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〖無題〗
錆びた線路の赤茶、夕暮れにオレンジと邂逅する海の青。僕は敢えて進行方向とは逆になるように電車に座る。今までの景色に物凄く早いスピードで置いていかれているような、もしくはまだ見ぬ世界へ吸い込まれていく様な感覚になる。
このまま宇宙までいけたりしないかな。行きたいな。
窓に反射する自分の醜い姿と、ビルや高速道路の灰色が重なる。
ずっと、あの時こうすればよかったとくだらない負け惜しみを言っておきながら今こうして小さく、現実的な、つまらない今を積んでいる。
知らない駅まで降りずに連れていかれてみろよ。
金も心も家も、限界に達していない。
なのに、動いていない。
ぬるいぬるい湖で塩を噛んでいる。
海を嘆いてすぐそこにある陸を知らない振りをしている。
黒い。
耳が痛い。
トンネルだった。
ふと考えるのを辞めた。
こういう小さな取っ掛りでぐちゃぐちゃした思考なんていうのは水になってぱしゃんと消えてしまう。
〖夏〗
コンクリートがてらてら揺れておそらく真夏真っ只中の暑さが脳を侵食していた。
「あ…………あの、貴方はっ、神さま…」
振り返り立っていたのは怪しげな老人でなければ若く小綺麗な美人。そんな人に奇妙なことを突然言われるものだから怖いにほかならない。
「…なんの宗教勧誘ですか…えっと」
「分からなくていい、無理やりでも飲み込んでください。ごめんなさい…本当のこと…本当の…ことなんです。」
ゆっくり話しながらヒールをこつんこつんと鳴らす。
なんだ、なんのつもりかまるで分からない。
B級映画を見ているに違いない、もしくは自分というダメな脚本家の作りあげた夢だろうと思った。
「俺が神様…?いや…戯言としか言えないです、ね。だってほら全身ふつーの人間だし」
前から車が一台通ろうと近寄ってくることを確認して俺は荷物ごと道の端に寄せた。友達へ「これを読んだら電話をかけてくれ」とメッセージを送り、そのままどさくさに紛れて家に帰ろうとした。
その時その彼女の冷たい右手がギュッと俺の方を掴む。
「ここに見覚えはありませんか…?」
綺麗な海の写真、いうなればフリー素材にありそうなごくごく普通のそれ。
「海…?いや…行ったことはあるかもしれないですけど何処がどうとか覚えてる訳ないですって」
「裏に住所があります、どうか一目見てみてください」
「えぇ」
「…さよなら」
押し付けて、逃げるように振り向く。
彼女の髪が少しグレーアッシュ色だったことに今気づいた。
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"なんとかなったっぽい"返信する。
真夏のじめっとした空気と眩しい彼女の髪が目に焼き付いていた。
「…おかえり」
自分が発したつもりの無い言葉だった。
彼女は腰が抜けたのか、1度バランスを崩してから、また俺の方を向いて一生懸命に立ち上がる。
「…あ」
「帰ってください」
「あの…」
「貴方は柊木さんですか」
「はい…」
「…」
声を出せ、俺を奪われる前に俺を思い出せ。
「…ぃ」
過去の録画された映像を見る感覚だった。
目の前の知っている誰かに向かって、まるで教祖のように話しかける気味の悪い自分。
「っ…あ」
かろうじて絞り出した声はいつもの俺の掠れた声だった。
〖バケモノ〗
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