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年下君がうちに泊まってくれて嬉しかった話(後編)

映画を観に行った帰りに、私の家に集まってたこやきパーティを楽しんだ3人。

翌朝、私がシャワーに行く音で目を覚ました年下女子ちゃんを「さっぱりするよ」と次のシャワーに行かせ、
その間にドライヤーで髪を乾かしていたらようやく年下君が起きた。

「寝れた?」
と聞いてみると
「寝れましたよ」
と寝起きらしく無愛想な年下君。

すやっすや寝てたもんね、見てたからわかります。

年下女子ちゃんがお風呂から上がったので、「年下君も入っておいで」と促すと、ぼんやりした顔でベッドから立ち上がった。

「歯磨きしなきゃ…」
とつぶやく年下君に、(前もって買っておいたので)「未開封の歯ブラシ、用意してあるよ」と声をかけると、

無言で携帯用の歯磨きセットを取り出して見せる年下君。

なんだよ

最初から泊まる気満々で持ってきてたんじゃん…!!

と不覚にも「そういうところも本当に可愛いな!」と思ってしまった。

シャワーを浴びてほかほかの年下君が戻ってくると、いつものスタイリングと違う濡れ髪の年下君にちょっとだけドキッとする。

それを誤魔化すように「化粧水いる?」と聞いてみたら「いる」と言うので、一式貸して差し上げる。

聞けば日常的にちゃんと化粧水と乳液は使っているらしい。
どうりでお肌は綺麗な方だと思う。

「ドライヤーもヘアオイルもあるよ」と次々に差し出すと、「ありがとうございます」と言いながら手に取って、慣れた手つきでヘアセットしていく。

へえ、そうやっていつもの年下君スタイルを作り上げていくんだなあ…

と、変身の過程を見つめる

のがバレないように、
年下女子ちゃんとお喋りしながら視界の端っこで網膜に焼き付けた。

起きてしばらくぼーっとみんなでテレビを見いたら、あっという間に昼過ぎになった。

「…焼きますか」
という年下君の一声を皮切りに、たこ焼きパーティ2日目が開幕。

誰も意を唱えない。

具材も大量に余っているし、そりゃあ翌日もたこ焼き作るでしょう、とばかりに動き出す。

「俺、今度は野菜切ってみたい」
と年下君が手を挙げるので、どうぞ、とキッチンに立たせてみる。

「普段全然料理しないけど、みんなの見てたらちょっとやりたくなりました」
と可愛いことを言う。

キャベツやネギをたくさん切ってもらった。

「上手上手!年下君丁寧だから料理もうまいかもね」
「せっかくだからこれから自分ちでも料理してみればいいのに」
ととにかく彼を褒める私と年下女子ちゃん。

年下君は照れくさそうにどんどん野菜を切ってくれた。

2日目はたこにとどまらず、その他のシーフードやらおもちやらチーズやらキムチやらをたくさん具として用意して、ガンガン焼いていった。

年下君のたこ焼きスキルは一晩でさらに向上し、瞬く間にきれいな丸を作り上げていく。

途中映画を再生しながらわいわいたこ焼きをつついた。
すごくリラックスできるいい空間だった。

窓の外に目をやると嘘のような快晴で、「お散歩行きたい!」「いいね!」なんてテンションが上がったのも束の間、
食事を終えるとみんないつのまにか眠りに落ちた。

気づいたら1時間ぐらいお昼寝してしまっていた。

先に目を覚ました女子二人で「いくらでも寝られるね…」とふにゃふにゃの笑顔を交わす。

年下君はまた私のベッドで、しっかり布団をかぶってすやすやと眠っている。
(冷房が寒かったようだ)

あー。

寝てる。

すごく可愛い顔しながら熟睡してる。

最近疲れていたから家でもそんなに眠れていないのか、それとも昨日今日ではしゃぎ疲れたのか。

とにかく私の家で、私のベッドで、
年下君が安眠してくれていることがとてつもなく幸せだった。

さすがに夕方になってきたので、「そろそろ帰ろうかな」と年下女子ちゃんが帰り支度を始める。

年下君は揺り起こしでもしない限り一生目を覚さなさそうだったが、足元をそっとゆすりながら「年下君、そろそろ起きよ」と声をかける。

「うーん」と寝返りを打ってまた布団をかぶってしまう年下君。

可愛すぎてどうにかなりそうなのを必死でこらえながら起こそうとするが、なかなか反応してくれない。

痺れを切らした年下女子ちゃんが、「私帰りますけど、年下君さんそのまま寝ててもいいですよ(笑)」と笑う。

「年下女子ちゃん駅まで送ってくるから、その間なら寝ててもいいよ」と私ものっかる。

「いやーそれはさすがに悪いんで…」
と目を閉じたまま答えてから、しばらくしてゆっっっくり起き上がる年下君。

まだ顔がぼーっとしていて、せっかくセットした髪もぴょこぴょこと寝癖がついてしまっている。

「…じゃあ支度しますか」
と誰よりも遅れて腰を上げる年下君。

本当にこのまま起こさなかったら永遠に眠っていたかもしれなかった。

(そして願わくばもっと寝ていってほしかった)

「いやー、久々に人の家来て泊まったみたいな気分だなー」
とボケる年下君に
「久々に人の家来て泊まったんだよ!」
とツッコむ私。

いつものリズムに戻ってきた。

3人で駅までゆっくり歩いて、「また遊ぼうね」と約束して解散する。

帰り際に「年下君、とにかくほんとに休んで、無理しないでね」と声をかけたとき、無意識に彼の心臓あたりにそっと手を置いていた。

実は年下君、少しハードワークを見直すことになり、私と仕事で絡む機会が減りそうなのだ。

だからもう私には身を案じることしかできない。

年下君は恥ずかしそうな悔しそうななんとも言えない笑顔で「…すまーん!」と答えた。

悪いと、思っているんだな。

全然君は悪くないよ、今は休息が必要なだけなんだよ。

このお泊まりだって、君のリフレッシュになったらこの上ない喜びだから開催したんだよ。

私はいつだって君の心身の健康を願ってやまないんだよ。

…と、心の中で強く強く叫んでおいた。

みんなが帰宅した後、たこパの最中にほろ酔いで撮っていた写真をそれぞれにLINEで送りつける。

年下女子ちゃんも「ほんとに楽しかった!」と満足してくれたみたいで嬉しい。

彼女がいると安心できるだけでなく、年下君がちゃんと来てくれるのでありがたいと思っている。

年下君からも、お泊まりのお礼と共に「元気出ました」と返事が来て、それが一番、嬉しかった。

年下君は相変わらず疲労困憊しているが、
「リフレッシュもしたいから、時々みんなで遊びたいです」
とLINEをくれた。

みんなで、だ。

それでいい。

君の安否がわかってできれば笑顔を見られたらもうなんでもいい。

二人で会えなくてもいい。

全然私のことを"そういう対象"として見ていないのももう気にしない。

私も年下君を"なんとかしよう"とするのはやめようと思っている、

今はゆっくり、生気を取り戻してもらうことが先決なのだから。

私のほうを見ていないとしても、他の誰かと会いたいがために私に「みんな」を招集させているのだとしても、年下君が楽しく過ごせるなら、私はなんでもしようと決めたのだ。

好きな人の世話を焼けるなんて最高じゃあないか。

いつでも頼ってほしいしめいっぱい甘やかしたい。

そのうち少しずつ疎遠になって私ではない人の手で彼が立ち直ったとしても、彼が幸せならもうそれでいいんじゃない?

できれば私の手で、せめて立ち上がるところまではお手伝いしたいところだけれども。

年下君が帰った後、彼が脱いで行った部屋着と、その上で熟睡していた枕とに顔をうずめて、泣きそうになるのを必死で耐えた。

確かにここに、年下君が居た。

ほんのちょっとだけ、年下君のいいにおいがする。

年下君、大変な時に遊びに来てくれてありがとう。

君は素敵な人だから、それで周りを幸せにしてきた人だから、きっとまた元気になれるしそこからまた周囲に幸せを振り撒くんだと思うよ。

次は涼しくなったら自然溢れるところに行こうね、みんなで。


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