Sweet like Springwater ⑥ (短編小説)
(Part1~5もアップしています。読んでみてください。笑)
6.
一、熱いフライパンにエクストラバージンオリーブオイルを注ぐ。刻んだベーコンを焼く。
油が大爆発して、少し火傷を負うかもしれません。この火傷は悪い報いではない。料理は恋と同じで、傷付くときもあります。痛くても、これは愛の兆候だと思い出して、痛みを愛おしく受け入れてください。
二、ボウルに卵、ローマチーズ、そして大量のブラックペッパーを混ぜる。
「大量」と本は強調してあった。
三、イタリアの伝統的なカルボナーラには、生クリームは使いません。弱火で卵がまだ滑らかでクリーミーの感触が残るように気を付けて焼きましょう。卵が固まったら、焼き過ぎです。
春香は料理書に書いた通りにパスタを作ろうと挑戦した。
この料理書の著者はユウリという日本人だった。ユウリは学生旅行でイタリアに渡航した。そこで、イタリア人の男性に一目惚れして、つむじ風のロマンスが始まった。大学を中退して、恋人と一緒に暮らすため、イタリアに家移りした。双方の家族の反対を無視して、二人は結婚してローマの小さなアパートで新婚生活しはじめた。その後すぐ、新婚夫婦はよく喧嘩するようになった。夫がユウリの料理が不味いと言うと、ユウリは腹立ってお互いに怒鳴り合う。この不幸なルーティンが続く暗い時期に、隣のおばさんが救援に駆けつけた。また、喧嘩してたよね。声が壁の反対側から聞こえたよ。大丈夫、大丈夫。あなたはまだ若い。正しい料理のやり方はこれから学べる。教えてあげるから、泣かないで済む。妻が料理だけできたら、夫婦問題の四分の三は消えていくから。そして、残った四分の一、それは妻が夫を言い負かせるもんだ。
このおばさんの弟子になり、ユウリはイタリア流の修行に励んだ。その間、二人は母と娘以上の愛情が咲いて、夫とは離婚してからも、まだ密に連絡をとる。そして、一年間の間に新しいイタリア人の男性が現れた。また一目惚れして、二回目のつむじ風のロマンス。出会いから一年、バツイチのユウリが再婚した。しかし、後添いの夫は優しくてちゃんとユウリを見守ってくれる人だった。尚且つ、夫は日本愛で、彼から日本に引っ越してレストランを開こうと言った。
ーそうです。実は、私の夫はシェフなのです。なぜ、夫の方が料理書を書かないのか?そんなのは笑い話です。この人は文を書くことがバカに下手だからです。イタリア語でちゃんと文章を書けないのに、まして日本語ではぜったい無理!料理ができなかったら、どんな乏しく暮らしてたんだろうと思う。喋るのは喋るが、パソコンの前に座ってタイピングするなんて、そのイメージを想像するさえ爆笑します。この人はネアンデルタールと近い人類ですから。日本語だって、二年間も専門学校に通ったのに、一人で電車の切符を買えることもできない始末。
そのお話はさておき、パスタに戻りましょう。
四、パスタをアルデンテに茹でる。卵に少しパスタ湯を混ぜるとやや美味しく出来上がる。パスタ湯は捨ててはいけない。ソースにパスタ湯を混ぜると、風味を加える上に、パスタとソースが接着しやすくなる。
春香は汗かきながら、料理書に書いたままカルボナーラを作り上げた。今まで、食べ物に興味は持ってなかった春香が、目の色を変えて、料理もしっかりしないと決意した。この本とユウリさんのお陰で。出来上がった皿はひとりで、おいしいおいしいと言いながらきれいに食べた。自炊するのが、こんなに楽しいとは知らなかった。少しだけ努力して、少しだけ意識してみれば、大きな違いに膨らむこと。買い物することも段々楽しくかんじた。前は、納豆と漬け物、いつも同じもばかり買ってたのに、この本を読んでから、いろいろ試してみたい気持ちが生じた。食材や調味料が頭にむやむや芽が生えてきた。レシピ―通りに作ると、必ず美味しくなるから安心。
尚且つ、手料理には余計な成分が入ってないから、健康的だというポイントもある。春香は食べるのが楽しいと思った次の瞬間、太らないようにしないとと考えた。なんで痩せてる方がいいのか?誰がそれを決めたのか?これなんか露骨な女性差別じゃないか?春香はそう瞑んだが、最後は何となく自分は必ず痩せたいと思った。
7.
春香の青春、空き時間はしょっちゅう音楽を聴いていた。No music, no lifeが座右の銘だった。大好きなジャンルはポップス、でもロックも嫌いではなかった。宿題中といい、怠ける時間といい、とにかく音楽がスピーカーかイヤホンから流れていた。この頃は、もう既にスマホ時代が改元したこととて、音楽はほぼネットを通して聴いていた。それでも、母から古いCDプレイヤーを受け継げたら、その後は小遣いを貯金してCDを買いまくった。CDプレイヤーにはCDコレクションが不可欠だと信じてた。
明るい曲、涙を流す曲、心を落ち着かせる音楽、癒しの音楽。心が求めるものは毎日変わったが、どんな感情も音楽は伝えてくれる。大海のように、天気は時によって変化するが、いつでも綺麗。それが音楽だった。歓喜の波、退屈の波、悲しい波、もろもろの波に乗って、気分が上がったり下がったり、揺らされてなびいた。
いつからだろう、あっと言う間に音楽を聴かなくなった。春香はある日そう呟いた。今なんか、カフェが流しているBGMぐらいしか音楽と接しない。
このマイナス傾向をひっくり返すように、春香はミュージックアプリをダウンロードした。まず高校時代に聴いていたアーティストを検索して、次は新しいアーティストの宝探しに出掛けた。特にアデルという歌手が好きになった。
カラオケは一度しかやったことがなかった。一番初めのバイト仲間に誘われた。でもその時は春香は浮いていたので、あまりは楽しく感じなかった。私はどこに行っても馴染めず、どんな地に到着してもいつも仲間外れだ。そう思った。でも、いつも一匹の子狼でなくてもいい。実情を変える力は自分にある。今まで寂しがっていなかったが、友達がいることは価値がある。そう反省した。
友達作りが次のチャレンジだと考えていたのか、カフェの事務所でいつものように休憩を取ってたら、手が勝手に動き始めて、スマホをバッグから出した。
突然で申し訳ございません。シアトルコーヒー店からのハルカです。先日、お手紙を頂戴しました。感謝を伝えたいと思っています。
考えず、送信ボタンを押した。寺山拓麿にメッセージを送ってしまった。その次の瞬間、雷のように後悔が天から降ってきた。自分が何をしたかよく分かっていなかった。手が勝手に、心が勝手に選択を決めた。最近、こんなことが多い。昔はもっと臆病で、自分を常にコントロールし、人の迷惑を起こさないように慎重だった。段々とゆるゆるになって、自業と自得を気にせず、安閑とした情勢で風が吹いたまま航海した。
でも、今回はいかにもやり過ぎだ。以前、メッセージを送らないと言ってたのに。なぜ、手紙を捨ててなかったのか。鳥肌が広がった。
数十分はやばいと胸がそわそわしてたが、悩みは長引かなく、春香はこれのこともすぐ忘れて、休憩が終わったら切り替えり、仕事モードのスイッチを入れた。多分、寺山拓麿は私のメッセージを無視するだろうと思った。その夕方、スマホを確認したけど、リプライは来てなかった。
次の日に、リプライが来た。
お手紙をお読みになって頂き、誠に有り難うございます。正直、何を言っていいのか分からない気持ちでおりますが、まず感謝を言葉にしたいです。私ははにかみ屋で、人を無視して、代わりに無視される、そんな人生でした。ハルカさんに届けたお手紙を書いた後、恥ずかしさに耐えなくてもうお店には行けませんでした。お店が悪いわという意味ではないです。コーヒーも美味しいし、雰囲気も落ち着くし、何回かお邪魔しました。コーヒーを飲んで、ノートパソコンで仕事に集中できました。手紙を書くという大胆な行動は、そのお店の穏やかな雰囲気に持ち去られたではないかと思います。昔の幼馴染に手紙を書こうと思い、百円ショップでレターセットを買っていたのですが、幼馴染へ書いた手紙は結局出しません。何を言いたかったのか自分でも分からなかったからです。そんなとき、カウンターの向こう側にハルカさんが立っていました。
初めてお店をお参りした日に、Wi-fiが繋がらなくて困っていました。そこで、ハルカさんが、たまたま隣のテーブルを片付けいたので、文句を言うように、どうすればいいのですかと話し掛けました。その時の態度はますます傲慢で、失礼しました。男性としては、パソコンで手伝ってもらうことは恥ずかしいことで、悔しい気持ちを抱えていたかもしれません。しかし、ハルカさんはとても親切にお手伝にきて、丁寧にログインの仕方を教えてくれました。ハルカさんのもてなしは今でも記憶に残っています。
その日、Wi-fiの繋がりだけではなく、もう一つの意味で助かりました。私はオンラインの仕事を長く続けたせいか、孤独感に苦しんでいました。一言でも話してくれると、心が本当にすっきりします。ハルカさんは誰よりも気持ち込めた挨拶をしてくれ、どんなに楽になったか伝えにくいです。ログインのお手伝いして、最後は笑顔で。この心配りに感動しました。どうか、恩返しをしたいと思ってお手紙を書きました。
少し仲良くなりたいと思っています。もし、都合が良ければ、どこかでお茶でもして、ゆっくり話せればと思います。
アイルランド出身の画家、Kayla Martellさんの作品をカバーの為に借りました。是非、マーテルさんの美しい描画をインスタグラムで拝見してみて下さいませ。