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最近のお気に入り:2021年リリース⑥
早いもので9月も下旬。あと一ヶ月もしたら早いメディアでは年間ベストを発表し始める時期が近づいてきました。今年はこんな感じで、好きだったアルバムをコツコツ書いてるから、年間ベストもいつもよりは楽に選べそうな気がする今日この頃。
では、8〜9月に聴いてたお気に入り新譜の感想です。
Little Simz / Sometimes I Might Be Introvert (2021)
リリースとともに各所で大絶賛されているLittle Simzの新作は、なんともまあ素晴らしいアルバムに仕上がっている。前作「Grey Area」もミニマルでコンパクトにまとまり、かつ尖った傑作だったけど、今作のその壮大な展開はまるで映画のようで、ヒップホップの枠を飛び越え、Prince、Lauryn Hill、Janelle Monaeの名盤と並べて語りたくなるレベルに良い。もう最初から痺れる展開で、M1のストリングスがガッツリ入ったインパクト大のイントロからグッと引き込まれたよ。また、今回のアルバムのプロデュースが(前作から継続して)SaultのInfloということで、どうしてもSaultとの相関は感じるところで、M2「Woman」ではSaultの一人であるCleo Solをフィーチャーしているし、ロンドンベースのナイジェリア人ミュージシャンObongjayarの存在感が半端ないM15「Point and Kill」もかなりSaultっぽく印象的だ。トータルでみて、Saultでの原始的でソウルフルなビートをストリングス等でゴージャスに装飾しパワーアップしたトラックと、それとは対照的なLittle Simzのクールなライムの親和性が半端なく、まさに年間ベスト級、現在の彼女の魅力を最大限に引き出した一枚に間違いないです。余談だけどアルバムタイトルの頭文字をとるとSimbiになり、これはLittle Simzの本名の一部を表しているそう。
quickly, quickly / The Long and Short of It (2021)
オレゴン出身の新世代ビートメイカーによるデビューアルバム。Gold Panda、Tycho、Mattew DearなどをリリースしているGhostly Internationalレーベル発ということで知りました。内容はといえばジャズ、ヒップホップ、サイケなどの要素をごった煮にしたビートミュージックで、madlibやJ Dillaからの影響を受けたようなイナタいビートと、(彼自身のボーカルの性質も要因の一つになっていると思うが)最近のTom MischやJordan RakaiといったUKビートメイカーが見せる優雅さの両方を兼ね備えたトラックが並ぶ。そんな組み合わせ方からはとても「今っぽさ」を感じ、インターネット経由で得た膨大なインプットを本当に上手にアウトプットしたような音楽だなと思う。個人的好みとしてはもっと汚く混沌とした音楽でも良いんだけど、いや、よくまとまっていると思います。
Tomu DJ / FEMINISTA (2021)
今年、追っかけていたカリフォルニアのプロデューサー、Tomu DJのアルバムがついにリリース!これまでBandcampで単発のシングルやEPをバンバンリリースしていたけど、こんなに早くアルバムまでリリースされるとは思っていなかった。なかなかの創作意欲だ。バレアリックでアンビエントなサウンドスケープとテクノ、ハウスだけでなくジューク、フットワーク、ガラージなどにも影響を受けたであろう多彩なビートが特徴で、これまでの作品同様、今作もかなり好み。基本、内情的なトラックなんだけど、時に激しいブレイクビーツを繰り広げる様からは、実は激しい生への渇望や今の世の中への怒りのようなものを持っていることを思わせる。これからの更なる活躍が楽しみ。
John Carroll Kirby / Septet (2021)
LAのキーボーディスト/プロデューサーによるStones Throwからの2nd。John Carroll Kirby自身については全然知らなかったんだけど調べてみると、Blood Orange「Freetown Sound」、Solange「A Seat at the Table」「When I Get Home」、Frank Ocean「DHL」、The Avalanches「We Will Always Love You」などなど、近年の超重要アーティストとのコラボレーションが多く、まさに時の人だった。今作はジャズ/ソウル/ファンクを下敷きにしたメロウなサウンドが心地良さMAXのアルバムで、ニューエイジ/アンビエント的な要素も強い。偏差値がとても高そうな音楽なんだけど決して頭でっかちな印象は受けず、シンセ、エレピ、ベース、パーカッション、フルート等が見事に調和している。優しい音楽を聴きたい時にとても重宝している。そこまで音楽に詳しくない友人宅でこれを流しながらビールを飲んでいたら「お洒落な音楽で雰囲気変わるな〜」と好印象だったのが良かった。
Various Artists / 2nd Life Silk (2021)
LAのアンダーグラウンドハウスレーベルで、Not Not Fun(今年、やけのはらのUNKNOWN MEの新譜をリリース)のサブレーベルである100% Silkの10周年を記念したコンピレーション。このレーベルからだとOcto Octaが一番有名なアーティストかな?本コンピはこれまでに一度もレーベルからリリースしていないニューカマー11組による11曲、69分のアルバムで、本レーベルの歴史を脈々と受け継ぐようなバレアリックで良質なインディーダンスミュージックがこれでもか!というくらい収められている。特に個人的に注目していたのは別のコンピでめっちゃ良かったSoshi Takedaの参加で、M10「Deep Breath」の和なメランコリアが特徴的なハウスでドンズバでした。
2012年に100% Silkのコンピをタワレコで視聴してなんとなく手に取ったのが本レーベルとの個人的な出会いだったけど(そんな出会い方もめっきり無くなってしまったな・・)、今作の当時から変わらないDIY的なスタンスとハウスへの愛、そしてこれまでの10年を総括するというよりは次の10年を宣言するかのような内容には好感度高いです。今後の作品もしっかりフォローしたい。
Low / Hey What (2021)
Lowは前作「Double Negative」とアルビニ録音の「Secret Name」を聴いたくらいで全然詳しくないんだけど、今作もぶっ飛んでるな〜という印象。前作で見られたアンビエント〜シューゲイズを行き来する鉄板のデジタルノイズは健在なんだけど、そこに厳かで歌心のあるメロディーが乗っかることでますますカオス味が増している。初めて聴いた時はこのアンバランス感に思わず笑っちゃったよね。M5のアンビエント+美声で昇天し、かと思えばM6で急に音割れしたノイズ+ポップソングが鳴らされる展開とか何度聴いても混乱し理解が追いつかない(褒めてる)。神々しい今年のアルバムといえばNick Cave & Warren Ellis「CARNAGE」を思い出すんだけど、Lowの今作もそれと並べても違和感ないんじゃないかなと思う。
DJ Seinfeld / Mirrors (2021)
スウェーデンのDJ/プロデューサーであるDJ Seinfeldの2ndアルバム。もともとDJ Seinfeldは2016年にネットにアップした「U」という楽曲がバズり、またAphex Twinが「Sakura」という楽曲をプレイしたことで、一気にローファイハウスの文脈で認知されるようになったよう。このセカンドアルバムでは初期からのローファイハウス感や北欧らしいメランコリアを残しつつも、UKガラージ等からの影響も感じさせるクオリティの高いハウスミュージックを楽しめる。ボーカルの使い方なんかからはBurialの優雅さを思い起こさせるが、全体的にBurialよりも親しみやすいので、あまりこの手のジャンルを聴かない人にとってもふとした時のBGMとしてよく機能するんじゃないかと思う。
Baby Keem / The Melodic Blue (2021)
Kendrick Lamarの従兄弟という情報に注目しがちだが、そんな触れ込みがなくても十分にイケてるBaby Keemのデビュー作。オートチューンを活用した歌とラップを行き来するスタイルは今回共演もしているTravis Scottを彷彿とさせる。トラップ(ドリル?)を一歩進めたようなビートがカッコよく、ビートの切り替えも切れ味鋭い。ケンドリックとの曲では、もちろんキングであるケンドリックのラップは当然際立ちまくっているんだけど(やっぱカッコいい)、Baby Keemも負けじと彼のスタイルでかましているなと感じ、なんか微笑ましい。サウンドやアルバム全体の統一感という意味ではまだまだ伸びしろがたっぷりありそうに思うので、今後が楽しみなアーティストリストにしっかりと記しておきたい。
betcover!! / 時間(2021)
Twitter上で話題になっていたので聴いたんだけど、どうもクセになる良さがある。中村一義?フィッシュマンズ?King Krule?ちょっと違うけどWool & The Pants?はたまたサウスロンドンのポストパンク勢?1999年生まれのヤナセジロウのソロプロジェクト、betcover!!の3rdアルバムはそんな90年代以降の宅録ミュージックの先人たちを思い出させる。漂うローファイ、スモーキー、ダブといった感覚に荒れ狂うギター、そこにのるヤナセジロウのやるせないボーカル。曲全体から尖ったエネルギーが溢れている。命をぶつけられているような気もする。才能に溢れた人はどう足掻いても目に止まるもので、ヤナセジロウもその類の一人なんだろうな。
自分も徐々におっさんになり諸々に対する感度が低下しているからか、新しい才能に興奮させられる機会というのも昔に比べると少なくなってきているのだけど、これはそんな貴重な機会の一つになったなと思う。