不可逆的な彼女、現代的な死

目の前にいる彼女は、一旦蜻蛉に成りかけた。あの毒針を持つ、獰猛な雀蜂を捕食する蜻蛉に。一秒後に彼女に戻っていた。いや、戻ったのではなかった。一瞬蜻蛉に成って、またすぐ彼女に成ったのだった。彼女は相変わらず裸で、天井から引っ張られているように立っている。一枚彼女を撮った。次は一旦ピアノ用の椅子に成りかけた。喜怒哀楽を空気の振動に乗せる、あのピアノの隣にある椅子に。今回は蜻蛉の時より少しだけ、長い間成っていた。しかし直ぐに彼女に成った。彼女が裸であることは重要だった。また一枚彼女を撮った。今度はコーヒーとボールペンにかなり成った。それはアラビカ種とuni•ball SigNo DX 0.28だった。少し飽きるくらい、彼女は長い時間成っていた。しかし正確には、それは彼女ではない。気づいたらコーヒーとボールペンは、彼女に成ろうとしていた。コーヒーとボールペンが半分づつの彼女に成って、それが更に一つの彼女に成った。もうそろそろだと思った。 最後に一枚彼女を撮った。彼女は彼に成った。彼女は完全に彼女ではなかった。成りかけたのではなく、成ったのであった。もはやそれは彼であり、彼が彼女である必要はなかった。彼は彼であり、彼女ではない。彼女は熱的死を迎えた。

終わり

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