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年下君がうちに泊まってくれて嬉しかった話(前編)

休日、年下君と年下女子ちゃんと3人で映画を観に行った。

とにかく心身ともに落ち込んでいる年下君に少しでも元気になってもらうために、週末はめいっぱい遊ぼうねと年下女子ちゃんとも話していたのだった。

映画館で待ち合わせた年下君の顔つきはやはり疲れていたが、最近職場でなかなか会えなかったので、顔を見ただけで「ああ生きてる!よかった…」と心から思えてそれだけで安心してしまった。

映画が始まる前は「いろいろとすいません、計画してくれてありがとうございます」と申し訳なさそうにしていた年下君だったが、

この日観に行った映画がめちゃくちゃ面白かったので、終映後に目に見えて元気になっていた。

なんて可愛い人なんだろう。

3人で面白かったシーンの話をしながら映画館を後にして、次なる会場へと足を運ぶ。

すばり、私の家だ。

映画の後は夜ご飯をうちで食べてお酒を飲んでまったりしようと、そういう企画なのだった。

ちなみにこの日の私は、休日にも関わらずものすごく早起きした。
すべては部屋を綺麗にするために。

床に掃除機をかけた後雑巾掛けをしてしまえるものは全部見えないところへ避難させ、手洗い場も風呂場もしっかり掃除して、手持ちの服のなかから全員分の部屋着も準備した。(年下君は細いので私のでも着られるだろうと)

「あったら食べるかな」
と思って、ちょっとしたおつまみも2品ぐらい作っておいた。

(どこかで「簡単でも手料理を食べてもらいた」という気持ちが、あるにはあった)

年下女子ちゃんは何度か泊まりにきているけれども、今日ついに年下君がうちに来るんだ、と思うと緊張が走る。

さて、3人で最寄駅に降り立つと、スーパーで買い出しを開始。

今日のメインディッシュは、たこ焼きだ。

「みんなで集まるならやっぱりこれでしょう」と年下女子ちゃんと盛り上がたので、張り切ってたこ焼き用のプレートを購入しておいたのだ。

人様の家で"たこパ"にお呼ばれしたことはあれど、自分で主催したことはない。

ちょっと新鮮な気持ち。

「たこ以外にあれもこれも入れたいね」
と盛り上がりながら、いつも利用しているスーパーをみんなで練り歩く。

カゴを持って付いてくる年下君の前を歩きながら、「今ここに年下君がいること」の喜びを噛み締めた。

こうやってワイワイ買い出しするのなんて何年ぶりだろう。
おしゃべりしながら歩いて、私の家に到着した。

毎日乗り降りしているエレベーターは、3人で乗るととても狭い。
高まっていく謎の緊張感。

そして、ついに我が家へ到着。

「お邪魔しまーす」と二人の明るい声が響く。

「わーここが釜石さんの家かあ」と無邪気につぶやく年下君。
それを背中で受けながら緊張とニヤけでよくわからない表情をしてしまう私。

ああ、ついに年下君が我が家の敷居を跨いだぞ…!
という妙な感動に包まれていた。

もう慣れた年下女子ちゃんはてきぱき手を洗って荷物を邪魔にならないところに置いている。さすがだ。

年下君は私の本棚やブルーレイ棚を見ながら「はえ〜こんなの持ってるんすね」とつぶやいている。
趣味が丸見わかりで恥ずかしい。

暑い中歩いてきたので、みんなでちょっとお茶を飲んでほっと一息つく。

年下君が「僕も寝て帰っていい感じなんですか?」と今更なことを言ってきたので、
やっぱり女性の先輩の家だしメンバーも女性のほうが多いし、彼なりに気は遣っているんだろうなと思った。

全然良いよ、君が思っている以上に、家に君がいることが先輩は嬉しいんだからぜひ泊まっていってほしいんだよ…!

さて、だいぶ落ち着いたのでたこ焼き作りにとりかかる。

年下君はリビングで生地作り、私と年下女子ちゃんはキッチンで具材を切る係、と分業して、雑談しながら準備を進める。

諸々整ったところで、自称「たこパには慣れている」年下君が率先してたこ焼き器に生地と具材を流し込んでいく。

しかしホットプレート式なので、焼き上がるまではなかなか時間がかかる。

とりあえず買ってきたお酒で乾杯しながら、たこ焼きが完成するまでの「お通し」として、前夜に仕込んでおいた味付け煮玉子をお出しした。

一時期煮玉子作りにハマったことがあるが、今回のレシピは初めてだったので、内心ドキドキしながら「食べる?」と食卓に持っていく。

確か年下君がねぎ好きだったので、玉ねぎ長ねぎと一晩煮込んだ味玉だ。

「おいしい!」
と先に嬉しい感想をくれたのは年下女子ちゃん。
「もうこれだけでいいぐらい、おいしい!」
ちょっと照れる。ありがとう。

続いて年下君が実食する。
目を閉じうんうん頷いてから

「うーま!!」

という一声が飛び出して生きてきてよかったなと思った。

年下君が、私のこさえたおつまみを食べて、旨いと言ってくれた。

簡単なおつまみだろうととにかく作ったものをおいしく食べてもらえることほど嬉しいものはないのですね。

そのうちたこ焼きも焼き上がって、年下君が器用にひっくり返して、お皿にあげて調味料で仕上げてくれた。

こんなに綺麗にできあがるものなんだ。
ちょっと感動的ですらあった。

もちろん出来たては、おいしい。

映画とか漫画とか趣味の話で盛り上がりながら、たくさんたこ焼きを焼いて食べてお酒を飲んだ。

だんだん酔ってきたので「全員部屋着で楽に飲もう!」ということになり、みんなでTシャツとステテコ姿になる。

映画館で集まった時の「ちょっとだけお出かけ用のオシャレ着」よさようなら。

ちなみに、下に履かせるメンズ用のパンツ的な部屋着なんて持っていないので、年下君には比較的ルーズなスウェットを渡したら全然余裕で履けていた。華奢だ。

それから食べるのをストップしてゆっくり飲んでしゃべる時間がしばらく続いたが、
年下君は「なんかおなかすいた」と言うではないか。

やっぱり男性はたこ焼きだけだと足りないのか…!

と衝撃を覚えつつ、
「よっしゃ」と立ち上がってキッチンに向かう私。

たこ焼きの材料の余りの卵とキャベツと玉ねぎがあったので、炒めて塩コショウしてなんちゃってオムレツをこさえて年下君に持って行った。

ちなみにこの時、実はかなり酔いが回っていた。

酔っていたからこその行動力だったが、年下君に「おなかすいた」と言われると何か食べさせないとという気持ちに駆られるのだ。

ヒナに餌を与え続ける母鳥のごとし、だ。

酔って料理したのは初めてだったので今思い返すと大丈夫だったかなと非常に肝が冷えるんけれども、「うまっ」て言いながら平らげてたから多分大丈夫だったと思う。

ただしみんなで話しているときに「釜石さん、その話聞くの18回目です」とか「酔うといつもその話しますよね」とか「酔っ払った釜石さん本当に説明がへたくそ」とか散々年下君にツッコまれてしまったので、きっと誰よりも酔っていたのだろう。

年下君はといえば、お酒が弱いながらも頑張って飲んでくれていたが、緊張と喜びとでグラスが進んでしまった私の酒量には遠く及ばない。

気づいたら深夜3時とか4時とかになっていて、うわずーっと飲んで喋ってたなあとびっくりしつつ、「もう楽になりたいな」と思ってメイクを落としに行った。

落とした後に「あ、今日年下君いるんだった」と思ったけれども、落とすとやっぱりスッキリするので気分は晴れやか。

そういえば前日まで「すっぴんに見えるパウダーとかそういうの買っておいたほうがいいかな」とか迷ったりもしていたが、結局買い忘れてしまった。

最近暑くて億劫で日焼け止めとリップぐらいしかしていないので、多分ハタから見ても普段の顔とノーメイク顔とのギャップはそこまでない…

と思いたい。

なおすっぴんでリビングに戻ったところで何も言われなかったので、そもそも年下君は私のビジュアルに本当に興味がない可能性がある。

(年下女子ちゃんはいつもほぼ素顔で超かわいい)

時間もだいぶ深かったので、なんとなく、座椅子をフラットにして床で寝の体制に入る年下君。

ローテーブルをはさんでその向かいに年下女子ちゃんが寝転んでいたので、真隣ではないけれど、「床で男女が一緒に寝る図」が嫌かもしれないな、と瞬間的に思った。

思うやいなや、と物理的に離れたところに寝かせようという心が働いて
「年下君、そこじゃなくてベットで寝ていいよ」
と声をかけていた。

「え?いやいや、流石に僕だけベッド使うわけには…」
と戸惑う年下君だったが、
「年下女子ちゃんにもベッドで寝てもらうことあるし、全然使って大丈夫だよ」
と伝えると、
「じゃあ…」
とベッドに腰掛けた。

さて寝るのかしら、と思いきや、
「釜石さんてなんのサブスク入ってます?」
と年下君がいうので、テレビをつけていろんな映像サブスクサービスをザッピングしてあげた。

年下君はホラーが好きなので、ホラーのコンテンツを検索しながら
「いまどんなホラー配信してるかな」 
「あ、私これ好き!」
「僕はこっちですね〜」
「これ観たことないな」
「これは名作といわれているやつで〜」
と、目につくタイトルを見ながら映画談義が始まった。

好きな映画をプレゼンするときの年下君は本当に生き生きしている。説明も上手だ。

しかしいつのまにか年下女子ちゃんの声がぱたりと止み、顔を覗き込んだら思いっきり寝落ちしていた。

「いつも年下女子ちゃん急に寝るんだよ」
と笑いながら説明してあげると、
「ほんとに気絶するみたいに寝ましたね」
とびっくりする年下君。

さすがにここでもうおしゃべりもおしまいかな…
と思ったらそこから1時間ぐらい映画トークは続いて行った。

ひたすら年下君のおすすめを聞きながら、「面白そう!」とリアクションする謎のマンツーマンタイムを過ごす。

とても楽しかった。
年下君とこういう会話をするのが楽しくて、そもそも好きになったんだよなと思い返したりもした。

時計を見たらなんと朝の6時になっていて、「流石に寝よう!」と年下君はベッドへ、私はフラットにした座椅子へ、寝転がって目を閉じた。

これは起きたら昼過ぎてるやつだな─

と思いながら眠りについたのに4時間もしたら起きてしまった。

最近眠りが浅いのと、お客様が二人もいらしていることと、何より年下君が泊まりにきたことで緊張していたのだろう。

ふとベッドに視線をやると、
毎日私が眠っているベッドで、私の枕に頭を乗せて、私の掛け布団を首元までかけながら、すやすやと眠る年下君の姿があった。

なんって綺麗な寝顔なんだろう。

もともと綺麗な顔立ちの子だが、寝顔が美しくてびっくりした。

私のベッドで年下君が熟睡している、
その事実だけで幸福感で満たされた。

とりあえず二人を起こさないようにキッチンで食器を洗って、そっとシャワーを浴びに行った。

さすがにシャワーの音で年下女子ちゃんは完全に起きてしまったが、年下君はまだ眠ったままだ。

バトンタッチして年下女子ちゃんがシャワーを浴びている間に、スキンケアして髪を乾かす。年下君はドライヤーの音でさすがに起きてしまったが、まだしっかり起きるつもりはないらしかった。



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