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来たるべき記憶のために
「複製技術の進展により、芸術作品はその唯一無二性を失うが、新しい場で新しい人々に語りかける力を得る。」
ヴァルター・ベンヤミンがこう述べたように、写真は複製されることでその力を広げ、新たな価値を生み出してきました。しかし、インターネットやSNSが普及した現代、このパワーバランスは大きく崩れてしまったように感じます。
写真は今、これまで以上に簡単に複製され、瞬時に共有されるようになりました。その一方で、写真が持つ「窓」としての機能、つまり記録としての力や未来に語りかける可能性は、消費のスピードに飲み込まれ、無力に近い状態になっているのではないでしょうか。写真がかつて担っていた「定着」の力を取り戻すにはどうすればよいのか。この問いは、今の写真文化を見つめ直す上で避けて通れないテーマの一つだと感じます。
写真はどこへ向かうのか?
SNSの普及によって、写真はかつてない速度で撮られ、共有され、消費されています。一瞬の「いいね」を得た後、次々に新しい写真に押し流されていく現状では、写真が記憶に残り、未来に繋がる余地がますます狭まっているように思えます。
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かつての写真は、「窓」としての役割を持ち、記録としての力を発揮していました。それは、被写体の存在を証明し、その瞬間を未来に届ける手段でした。しかし、SNS時代の写真は、記録ではなく消費の対象へと変化しつつあります。その結果、写真が「未来に残る」ものとしての機能を失いかけているのです。
では、写真が消費の流れを超えて、未来に「定着」する力を取り戻すには何が必要なのでしょうか?次に、その条件を考えてみたいと思います。
写真が未来に定着するために
写真が未来に「定着」するためには、単に保存されるだけではなく、以下のような要素が求められるのではないでしょうか。
異なる時間軸の深さ
瞬間的な美しさやわかりやすさだけではなく、見返したときに新たな発見がある写真。今この瞬間だけでなく、時間を越えて価値を持つ写真が「定着」の鍵になるはずです。時代性と普遍性の両立
写真がその時代を映し出すと同時に、どの時代にも通じる普遍的な価値を持つこと。たとえば、今の社会を象徴する風景や、個人の日常の一コマが未来においてその時代の記録として読み取れるものは、未来に定着しやすいと考えられます。問いかける余白
消費されるための適度な没個性感に迎合せず、見る人がその写真の中に自分なりの物語や価値を見出せる余白。それこそが記憶に残る写真を生む力になるのではないかと思います。
写真の未来と生成AI
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複製技術の進化に加え、生成AIの登場によって、写真のあり方そのものが揺らいでいます。AIによる写真生成は、記録としての「窓」をさらに曖昧にし、新たな表現の可能性を開く一方で、私たちに「写真とは何か」を根本から問い直させる存在です。
生成AIが生み出す画像と、私たちが日常の中で撮る写真。その違いをどう捉え、どう使い分けていくのか。それを考えることは、写真が「未来に定着する力」を持ち続けるための新たな課題と言えるかもしれません。
未来に定着する写真へ
写真が未来に定着するとは、単に保存されることを意味しません。それは、写真が異なる時間軸で存在し、その時代の記憶や価値を未来に伝えるということです。そして今、生成AIやSNSという新しい技術を前に、その可能性がさらに複雑で興味深いものとなっています。
来たるべき記憶のために。写真が未来にどう定着し、私たちの時間を超えて語りかける存在であり続けられるのか。その問いを携えながら、これからも写真を撮り、考え続けていきたいと思います。
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