02 : 涙とレモンの夏模様
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※曲はすべてお借りしています。
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夏休みに入るとたまに30℃を越える日があって
暑い、暑いと言っていたけれど
九州のおじいちゃんちはもっと暑い。
長い夏休みはおじいちゃんちで過ごすことが多かった。九州の田舎であるそこには何もなくて、毎日暇をもてあましていた。
近所に遊び相手はいない。しかたなく弟と一緒に市民プールに行ったり、図書館に行ったり、そのへんの草むらをウロウロして、暇をつぶせるようなトキメク何かを探す。いや、探してもいないか。何も考えずウロウロしていた。あの頃は時間が無限にあったから。
暑いといっても当時は今みたいな猛暑ではないためずっと外で過ごしていて、日焼けして手も足も真っ黒。その頃は日焼けをするのがステータスだった、
夏模様のわたしの心。
おじいちゃんちでは、おばあちゃんがよく魚料理を作ってくれる。
鯛のおさしみや鯵の南蛮漬けがおいしくて、来るたびに楽しみにしていた。
畳が敷き詰められた居間にはドンと大きな机が置いてあり、隅にある小さなテレビは夕食がはじまる前からついている。おじいちゃんが新聞を開きながら見るためだ。
おじいちゃんはとても背が高く、太ってはいなかったのだが、あぐらをかいて座る背中がとても大きい。ニコニコしているが口数は少なく、怖い人ではないけれどいわゆる昔の九州男児といった感じで、食事の準備が揃うまであぐらは全く崩れなかった。
この時間は、例え孫だとしてもテレビのチャンネル権はない。
おもしろくないテレビを見ながら、おばあちゃんのおいしいごはんを食べる。
お風呂あがりには、母が冷蔵庫を開けてデザートを出してくれた。
サクレレモンのアイス。
ひんやりとした甘酸っぱいレモンがお風呂で温まった体に染みる。扇風機とサクレがあれば無敵の夏。たちまちテレビよりもかき氷の上に乗ったレモンしか目に入らなくなる。
チャンネル権のないテレビは面白くない番組ばかりだったが、たまに流れる映画のとき、それがおもしろいとラッキーだ。ホラーだと諦めて寝るしかない。だってこわくて寝れなくなるし。おじいちゃんちの2階の部屋は、畳で、広くて、風の音がよく聞こえて、ほんの少し怖かったから。
レモンの周りのかき氷をシャリシャリとすくっていたら、テレビから聞こえてきた音楽に手が止まった。
テレビの中で、男の子が泣いていた。
豊かな自然の田舎の風景と、泣いている男の子。
ゆったりとしたその曲はその映像に何の疑いもないくらいぴったりと当てはまっていたのだった。
くぐもっているのに伸びやかな男性の歌声。優しい声。なんだか、もらい泣きしそう。
ちゃんと見ていなかったからどんな話か分からないくせに、その音楽を聞いているだけでわたしの涙は表面張力ぎりぎりだった。
シャリ、、
家族に見られたらと思うと急に恥ずかしくなって、再びサクレレモンに夢中なふりをする。
胸のたかなりにあわせたわたしの心は、夏模様。
♪「少年時代 / 井上陽水」
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