山本正秀『近代文体形成史料集成 発生篇』(1978年、桜楓社):「序」についての覚書
山本正秀(1907-1980)は日本の言文一致研究、およそ近代文体の研究において避けては通れない先駆者である。茨城大や専修大で数多くの基礎的研究を残した。
私は院の先生に早く読むよう促されていたものの、なんせ山本の著作は手に入りにくい。最も手に入りやすい『近代文体発生の史的研究』 (岩波書店、1965年)と『言文一致の歴史論考』 (桜楓社、1971)しか読めておらず、晩年のこの「資料集」には手を出していなかった。
そうこうしているうちに、桜楓社が倒産してしまったという情報を聞き、これは、と思ってその日のうちに大学図書館に「史料集成」を取り寄せてもらうようお願いした。
これから、それを読んだ際に学び、かつ取り上げるべきと考えた題材について書き溜めたノートを少しずつ公開していくことになるだろう。
総じて、山本の研究は「史」ゆえか、進歩史観濃厚な記述が多い。例えばこの「序」についていえば、
ここには「近代文体」を「口語」に基づいた文章語と捉える、つまり「話すように書く」ものとの認識が述べられており、かつ、それが世界史上の趨勢であったとの評価が下されている。
その中で、私は「発達」「史上」「成功」などを進歩史観的な用語と判断している。
このような用語は多分に戦後文体研究の時代的制約下/潮流下にあるといえるかもしれない。20世紀も後半以降になるまでは、あまりこういった進歩史観的な記述への懐疑は生じなかったものと思われる。
そして、山本は本書で扱うそのような「近代文体」について以下の視点、定義を行っている。
(3)(4)は連動する問題であり、(6)(9)は重なり合うように見える。
前者については、同一の課題として見ることも可能ではなかろうか。
また、後者について、特に(9)は、作品を通じての文体普及という点で包括されているのかもしれないが、であれば(7)(8)とそれとはまたも同じ傾向を持つものとして了解されよう。(6)は修辞法という問題で独立するのがよい。
よって、山本の課題は大枠で見れば8つとなる。
いずれにせよ、「口語」に基づいた「近代文体」の確立が急務であったことから、近代文体史をとらえていこうとする態度の表明を行っているわけである。
そのような観点から、各種資料への解説を行っていることを踏まえておく必要があろう。
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