子どもの創造性を引き出す3STEP in 東京学藝大学
東京学芸大学で先生のタマゴの先生をしてきました
東京学藝大大学の学芸カフェテリアで講義をしてきました。
学芸カフェテリアとは、平成19年度に始まった文部科学省と日本学生支援機構による「新たなニーズに対応した学生支援プログラム」(学生支援GP)の 初年度に採択され、創設されました。
テーマは『子どもの創造性を引き出す』です。
1コマ90分用のスライドを作ったので、貼りながら記事にしました。
(自己紹介の部分は省略✌️)
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さて、子どもの創造性を引き出す3STEPというテーマで考えました。
これが、非常に難しかったです、実は。笑
今日あとで紹介しますが、打ち合わせで話してたのは『創造性の3STEP』を教えるというものでした。だったんですけど、「これって別に、知っていたところで創造性を引き出すことにはならないよな・・・」ということに気が付いてしまったんですね。
講義を受けてくれているみんなの能力を引き出すことにはなるけど、それがそのままイコール、子どもの能力を引き出すことにはならないよな、と。
そこで新しく考えたのが、この3STEPです。
STEP1 創造性が何かを知っている
STEP2 創造性を使える
STEP3 創造性を引き出せる
まず、引き出そうとしているものが何なのか、これを知らないと引き出すことはできませんよね。そしてそれを自分自身が『使える』こと。
子どもの算数の能力を引き出すには、自分が算数を知っていて、それを使えることは大前提です。そしてその土台の上に立って、初めて算数の能力を引き出せるようになる。
創造性でも同じだと思います。
今日はこの3STEPで講義を進めていこうと思います。
まずはSTEP1です。
創造性とは何か、いきなり結構ムズカシイですが、
『これがそうですよ〜!』
と聞く前に、1度グループワークをしましょう。
はてはて、創造性とは、なんだ?
学生からあがった意見は
『自分の頭で考え出したもの』
『正解のないもの』
『作文は創造的だけど、読解は創造的ではない』
などでした、なるほどなるほど。
『学校の先生』として創造性を思い浮かべたときには、そういう視点で見るのだなと私も勉強になりました。みなさんはどう思いますか?
さて、次のスライド。
私が何かを言う前に、ちょっと見て欲しい動画があります。
講義の中で流したのは最初の40秒ほど。
これ、twitterでたまたま流れてきたのを見つけたんですけど、ちょっと感動するくらいいいアイデアだなって思ったんです。
これを見て私は
これを作った人はきっと、
『ああ、なんて風が気持ちいいんだろう』
と思ったんだと思ったんですよね。
なんというか、動画からでもその気持ち良さが伝わってくるじゃないですか。
これってすごいなと思うんです。
日本だと同じように感じた人が作ったのが風車や鯉のぼりなんだろうなと思います。
そして今回、小・中・高校の先生が、学生の創造性を引き出すことを考えたとき。
大事なのはきっと、「ロジック」や「マーケティング」のような、ビジネスワードが絡まるものではないんじゃないかと思ったんです。
小学生に収益構造を考慮したアイデアを出せなんて言っても、仕方ないです。
それで、こうした文脈を踏まえたうえで答えるなら、創造性とはこの3つの流れから生まれるものだと思います。
左から右につながっていきます。
4行とも全部同じことを言ってるんですけど、ニュアンスとして伝わるでしょうか。
さっきの動画でみた天井を作った人であれば、きっとこんな流れです。
あのお店の場所に立って
『ああ、なんて気持ちがいいんだろう』
って感じて。
そして
『ここは風が気持ちいいんだ』
と自分がそう感じた理由を言語化できて。
最後に
『どうしたら風の気持ち良さを表現できるだろう、他の人にも伝えられるだろう』
と考えたんだと思います。
そんなの当然じゃねぇか!!
と思うでしょうか。思いますよね。
でも案外この当然が、難しいと思うんです。
多くの自分が『感じる』だと思うことは、その前に
・雑誌で見た
・インスタで話題だった
・●●さんのオススメ
だったりします。
自分で何かを感じる前に、そう感じるための情報が頭の中に入ってるんですよね。
あそこに行けば『風が気持ちいい!』と知っている状態でそこに行って、確認をするように『(やっぱり)風が気持ちいい!』とやっていること、多くないですか?
同じように、自分が感じたものを言葉にするときの『言葉』も、
・誰かの言葉のうけうり
・みんなが言うから
・ネットで読んだ
のような、人の言葉を自分のもののように使ったり、ついついしがちです。
最後の考えるもそうです。
・人のアイデアをマネする
・これでいいだろう
・実際よりも大げさに
とかも、あります。
自分だけで何もないところから、『感じる▶︎思う▶︎考える』をできる能力って、難易度の高い能力です。
しかも、この3つの能力のバランスって、平等じゃなくて、今はこんなバランスで扱われている気がします。
最初と最後の『感じる・考える』が小さく見られていて、
真ん中の『思う』が過大に評価されている。
でも本当は、こんなバランスだと思います。
むしろ、最初と最後が重要で、真ん中のはそれほど重要ではないような。
グラフにするならこうです。
今までとこれからで、重要度の高い能力がひっくり返るんじゃないかと思います。
さて、ここのところはもう少し詳しく見ていきましょう。
詳しく見ていくために、3つの単語を
感じる▶︎EQ
思 う▶︎IQ
考える▶︎CQ
に置き換えます。それぞれ知能指数と呼ばれる指標です。
それぞれの定義はこうです。
EQ:自他の感情を正しく理解、活用し、良好な人間関係を築く能力
IQ:限られた情報を駆使して論理的かつ素早く1つの正しい答えに辿り着く能力
CQ:限られた情報から無数のアイディアを生み出す能力
さっきの文脈で整理し直せば、
EQは自分が感じたことを正しく認識する力
IQは認識した感覚を論理的に、つまり他者に共有可能な形にする力
CQは形にしたものを使って、アイデアを作り出す力
です。
ここではこの概念にこれ以上深く切り込んでいく時間は残念ながらないのですが、この3つの知能指数にはある特徴があります。
それはEQとCQは数値化することができず、また正解がないものを扱うこと。
そしてIQは数値化することができ、また正解があるものを扱うことです。
具体的に見ていきましょう。
なぜIQが数値化できるかというと、正解があるものを扱うからです。
IQを測定する問題を受けたことある人、見たことある人はいると思いますが、
例えば『何かの法則に基づいたて並べられた記号を見て、最後の空欄に当てはなまる答えを考える』みたいなやつです。
論理的に考える能力を測定するためのものなので、当然正解が存在します。
そして正解が存在するために、これはAIが最も得意な領域だったりします。
IQの平均が100、ある天才、例えばアインシュタインのような人物でも200くらいに対して、あるAIがIQテストを受けたら3,000を記録したそうです。
これって、私(木村)とボルトと新幹線が品川駅に並んで
『ヨ〜イ、ドン!』
みたいな勝負です。
私がまだ都内でゼイゼイしているときに、ボルトは新横浜に到達していて、
でもその間に新幹線は新大阪に到着している、みたいな勝負。
新幹線から見たら、私もボルトもほぼ誤差です。大して変わりません。
それに対してEQ,CQはというと
感情にしても、アイデアにしても、正解があるわけではないです。
なので数値化することもできない。
さっきの動画でいえば、風を気持ちいいと思おうが、不快だと思おうが、それは個人の自由です。正解/不正解で語れるものじゃありません。
もし風が気持ちいいと感じたとして、それを何かのアイデアとして形にしようとするときも、何が正解ってことはない。
先ほどの動画は1つの形かもしれないけど、あれ以外にも形はあるし、その数は無限にあります。
この2つの能力が、これから重要な人間の武器になると思います。
この辺りは話し始めると奥深いので、もし興味があればこちらの記事に詳しくあるのでどうぞ。
そしてさらに創造性や、アイデア創出に興味がある人は、私が昨年出した本もあるので読んでみてください。
(持っていったの完売しました!ありがとうございました🙌)
さて、ということで、創造性ってどういうことかイメージできたでしょうか。
私はこの3つの能力のつながりが創造性だと思います。
つづいて、STEP2です。
次は『創造性を使える』です。
ちょうどここで折り返しくらいなんですが、話を聞いてるだけだとつまらないと思うので、ここでワークを挟みます。
お題はこちら
考えるときは先ほどの、これを意識して考えてください。
10分ほどグループワーク&発表をしたあと、次のスライドです。
(発表内容は省略✌️)
ということで、香川県にある『くりや株式会社』という老舗のお米屋さんから頂いたものを持っていきました。
それがこちらです。
これなんと、お守り型とお札型のお米なんです。
(左側のお札米は、実物のお札と同じ大きさです!)
なんでも、お寺って地元の農家さんからお米を奉納されるそうなんです。
そこで食べきれなかったお米を送ってもらって、こうしてデザインしてお返しし、それをお寺からまた地元の方へ配っていただくと。
こうした風に、もらった人が何を『感じる』かを考えて、アイデアを考えることができます。
他にも企業のノベルティとしてこの平面に企業のロゴを載せたものを配布したりと、色々な使い方ができます。
そこで、少しびっくりした話を聞きました。
実は飲食店からは『お米屋は信用するな』と思われているそうなんです。
なんでも、(もちろん一部のお米屋さんですが!)最初に『このお米を納品します』と言って持ってくるお米と、実際に納品されるお米の品質に差がある、なんてことがあるそうです。
一方で、先ほどのノベルティはIT企業で採用されることが多いそう。
そこで先ほどの商品を見せたときに最初に聞かれるのは『広告会社の方ですか?』だそうです。
その時に『いいえ、お米屋です。』と答えると『お米屋さんなら信用できる!』と言って頂けるとそう。『お米屋さんが作ってるお米のノベルティなら、良いものに違いない』と安心してくれます。
同じものでも、見る人によっては見方が変わる。
つまりこういうことです。
どうしても、人間はバイアスを通してして世界を見てしまうということ。
そしてひとまず、STEP2を通してわかったことは、
ということです。
自分自身の感覚としての『感じる』
それを誰のものでもない自分の言葉で『思う』
そしてそれを元にして『考える』
これって、当然のものと思われがちだけど、すごく難易度の高い能力です。
さて続いて
最後の『創造性』を引き出せるに入ります。
まずは、これに注目です。
人にはバイアスがある。
これに関して、ちょっとしたゲームをやりましょう。
この動物にご飯をあげるなら、何をあげますか?
右に座っている人から順番に答えてもらうと、、、
葉っぱ、虫、にんじん、魚、野菜、ネギ。。。
ちょっとした混乱です。『隣のこの人は、何を言ってるんだろう…』状態。
(ちなみに読者のみなさんなら何を食べさせますか?)
これネタバラシをすると、だまし絵になってるんです。
右を向いてるのがうさぎ🐇
左を向いてるのがカモ🦆
同じものを見ても、同じものを見てるとは限らない。
今回は答えを言えば、『あー、確かに!』とすぐわかる。
でも実際は、一度ある見方をしてしまうと、自力で別の見方をするのはムズカシイ。
さて、同じような問題をもう1つ
この部屋にある『赤色』のものを、覚えられるだけ覚えてください!
(このためにこの日は赤いセーターを着ていました✌︎('ω'✌︎ ))
さて、覚えたら目を閉じてもらい、こう聞きます。
『この部屋にある青色のものをいくつあげられますか?』
3つ以上言える人は手を挙げて!と聞くと、誰も挙げられない。
人間って、見てるように思えても、全然見てないんです。
それは先入観を持って見ているから。
全体を見てるつもりでも、一部しか見えてない。
さらにタチが悪いのは
バイアスは誰しも持っている。
そしてバイアスを通して世界を見ている。
しかも、そのバイアスには自分では気が付けない。
ということです。
学校という場所で、先生と生徒でも当然バイアスはあります。
正しさ、真面目、成績、ほかの子は…、良い生徒とは、良い先生とは、普通は…
(成績を2つ書いてしまった。。)
先生は立場上、こういうバイアスがどんどん積み重なっていきます。
この間、成人式ぶりに中学時代の友達と飲みに行きました。
そこで担任だった先生たちの話になったんだけど、同じ先生の話をしてるのに、その印象が全然違ってびっくりで。
その友達は当時、結構やんちゃで、私はわりと真面目に生徒やってました。
すると、全然見えてる人物像が違ったと。(みなさんも思い当たりませんか?)
でもそれもある意味当然で、先生もバイアスを通して生徒を見てるから、生徒に対する接し方も変わってしまう。
みんなが『感じる』と思っている前の段階に、『先入観』というフィルターが入ってしまう。
私が思う、先生が子どもの創造性を引き出すために必要なチカラのひとつは、
『先入観に惑わされずに、生徒という人間をその人として見る。』
チカラだと思うんです。
だって多くの場合、先生のバイアスを作ってしまうのは『評価できるもの』だからです。成績とかね。
つまり正解が存在して、数値化できるものが先生のバイアスを作ってしまう。
でも創造性で重要な能力は、数値化できない、正解がないものです。
だから出来あがったバイアスを通して生徒を見ている限り、生徒の創造性を引き出すことは、本当の意味ではできません。
この『先入観に惑わされずに、そのものをそのものとして見る』ことって、実は禅が教えていることです。
ひとつの宗教が巨大な目的に掲げるくらい、先入観を脱することは難しい。
でもどうにかして、惑わされることなく生徒のことを見たい。
さて、ここで最後のグループワークです。
先入観に惑わされないためには、どうしたらいいと思う?
ちらほらと聞こえてくる、
ああしたらどうだろう、こうしたらどうだろう、でもそれって結局は先入観で見てるってことじゃない?
といったやり取り。
自分では認識できないものに惑わされないためにできることは何か、というお題に、完全に小さな禅問答が生まれていました。
出てきたアイデアはまさにその通りという感じ。たとえば、
・授業中に席を立ち上がった子がいたとしても、それを見て『授業を邪魔された』と考えるんじゃなく、『あの子が席を立ったな』と思うようにする
これは事実と解釈をきちんと区別するってことですよね。その通りだと思います。
・自分だけの解釈で生徒を判断するのではなく、他の先生にも聞いてみる
これは自分のバイアスがあるのは仕方ないから、他の人からどう見えるかを聞くことでバイアスを相対化するってことです。これもその通りだと思います。
まとめとして、私が考えた、できることはこれです。
まずは、自分が先入観を持っていることを自覚する。
自分ではそれが何かわからないけど、確実にそれはあることを知っておくことです。
そして、人と自分は本当に違うんだと知る。
自分と相手は違う人だ、とは知っているけれど、どう違うかはわからない。
自分だったらどうか、を基準にしか相手のことを考えられないんです、みんな。
さっき答えてくれた例で言えば、席を立つというのは『自分が立つとしたら、授業を邪魔しようと思ってする。もしくは、授業の邪魔になるから立たない。』ということです。
でもそれは自分だったらそう思うというだけで、その子がそう考えているとは限らない。相手は自分とは違うんだから、自分を基準に理解することはできないことを知らないといけない。
3つ目が、『本当にそうか?』と自問自答をやめない。
『ある日の真実が、永遠の真実ではない。』とは、私が尊敬するチェ・ゲバラの言葉。
あるときの正しい判断が、次のには間違った判断になりうるってことです。
何より、人は変わる。
だから自分たちにできることは、せめて、自問自答をやめないことなんじゃないかと思います。
これってすごい疲れるんですけどね。
どこかで答えを決めて、それ以降は何度も繰り返し考えることを省いたほうが圧倒的に楽です。でも、それをしてしまった途端にバイアスから抜けられなくなってしまう。
ということで、STEP3は終わりです。
ここからまとめ!
ということで、今までのスライドダイジェストを早送りで流しながら復習。
ということで、
ありがとうございました!
実際の講義は時間通り19時には終わったんですけど、このあと質疑応答になり、40分ほど延長戦をして講義を終えました✌️