匂いのキオク
わたしの前世はきっと犬ではない。
世の中には「香りとともに思い出が蘇る」という人がいるようなのだが
わたしの鼻はそんなに優秀ではない。
過去の思い出を香りで記憶しているだなんて。
みなさんの鼻はとんでもなく高性能なのだ。
わたしの鼻の記憶はあまり役に立たず鼻炎にもなりやすい。きっと前世は犬ではない何かか、落ちこぼれの警察犬で、その時のおいしそうなパンの匂いなどにつられてしまい犯人にはたどり着かないのだろう。
どうりでワサビが苦手なわけだ。（鼻ツン系が苦手）
匂いの記憶を維持する機能が備わっていないため
「香り」に関しての記憶があまりない。
過去の恋人が使っていた香水とかまったく覚えていないので、どんな匂いを嗅いでも瑛人のように誰かを思い出すことはなく
自分が使ったことのある香水の香りもピンと来ない。
頭に浮かぶのは記憶ではなく
その匂いが、好きか、嫌いか、だけなのだ。
香りの記憶はないが、自分が使っていた香水の名前は覚えている。
高校生のときに香水デビューをしたのだが
甘ったるいのやムスク系などのいかにも香水です、という匂いが苦手だったので
デビューに選んだのはジバンシィのプチサンボン。
さわやかなシャボンの匂い。
その当時、月に何冊も雑誌を読んでいたので
あちこちで香水の情報を目にしていた。
違う香りに興味が出てきたわたしが、バイト代を貯めて次に購入したのはニナリッチのレベルドゥリッチ。
トマトの香り。トマトというめずらしさに好奇心が前のめり、そしてすっきりとした爽やかな香りが好みだと思った。
他に興味が湧いたのはイヴ・サンローランのベビードール。「恋が叶う」的な謳い文句で大流行。香水は恋愛に絡みがち。
ベビーパウダーのようなかわいらしい甘い香りで好きな人を振り向かせるべく、わたしも購入したのだった。
他にも、恋人からもらったり、お土産でミニサイズをもらったり、
おそらく7〜8本は家にあったと思うのだがほぼ使えずだったので覚えていない。
当時のわたしは香水をつけると大人の仲間入りをしているような気持ちになり、それはとてもうれしかったものなのだが、強い匂いに酔ってしまったり、体調にも左右されたりと使うのをやめてしまう。
少しだけ中身の減った個性豊かな形のそれらは
部屋を彩る素敵なオブジェと化していて
大人の仲間入りへの道のりは遠かった。
結局はシャンプーの匂いが最強なのではないかと今でも思っている。
誰も嫌な気持ちにさせないもんね、シャンプーは。
全身サラサラを目指して、部活後にいつも使っていたシーブリーズ。
近頃わたしたちはいい感じ〜♫と自画自賛せずにはいられない、ティセラのシャンプー。
中学生のときに流行ったそれら青春の香りは、もちろん覚えてはいないのだが、“大人の香水”よりも丁度良かったように思う。
きっとわたしはさわやかな空気に包まれたいだけなのだ。
良い香りだけではなく、くせになる香りもある。
子どもの頭の匂いは成長とともに変わってはきたけれど（最近汗臭い）定期的に嗅ぎたくなるし、
臭いと分かっているへそのゴマを嗅ぐのもやめられない。
本屋さんのインクや紙の匂いも好きだし
除菌シートの匂いも好き（やばい？）。
ガソリンのにおいはどうも苦手であるため、ガソリンスタンドに行くと必ず息を止めている。子どもの頃からそうなので、手を使わずに息を止めて喋るのはなかなかのベテランの域なのではと思っている。
記憶がなくても良い匂いは好きだ。
なにより良い匂いをほんのり醸し出す女でいたい。
それは香水ではなく、柔軟剤だけでもない、ちょっとだけふんわりと香るのが理想で
ボディミストやハンドクリームを気分で選んでつけている。
6月の父の日、わが家は毎年夫にプチプレゼントを渡す。子どもたちに手紙を書かせ、わたしからはお菓子の詰め合わせとか、お酒とか。最近はそういったものが続いていたので
今年はふらっと寄ったLOFTで探すことにした。
保冷グラスや、ミニ扇風機などが並ぶ中
目に入ったのは冷感ボディミスト。
PROUDMENのスーツリフレッシャークールスプラッシュ。スプラトゥーンの武器にありそうな名前。めっちゃいいやん。これに決定。あとはオマケのお菓子をポイポイと。
あなたの匂いが気になるから使ってね♡てことではない。ほんまに。たぶん。身の回りでほんのり良い香りがするとわたしの気分が良いだけだ。
夫も、ほぇー！やったぁ！と喜んでいたので父の日のプレゼントはまあ成功したと言える。
（実は夫の汗の匂いも嫌いではなかったりする。笑）
もし夫が毎日それを使ったとしてもわたしはふんふんと嗅いで満足するのみで
それを記憶することはなくあっさりと忘れてしまうのだろう。
去年何あげたかな？と渡したことすら忘れていて
またLOFTをウロウロする未来しか見えない。
MOTONのヘア&ボディミスト。
梅雨に負けず醸し出すのだ。