美容室に行く理由は忘れた
「そろそろ髪切りに行かなきゃ」
洗面台の鏡にうつる自分と目が合ってふと思う。
前切ったのいつだっけ。
渋谷に遊びに行ったときに切ったから確か2か月前か。
あ、根本だいぶプリンになってる(よく見なきゃわからないけど)
予約取らないと、忘れる前に。
カラーとカットのいつものやつは…。
携帯を片手にホットペッパーのアプリで予約を取る。
美容院行くの面倒だな、なんで髪ってのびるんだろ。
土日埋まってるな、仕事帰りに行くしかないか
予約、予約…よしと。
私にとっての美容室
今。私にとっての美容室は
・髪を切りに行くところ
・プリンになった髪を染めに行くところ
要は身だしなみを整えに行くところだ。
お客さんに会うことも多い仕事をしている会社員である私は、あまり外したような髪型はできない。
髪色は明るすぎない茶色、肩下のロングヘア。
しばらく固定化している髪型。
伸びたら切って、染めて、変わらずに現状維持。
「その髪型好きなの?」
別にそんなことはない、なんとなく楽だし。
似合っているような気がしているから。
一応いつも行くヘアサロンはあるけれど、そこじゃなきゃいけない理由はそんなにない。
しいて言えば毎回”次回使えるクーポン”をもらうから。
ほらね、特別な理由なんて何もない。
なんだろうこの消化試合感。
前はもっとワクワクしてたのにな、なんだっけ。。。
はじめて一人で美容室に行った日の事
美容室に行く理由を考えていたら、初めてひとりで行った日のことを思い出した。
あれは自分の中で大きな気づきがあった日のことで、時々今でも思い出す。
あの日のことを考えると、女の子は誰しも
ちゃんとしたら可愛いし、いけてると思える。
高校1年生の時のことだ。
高校にもなると女子たちはお洒落に気を遣いだす、急に。
私はその波に乗り遅れて、いつも寝癖がはねてるみたいな髪型で学校に行っていた。
もともとクセっ毛であるというのもあって、肩のところで髪がぴょんぴょんはねる。
流行りの”外はね”なんかではなく、寝癖だ。
今思えば、水つけてドライヤーで直していけばよかったのだが、その頃はそんな発想もなかった。今は無いと困るヘアアイロンももっていなかった。
そんないつも寝起き感丸出しで教室の席に座っていた私に見かねた友人が言ったのだ。
「まゆゆさ、矯正縮毛したら?髪ちゃんとしたらそれなりにイケてると思うんだよね」
矯正縮毛…?
私はこの時まで、サラサラヘアの子は生まれつきサラサラヘアだと思っていた。しかし、どうやらサラサラは作れるらしい。
矯正縮毛とは、縮れた髪やくせの強い髪を直毛の状態で固定する技術のことだ。
私はその言葉で生まれて初めて、お洒落なヘアサロンに行って矯正縮毛をかけてもらった。
いつも行っていたのは、母親が連れて行ってくれていた昔からあるような近所の美容院。ヘアサロンは広くておしゃれで、若い店員さんとの会話が楽しかった。
たくさん話を聞いてくれて、アドバイスをしてくれた。
朝のセットの仕方、おすすめのシャンプー、流行りの髪型やヘアサロンのメニューの事。
いつものおばさんとの世間話よりお洒落だった。驚いた、これはみんなオシャレになっていくよ…と思った。
そしてサラサラヘアに生まれ変わった私に初めて彼氏ができた。
髪をちゃんとするだけで、こんなに変わるんだと思えた。
どきどきする思い出だ。
この時の私に「美容室に行く理由」を聞いたら
可愛く生まれ変われるから、と答えそう。
それくらい驚くくらいに印象が変わっていた。
大好きなお姉さんの話
初めて美容室に行った時もそうだったのだが、私は店員さんと話すのが好きらしい。
これは好きな人嫌いな人で意見が分かれるところだと思うが、私は積極的に話をするようにしている。
自分と違う仕事をしている人のいろんな日常話だったり、情報だったりを聞くが純粋に楽しいのだ。
そんな私が大学時代に偶然安いクーポンを見つけて行ったヘアサロンで運命的な出会いをする。
超絶面白いお姉さんと出会ったのだ。
1時間が一瞬で過ぎ去るくらい楽しかった、会話がそれくらい盛り上がった。
「また話したいです」
帰り際そう言うと
「また来てよ」
と、名刺をくれた。
もう名前は忘れてしまったが、私はそれから2年間その人のところへ通うことになる。
行くときは、いつもその人を指名して予約した。
2ヶ月に1度は確実に行っていたので、10回以上は髪を切ってもらったことになる。
「最近どう?」
「この前旅行行くって言ってたけどどうだった?」
「彼氏とは仲良くやってる?」
「文化祭お疲れ、写真見せてよ」
ヘアサロンでしか会わない、2ヶ月に1度しか会えないという絶妙な距離感。
それが心地よかった。
髪を切りに行く、というよりはお姉さんに会いに行っていた。
お店が変わった時もFacebookで教えてもらって、通った。
カラーもパーマもブリーチも初めて施術してくれたのはその人だ。
「今回、こういうのはどう?」
「カラーしないのー?」
「ブリーチしたらもっと明るくできるよ」
そんな会話から髪型が変化していく。
失恋した後ばっさりショートにしてもらったのが最後の日だ。
お姉さんは、地元で自分のサロンを開くことが決まって地元に帰った。
それからなんとなく髪をばっさり切るタイミングを失って、ショートはお預けになっている。
この時の私に「美容室に行く理由」を聞いたら
お姉さんと話すのが楽しいから、と答えるだろう。
それから理由が迷子になった
お姉さんがいなくなって、切ってくれる人がいなくなってしまった。
なんとなくいつも行く店はあるが、相性のいいスタイリストさんとは出会えていない。
毎度行くたびにちょっぴり期待して、でももうあれから3年が経ちあんな人とは2度と会えないような気がする。
いつかまた相性ぴったりな人と会えたら、長くなったこの髪をバッサリ切ってもらいたい。
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