた経験からすると、標準化に必要なノウハウを持ったメンバーは育成可能で、自身も有識者になれることができる領域です。

私も経験ゼロのところから電文仕様の国際標準を学び、自分で他社に勉強会を開催したりしながら徐々に専門性を極めていき、自らシステム設計・実装して世の中にリリースしました。その後の展開活動の際、あらゆる国での営業先のリアクションは、国際標準していることが前提だったので、「グローバルスタンダード」に拘ることからは絶対に逃げてはいけないことを学んだ経験となっています。

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林 裕也@IT企業管理職 ×「グローバル・情報・探究」
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