野球 遠投シリーズ4 私が見てきたもの・私の意見
遠投シリーズ3の続きです。今回は私がマイナーリーグで見てきたものと個人的な意見を書いていきます。
つづき
前回の遠投シリーズ3では選手・コーチ計4名からの返答だけでしたが、他にも遠投をしている投手は多くいます。
共通して言えることは毎日はしないこと、arcとpull downを分けること、その日の腕の調子で距離は変動すること、距離には個人差があっていいこと、ベースをつくること。
コーチからルーティンをつくっていった、とありました。これはとても大事で、若い時から自分にとっていい調子を維持できるルーティンを探し、つくっていきます。
キャッチボールのスケジュールだけじゃなく、トリートメントやセルフケア、リフティング、ランニング(アメリカではコンディショニングと呼びます。)なども含まれます。ルーティンがまだなければコーチや我々スタッフがサポートし、つくるよう促します。
また、コーチの返答にあったように、ルーティンは先発とリリーフ時代で違い、年齢やシーズンを重ねるごとにルーティンを更新していくことになります。必要なものは残して、新しいものに取りかえていく。
周りの”遠投”の形
離れていく時にarcで軽く投げ始め、その日の最大距離まで離れていく。
もちろん距離が伸びるにつれて強度は増えていきますが、arcで投げていくことによって徐々に肩が温まっていくわけです。
最大距離から近づいていく時、その強度を保ちながらpulling downしていく。
コーチのアドバイスでは20m前後に近づいたとき、アームスピードを保ったままチェンジアップを投げるドリルをする。またここでスピンフィールをする投手もいます。変化球を投げて指のかかりや感覚を確かめたりするドリルです。
上記でもあったように日によってはpull downをせず、近づくときもarcで投げるときももちろんあるわけです。それは自身のルーティンやその日の調子で決まり、選手自身が決めるのです。
遠投は悪じゃない
遠投は負荷がかかりすぎている、アームスロットが変わるといった意見があると思います。
前回の記事では120フィート(36m)以降は肘の負荷は増えませんでしたね。でもあくまでon a lineで投げた場合の肘の負荷だけでしたし、サンプルも多くなかったですね。なので絶対ではありません。
また、選手を通してAlan Yaegerさんと繋がることができ、先日インタビューする機会がありました。その時にarcで投げる時のアームスロットの変化の話もされていて30年以上のコーチ経験からくる意見は貴重でした。その時の内容は今度記事に書きます。
多くの選手が実際に遠投しているし、オススメしています。つまり、投手Bが言ったように”適切な”がキーなわけで、問題は別のところにあると私は思っています。
私の思う問題点
1. 個人差を無視
投手Cは300+フィートが彼の遠投の最大距離でしたが、これを読んでいるあなたは140フィートが最大距離かもしれません。どちらもおそらく〜90%maxほどの高強度(perceived intensity)で投げてるはずです。”最大”なんですから。
じゃあ何が最大距離を決めているのか。それは球速と同じようにforce productionやpower outputの違いだと思いますが、今回のテーマからズレるので、別の機会に書こうと思います。
結局、一人一人にあった距離を見つける時間と機会を与えないことで、キャッチボールの距離が遠すぎる選手・短すぎる選手が出てきてしまう。
そうするとスローイング時の負荷が高すぎる・低すぎるとなってしまい最適なアダプテーションを促せない。特に遠すぎる場合は、投球動作にも影響が出てくるはずです。
しかも、ほとんどの場合がしっかりとしたベースを作らず、はじめから”遠すぎる”距離で投げているのではないでしょうか。
個人差をリスペクトし負荷をコントロールしていくことが、肩を強くする・維持する要因だと思います。
2. アンダーリカバー
日本では多くの練習が高ボリューム・高頻度で行われているように思います。
10年以上も前ですが、自分が高校野球をしていたときもそうで、リカバリーなんてほぼありませんでした。
そんな状況の中、生理学を無視して遠投させていればいつか怪我をしてしまうでしょう。
しかも、選手のうまくなりたい想いはおそらく二の次になってしまい、ほとんどが”サバイバルモード”になるのではないでしょうか?
つまり、リカバリーなくして腕の強さは生まれないと思っています。これは肩・肘だけでなく身体全般の話でもありますね。
高強度の翌日は強度を下げて負荷をコントロールしましょう。トレーニングでも同じですよね。
3. 選手・コーチ間の関係
遠投するもしないも選手次第です。周りの多くの選手が遠投をすると言いましたが、しない選手もいるわけです。
そこには選手自身が自由に決められるカルチャーがあって、それをコーチがリスペクトしています。もちろんユース選手だったり経験が浅ければコーチの介入がもっと必要になるのは当然ですね。
コーチがアドバイスすることもあれば選手から質問することもあります。大切なのはコミュニケーションをとっていいですよ、とオープンでいることです。
選手からアプローチしやすいコーチでいるのはとてもいいことですよね。もし違和感や痛みが出た場合、正直に伝えることができて早めに対処ができます。
まとめ
多くの選手が遠投している。しない選手ももちろんいる。選手次第。
距離は人それぞれで、個人差をリスペクトする。
オフシーズン期間にベースをつくっておく。
ルーティンやその日の調子によって距離は変動するもの。そこもリスペクトする。
毎日しない。試合やブルペンなど高強度の翌日は軽い強度にしリカバリーを優先。
基本、離れるときはarcで、近づくときにpull downをする。でも、その日の調子やルーティンによってpull downしない日もある。
遠投は悪ではない。結局、負荷マネージメントがその個人に適切かどうか。Load → Recover → Adaptのプロセスを大事にする。負荷が身体のキャパを超えてしまえば怪我をする。
ということで、今回は選手・コーチの経験や主観と私の意見を書きました。遠投の知識の足しにでもなれば嬉しいです。
次回はAlan Jaegerさんから聞けたことを記事にしたいと思います。読んでいただいてありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?