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年下君と終日一緒は嬉しい、でも…というあれこれ

年下君が外仕事で一日出ていた日、
「今日は顔観られないから早くかーえろ」とやる気ゼロで働いて、「年下女子ちゃんももう帰ろうよ仕事飽きたよ」と残業中の人に無理やり帰り支度させて、エレベーターを待っていたところ扉が空いたら年下君が立っていた。

私と年下君の驚きの「おー!」が見事にハモる。

今日、帰ってこないと思ってたのに!

「大きい備品持って帰るの大変なんで、会社寄ろうと思ったんですよ」
と片付けを始める年下君。

目に見えて浮かれてしまい
「お疲れ様」「現場どうだった?」「別の人に大変だったって聞いたけど何かあった?」「困ったことなかった?」
と矢継ぎ早に質問してしまう私。

多分しっぽが生えていたら、ちぎれんばかりの勢いで高速フルスイングしていただろう。

「いやーなんか楽しかったっすね!」
と余裕の表情を浮かべる年下君。

おそらくそこまでの激務ではなかったのだろうが元気そうでほっとした。

年下女子ちゃんも帰り支度を終えていたので、これは3人で帰れるぞ!

とワクワクしていたら、年下君が

「一緒に帰りたいのはやまやまなんですけど、今日は友達とこれからご飯行くんで先帰ります!」

と爽やかに言い切って去ってしまった。

「おーいいね!おつかれ!」

とこちらもなるべく爽やかに返すも、正直落胆はしていた。

「じゃあ、私たちも帰りますか」

と年下女子ちゃんとゆっくりフロアを後にするも、年下君はまだエレベーターを待っていた。

「え、おっそ!階段で行きなよ」

ととっさにいじってしまうが

「いいじゃないですか!」と笑う年下君の耳にはワイヤレスイヤホンがはめられており、完全にオフな感じがして、ああこの子遊びに行くんだなあとぼんやり思ったりしたのだった。

外に出て途中まで3人で歩く。

年下女子ちゃんが「どこで待ち合わせしてるんですか?」とたずねると、年下君は

「すぐそこのスーパーで」

と返すとそのまま

「いやーなんかそいつ彼女に振られたらしくて呼び出されて、これから寿司食いに行くんです!」

と、遊びに行く理由までご丁寧に教えてくれた。

手を振って二手にわかれた後、年下女子ちゃんが

「弱った時に同性の友達に頼られるのって、いい奴ですよね。年下君さんそういう感じなんですね。ちょっと見直しましたよね」

とニヤニヤ笑みを浮かべて言う。

「うん、すごくいい奴だね」

と返したが、ちゃんと本音だ。

次の日、外出先で集合した年下君に

「昨日男友達4人で寿司行って〜」

と報告を受けた。

「男しかいなかったんだな」とホッとしている自分が確かにいた。

昼休憩の時間になると、客先の近くにある年下君が好きだと言う焼きスパゲッティ専門店に2人で繰り出した。

「昨日一日外でがんばってたからご馳走するよ」

と奢ってあげると「えー!やったー!」と嬉しそうに大盛りを注文してきたので、本当にかわい…


奢り甲斐のある後輩だなあとしみじみ。

ばくばく焼きスパゲッティを頬張りながら、最近私が年下女子ちゃんとばかり遊んでいることや、つい先日も2人で我が家で鍋パーティーをして朝まで飲み明かしたことなどを話す。

「それね、僕も行きたかったんですよ」

と言ってくれたので、

「またやるからおいでよ」

と伝えておいた。

それから、話の流れで年下君が実年齢より若く見られる話になり、

「友達にもよく幼いって言われるんですよねえ」

と照れと寂しさが入り混じった表情をされたので、普段ならゴリゴリにいじり倒すところを、ちょっとだけ真面目に答えてみることにした。

「でもそれって若々しいって意味でしょ、それは年下君のいいところだと思うよ。年下君がいると場が明るくなるし楽しくなるし。そこはそのままでいいと思う」

と割と本気で思っていることを伝えたが、真面目に答えたものの内心結構恥ずかしかったので、あまり年下君のリアクションを覚えていない。

(多分ばくばく食べてて返事も別にされてないんじゃないかと思う)

その後は、年下君にオススメされたアニメを早速観たのでその感想を告げながらアニメの話で盛り上がり、いつも通りの空気に戻った。

外出先での用事が終わり、会社まで電車に揺られる。

車内が思いの外混んでいて結構密着してしまったが、年下君はお構いなしに話を続けている。

もう私に遠慮は一切しないのだなあ…

と漠然と思いながらも、純粋に距離が近いのは嬉しかった。

とにかくたわいもないことを話して笑って、この子とならいくらでも話せるしちょっと沈黙ができた瞬間ですら、隣にいられるならずっと嬉しいなあとしみじみ思うのだった。

帰社するやいなや、溜まっていた仕事をひとつずつ片付けていく。

自然と向かい合わせに座る。

いま同じ案件に向き合っているから自然な形だが、毎日出社すると私の向かいに座ってくれるのがかなり、嬉しい。

そして対面なのでもちろん雑談はしてしまう。

いつもそれも楽しいのだが、その日は年下君が、ちょっと私がザワつく要素を放り込んできたのでなかなか味わい深い夜になった。

「この言葉、こういう言い方もしますよね?」

みたいな本当に何気ないきっかけだった。

「する」

「ですよね。でもこないだ3つぐらい下の…女の子とご飯食べてる時、その言い方知らないって言われたんですよ」

と、年下君が言う。

確かにそれはかなり古風な言い回しではあったが汎用性の高い言葉でもあるので、年齢うんぬんの問題ではないと思った。

「なんて言うんでしょうね、ジェネレーションギャップというかカルチャーギャップというか」

と言うので、思わず

「"教養がない"のでは?」

とバッサリ斬ってしまったが、

「まあぶっちゃけそうっすよね!でもやっぱ使いますよね、僕普通ですよね。聞いてみたかったんですこれ。いろんな人に聞いてみようかなー」

と、あまり気にはしていないようだった。

しかしもちろんそんなところは何の問題でもないわけで。

これまで、男女複数人で飲んだとか男友達がいる時にアプリですぐ会える女の子呼んだとか、そういう話はたまに本人から聞いていたので、またそういうのかなと思って、

「合コンでもそう言う話になるんだね」

と言うと、

「いや、合コンではない」

と返ってきたので


「あ、合コンじゃないのか。デートかーーー」

と、私はあからさまにがっかりしてしまった。

本当に、取り繕う間もなく落胆の声が出た。

一瞬変な間が空いたが絶対にこれを長引かせてらおかしなことになると思ったので、必死に「それよりこれなんだけどさ」と仕事の話ですべてを誤魔化した。

「はいはい」と年下君もすぐにモードを切り替えて、瞬時に仕事に戻れたのだけは良かったと思う。

彼女とも女友達、とも言わず「年下の女の子」と言っていたので、きっとまだ知り合ったばかりとか付き合いは浅いのだろう。

もし進展があったら、そういうのはドヤ顔で伝えてくるはずだし。

うわー相変わらず、私が一人で映画を観たり年下女子ちゃんと飲みまくっている間に、この子は女の子と遊んでいるんだよな!!

あらためて思い知った。

もう、私は何を思えば良いのだ…

ちょっと感情が迷子になっている。

明らかにダメージは受けたが仕事は完遂せねばならないので、またたわいもない雑談を交えながら作業を続けた。

先ほどの妙な間が嘘のように、お互いの冗談にケラケラ笑い合ったりしている。

いわゆる友人としての仲は本当に、良いのだ。

気付いたら結構遅い時間になってしまい、年下女子ちゃんはいつのまにか帰っていて、いかんもう年下君を帰さねば!と先輩スイッチが入る。

彼の残りのタスクと明日やるべきことを整理して、

「もう今やるのと明日朝やるのと一緒だから、そう言う時は帰りな」

と伝えるも、

「いや途中で放っておくの気持ち悪いんで、これとこれはやって帰ります」

と頑ななので、チェックのために一緒に残った。

なんとか彼の作業が終わり、さあ帰ろうというタイミングで「ちょっとまだ待っててくださいよ〜」と年下君が立ち上がる。

「タバコ?」

「タバコ!」

と喫煙スペースに向かい出す年下君。

それなら今のうちに…と

「これもう飲まないなら片付けていい?」

と彼のマグカップを手に取り給湯室で洗い始めると、

「えー!いいのに!すいませーん!」と言いながら体は喫煙スペースに向かう年下君。

何だかもう、彼の世話を焼かないと私の存在意義がない気がしたのだ。

マグカップを給湯室の戸棚にしまう(いつも彼のマグと私の湯呑みが隣同士でちょっと嬉しい)と、もう一人残業していた後輩にちょっかいを出しにいく。

カップ麺をすすりながらPCとにらめっこする仕事のできる後輩に声をかけ、テーブルに浅く腰掛けラフにおしゃべりを楽しむ。

話を聞いて、「私が年下君とふざけている間にこの子こんな苦労を…!」と思うことが多々あって、その子の愚痴を受け止める時間に変えたりしていた。

そのうちタバコを吸い終わった年下君が戻ってくると、後輩と私の間にスライディングするように両腕を伸ばし滑り込んでくる年下君。
疲れ切った彼がよくやる、リラックスと構ってほしいときのポーズだった。

「ねえねえ、後輩ちゃんすごい大変ななか頑張ったんだって」

と、伸び切った腕をちょんちょん突きながら教えてあげると、年下君も驚きながらその頑張りを称えている。

しばらく3人で雑談した後、まだ残ると言う後輩ちゃんに「お先に」を告げて、年下君と二人で駅まで歩いた。

冬が苦手な年下君、「今からそんな厚着したら1月2月どうすんだろう…」と心配になるぐらい着込んでいるが、それすらもかわいい。

やっぱりこの子かわいいなあ、と思って横を歩いていた。

またたわいもない話をして、「また明日ね」と手を振って互いに電車に乗って帰路に着く。


年下君がいると、私は機嫌が良くなる。

でも年下君が女の子と遊んでいる話を聞くと、どうにも残念に感じてしまい、いじるか誤魔化してしまう。

でも離れることはしたくない、なるべくそばにいたい。

いわゆる「そばにいられるだけで満足」というやつかもしれない。

…いやそんなことはないな、もっと個人的に仲良くなりたいとずっと思っている。

だけどとにかく、この元気でかわいくて幼くて快楽主義で時々危なっかしいこの子のことを、私は支えたくて守りたくてまっすぐ愛したくてウズウズするのである。

相変わらず、なんの進歩もない。

ただ私が日増しに好きになっているにすぎない。

「別の男性に目を向けよう」「他の男性とご飯に行ってみよう」運動も、何となく停滞している。

"気"の器が一つしかなくて、そこに年下君が収まってしまっていると、他人に目を向けることがとても難しい。

色々割り切れたら生きやすいのに、と思う。


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