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最近のお気に入り:2021年リリース⑤

例によって、ここ2ヶ月くらいでよくリピートしてた2021年リリース作についての感想。これまでの記事は以下にまとめています。最近書くのサボってたから既に少し古い感は否めないけど、みんなフジロックとかに夢中だったしセーフですよね?

Tyler, The Creator / Call Me If You Get Lost (2021)

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これは完全に2021年の決定打ですね。シングルのリリースから間髪入れずに発表されたタイラーのニューアルバムは、これまでの彼の作品の良い部分を持ち寄って完璧なまでに融合させた傑作と言って差し支えないでしょう。Odd Future時代のタイラーのように重く歪んだトラックに吐き散らかすかのようにラップする曲があるかと思えば、M4「WUSYANAME」のようにFlower Boy〜IGORの流れを汲むような激メロウポップな曲を挟んだり、全体的に衝動と成熟のメリハリが効いていて全く飽きさせない構成だ。また、音楽的に進化しているというわけではなくあくまでこれまでの彼の音楽の集大成という感じなんだけど、とにかく彼の熟練の域に達したセンスが如実に反映されており、まークオリティが高い。「Call Me If You Get Lost(迷ったら俺を呼べ)」だなんて、本人も余程自分の作る音楽に確信があるのか、非常に頼もしく余裕を感じる。いや、本当に最高。

ちなみに、M9「MANIFESTO」ではフィッシュマンズの「Just Thing(8月の現状ver)」と同様、Jimmy Smith「I'm Gonna Love You Just a Little Bit More Baby」がサンプリングされているという嬉しい共通点があったり、タイラーのアルバムのM10は決まって組曲であるように今回もM10は素晴らしき二部構成だったり、そんなところも聴いていて楽しいぞ。

MIKE / Disco! (2021)

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Earl SweatshirtやNavy Blue(こちらも盆前くらいにしれっとアルバムが出てたね)と並び、ニューヨークのアブストラクト/アンダーグラウンドヒップホップシーンのトップランナーの一人、MIKEの新作。MIKEさんといえば自分の中でリリースするアルバムが大体ピッチフォークで8点前後を取得することで有名ですが、このアルバムも8.0点を叩き出すという、流石の立ち回りを見せてくれている。短いサンプリングをループさせて抑揚のないラップを聴かせるスタイルに変わりはないんだけど、過去作よりも少しだけトラックが優しく、キャッチーになったような気がする。あまりこの手のヒップホップを聴いてない人の入門作としても良いのではないでしょうか?

Mach-Hommy / Pray For Haiti (2021)

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Mach-Hommyはニュージャージーのラッパーで、過去には自分のミックステープを法外な値段(111.11ドル!)で販売したり、全然知らなかったけどこの人もなかなかの変人のようだ。このアルバムはブーンバップコラージュみたいな作品で、自分の中ではアブストラクトヒップホップの括りで捉えている。過去にはEarl Sweatshirtの曲に客演したり、トラックの提供を受けたりしているらしいから、その辺りのシーンとは決して遠くない存在なのは間違いない。

このアルバムは、ウワモノがフワフワしていたりジャジーメロウだったり一方ではダークで不穏な雰囲気だったりと結構多彩なんだけど、そこにMach-Hommyのどちらかというと太めで抑揚のない、ヘタウマなラップがとてもハマっていて、アルバムの統一感を出すことに成功していると思う。ビートが弱めなのもラップが印象的に聴こえる理由の一つなのかもしれない。ちょいちょい歌モノを挟んでくるのがさらに良い感じだ。なお、参考までにGriseldaのWestside Gunnがエグゼクティブプロデューサー&客演で参加(というかこのアルバム自体がGriseldaからのリリース)。ピッチフォークにウケそうな音楽だなと思ったら、やはり8.8点という高得点をつけていた。高い!

Angelique Kidjo / Mother Nature (2021)

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ちょうど非英語圏ベスト企画でその存在を知ったベナン出身のレジェンドシンガー、Angelique Kidjoのニューアルバム。Talking Heads「Remain In Light」のアフリカンカバー、サルサの女王Celia Cruzに捧げた「Celia」も素晴らしかったが、このニューアルバムもまさにアフリカの母なる大地のパワーを感じる力強い内容で、他のアルバムに負けず劣らず良い。異常気象やコロナ禍など、まさに自然の猛威に晒されている僕らだけど、この母なる大地、地球にて人類皆理解し合い、手を取り合っていくことを推奨する、非常にスケールの大きなアルバムだ。この包み込むような感じはキャリアが長く、ユニセフ親善大使としても活躍するベテランアーティストにしか出すことのできない味ですね。

Sault / Nine (2021)

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昨年、BLMとも関連する2枚のアルバム「Untiled(Black is...)」と「Untitled (Rise)」をリリースして、そのどちらもが各メディアで大絶賛、自分も年間ベストにどちらのアルバムを入れようか最後まで迷ったという、今ノリにノっている謎のバンドSaultのニューアルバムは、なんと期間限定(99日間、6/24リリースなので2021/10/1まで?)でのストリーミング配信、ダウンロード、CD販売らしい。ということで、最初はストリーミングで聴いて最近Bamdcamp Fridayに合わせて購入ました。

「NINE」というタイトルは、1枚目「5」、2枚目「7」に続くものと思われ、その意味はまあ凡人にはよくわからないんですが、音楽的には「Black Is」と「Rise」を経由して、より自由で(ブラック)ユーモアあふれるアフロビートポップスとなっていてかなり好みです。10曲35分というコンパクトさも近年の流れ(あと個人的なフィット感)に合っていて聴きやすい。昨年のアルバムのような「傑作」感は薄いけど、全体的なクオリティは高く、長く楽しめる佳作だと思う。個人的に特に好きな曲はブリブリのファンクナンバーのM2、Little Simzが異彩を放っているM8です。

Eomac / Cracks (2021)

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アイルランド人プロデューサーIan McDonnellのソロ名義Eomacによる強烈なアルバムがPlanet Muよりリリース。インダストリアル、ノイジーなトラックにキックがビシバシ決まる、かなりハードなテクノで、なんか音にぶっ飛ばされたい時にしばしば手に取っている。M2で聴こえるノイズ感はVladislav DelayのRakkaシリーズで聴けるような、自然の暴力みたいなノイズに近い。また、怨霊の叫びのようなM3、複数の魂が蠢いているようなM5などもかなり印象的。M7なんかはアルバムの中でも異質なトラックで、多少のメランコリックさやリズムの構成や音色がFour Tetみたいだ。タイトルのCrackはレナード・コーエンのアイデアである「亀裂(Crack)とは「光の入り方」である」という考えから来ているらしい。正直その真意はよくわからんが、なんにせよなかなかにかっこいいテクノアルバムだ。

Foodman a.k.a. 食品まつり / YASURAGI LAND(2021)

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元々ジューク・フットワークに強い影響を受けつつもその独自の解釈で圧倒的にオリジナルな音楽を発表していた食品まつりのニューアルバムはなんと、Kode 9主宰、Burial等でお馴染みのダブステップ系レーベルHyperdubからのリリース!幕の内弁当を模したアルバムジャケット、YASURAGI LANDというアルバムタイトル、「Omiyage(お土産)」「Michi No Eki(道の駅)」「Parking Area」「Aji Fly(アジフライ)」「Minsyuku(民宿)」といった、田舎の夏休みか!と突っ込みたくなる曲名からさぞ郷愁を誘う内容かと思いきや、そこは食品まつりさん、あまりそういった成分はない。どちらかというと日本の変わらない日常そのまんまを表現しているかのような素っ気なさと、一方では些細なことで小躍りできるような愉快さが滲んでおり、彼にしか作り得ない唯一無二の音世界が広がってる。ダンス・エレクトロニックミュージックのはずなのにベースが全く入ってないのがそもそも異質で、ミニマルな音の作りはRei HarakamiやCorneliusといったレジェンドたちをも彷彿とさせる。去年のEPはむしろハウスを意識して四つ打ちっぽかったのにね(それはそれでよかった)。M3「Michi No Eki」、M5「Shiboritate」ではギターなんかも効果的に使って新境地を感じるし、これはまた新しい食品まつりの一面を突きつけられたような良作だと思う。

Gruff Rhys / Seeking New Gods (2021)

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Super Furry AnimalsのフロントマンGruff Rhysのソロアルバム。もう間違いのないポップさ。良曲のオンパレード。90年代から活動するウェールズの鬼才のポップマエストロとしての才能は25年以上経っても全く衰えることを知らない。

このアルバムのジャケットはパッと見ると富士山みたいだけど、どうも中国と北朝鮮の間にある白頭山(ペクトゥサン)という神秘的な火山をイメージしているらしい。「Seeking New Gods」というタイトルは意味を考えるとなかなか強烈で、グリフ曰く「この時代に対する猛烈にダークなジョーク」だって。パンデミックとグローバリゼーションで分断される世の中を思うと笑えない・・。まあグリフはSFA時代からこんな調子で世の中の問題を皮肉ったり警鐘を鳴らしたりしてきたわけだけど、偉いのはいつだってユーモアと愛嬌たっぷりのポップソングでそれを訴えてきたところですよ。そんなグリフの態度に自分も含め、多くの人が惹かれてきただろうし、だからこそ彼の音楽は説得力を持ち続けるんじゃないですかね。

とにかく、このアルバムにもグリフ流のサイケデリックソフトロックが目白押し。特にお気に入りはホーンが印象的なM1と、歪ませたギターが最高のM5、まさにグリフ印なポップソングM6です。

Japanese Breakfast / Jubilee (2021)

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自分の中でのJapanese BreakfastのイメージってBeach House系列の霞がかった良質なドリームポップというものだったんだけど、このアルバムのM1、M2で完全にイメージが覆った。めちゃアタック感強くて煌びやかなシンセポップ。80年代のサウンドのように音色がとてもカラフルで、音楽を演る歓びに溢れているような、この鬱屈とした世の中を軽やかに踊り渡っていくような、そんな迫力を感じる。そもそもプロダクションとしてこんなに豊かで奥行きのあるバンドだったっけ?久しく聴いてないんだけど前作からの飛躍がなかなかに凄いなと。ミックスは前回の記事でも取り上げたJorge Elbrechtらしく、へーとなった。彼のアルバムも曲としてのフォーマットは普通なのに、その深みのあるサウンドがやばかったので、Japanese Breakfastの今作の音の良さも納得。韓国系アメリカ人らしく、どことなくエスニックな香りも漂わせてるのも良い感じ。

Sam Gendel & Sam Wilkes / Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs (2021)

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素晴らしい。近年、精力的に作品をリリースしているSam Gendelだが、本作は2018年のSam Wilkesとの名盤に続く第二弾コラボ。Sam Gendelの加工された哀愁漂うサックスとSam Wilkesのメリハリの効いた温かみのあるジャズベースの絡みがたまらないですね。Sam Gendelの唯一無二な感性はここでも光っていて、サイケデリック、ミニマル、アンビエントなど様々な要素が顔を覗かせてはまた別の要素に吸収されていき、捉え難くもついつい惹かれてしまう。そもそもSam Gendelの音楽って構成もそうなんだけど、サウンド自体が相当独特だよね。自分は機材とか一切詳しくないので何も語れることはないんだが、この人にしか鳴らせないサウンドがあるというか、一聴して「これ、〇〇の音楽だ!」とわかる人は強い。ちなみにM8でThe Beach Boysの「Caroline, No」が出てきたのは思わず笑いました。

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最近、新譜に限らず新しい音源を聴く頻度が落ち気味です。少しプライベートでやることがあり、なんなら本もさっぱり読めていない。音楽自体はほとんどの時間でかけているんだけど(これぞ在宅勤務の恩恵)、音楽に集中して聴けているかというと嘘になる。ただただ、再生回数が少しずつカウントされるだけの生活‥まぁひたすらに音楽を流して時間をかけて身体に覚え込ませる方法も案外嫌いじゃなかったり。

とかなんとか言ってる間に8月も終わり、早々に秋がきて、そして気がついたら年間ベストの季節がやってくるんでしょうね。本当に最近は時が経つのが早い‥。

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