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私:文学

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創作文学┊落下点を定めて
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[短篇抽象小説]半熟

[短篇抽象小説]半熟

1:化け物

ごぷ、ぼと、はたはた。そこでようやくあいつの視線を感じた。次に炭のような焦げ臭い匂いが鼻を突き刺して、次第に熱か痛みかわからない剝き出しの肉をえぐるような感覚すらしてくる。声を出してもじっとしても動いても苦しくて、ユラユラ歩きながら終わりを探しているような。あぁ。耳鳴りがやまない。痛そう。何故かそんな風に俯瞰しているのは何故だろうか。ろうな。だからわかってほしい痛みとわかれない他人が

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epilogue 『わたしの黙示録』

epilogue 『わたしの黙示録』

縋る術もなくて私たちを襲った夜を心地よく受け入れた青い青い果実。
それを食べた闇を神様は見ているだろうか。
始まりと同じように、終わりにも罪がある。
だけど終焉に食べられたのは赤い熟れた林檎とは違う、固くて歪でアダムもイブも決して食べ無いような青い鈍い透明な青い果実なのだ。
世界を裏切ったかつての2人の影を、私は刹那視界に捉えたような気がした。
だけど、私たちが裏切られた側だったからか、もうどこに

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『人と月に蓋をして』

『人と月に蓋をして』

「“よる”や」
____強く強く願っている。私達は、永遠だと。

世界が眠りについた27時、未だギラギラと陽射しがやまない。私は急いで自転車で十字路への坂道を勢い良く駆け下りた。
「邑!」
「あ、那津」
邑は私を見るなり嬉しそうに自転車のカゴから黒い布を出して旗のように振る。準備は万全みたいだ。私達にとって睡眠すら削った秘密の時間は、普通を忘れてしまったこの世界に唯一相反していて特別だった。
「暑

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小説 『クリシェ』

小説 『クリシェ』

一部分より

■13:39

「先生、俺もう長くないらしいよ」

病室中を生温い風が撫でる。
それが嫌な現実味となって僕の喉を掠めた。
それで、分からないから分かろうとしたかった。

「…でも今生きてるっ」

辛うじて発した掠れた声が、目の前の彼にに届かずに溶けて小さく消えていく。
そっか、とかこれからどうやって生きたい?とか僕には“教師としてかけるべき言葉”がたくさんある。
探している、分かりた

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