
今週の【ほぼ百字小説】2023年2月6日~2月12日
有料設定ですが、無料で全文読めます。
一週間休んでました。今週はやります。【ほぼ百字小説】をひとつツイートすると、こっちにそれについてあれこれ書いてます。解説というより、それをネタにした雑談だとでも思ってください。
以前から、マイクロノベルという形式がもっと一般的になってほしい、もっと多くの人に届いてほしい、そのためには継続的な書籍化が必要、というようなことを言ったり書いたりし続けてきたんですが、ついに出せることになりました。しかも、私が考える理想の形です。これで続けていけたら、これ以上のことはない。ということで、がんばって売らねばなあ、と思ってます。作家がそんなことを書くな、という人がけっこういるんですが、売れないことには続けられませんからね。『100文字SF』の先を目指そうと思います、そのためにも。あ、前から書いてますが、早川書房からじゃないです。早川書房からは出せなかったのです。ゲラはもうやりました。我ながらおもしろい。これは売れてほしい。ということで、乞うご期待。
あ、投げ銭は歓迎します。道端で演奏している奴に缶コーヒーとかおごってやるつもりで100円投げていただけると、とてもやる気が出ます。
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2月6日(月)
【ほぼ百字小説】(4317) 忍者が敵に捕まったとき、絶対に渡してはならない巻き物をその場で食ってしまう、というのがその行事の始まりで、肉体の働きすべてを逆転させていちどは食ったと見せた巻き物を再び口から取り出す、までが本来の形。
季節もの、というか行事もの、というか。お休みしてた間に節分があったので。しかしあの恵方巻きというのは、かなりヘンテコな食べ物ですね。見た目も食べ方も変だ。黒いし。ということで、あれを知らない人が、みんなが揃って同じ方向を向いて無言であれを食ってるところを見たら、かなり異様なんじゃないかと思います。ということで、でっちあげた由来。
【ほぼ百字小説】(4318) 赤や青のペンキを路上にぶちまけたみたいなのは豆まきの跡で、映像作品の影響か最近の鬼はこんなふうに派手に爆散する。しかしこれでは後始末が大変だぞ、と思っていたらロボット掃除機が。いろいろ様変わりしたな。
ということで、節分ものの続き、というか、節分の翌朝ですね。まあこんな感じでペンキをぶちまけるみたいなゲームもあるし、やっぱりいろいろ影響されるんじゃないでしょうか。殺陣なんかもCGが手軽に使えるようになって、ずいぶん変わったような気がしますね。良くなったところもあるし、どうなんだろう、と思うところもある。でもそういうもんだから仕方がないですね。
2月7日(火)
【ほぼ百字小説】(4319) いろんなところから別々に掘り進めていて、全員の方向と距離が正しければ今日、とりあえずトンネルとして開通はするはず。ということは、最初はみんな地中に埋まっていて、そこから掘り始めたわけだな、などと今更。
ヘンテコな工法、みたいな話ですが、じつはほとんど日記。今、突劇金魚の公演の稽古をしていて、昨日がその最初の「通し」でした。それぞれのシーンをばらばらに稽古してるんですが、初めて最初から最後まで通してみる、という作業です。ということで、今ココ。本番は三月の頭です。
ついでに宣伝。
【宣伝】ひさしぶりに芝居に出ます。
— 北野勇作100 (@kitanoyu100) December 22, 2022
私はピロシキ組です。
北野予約窓口はこちらhttps://t.co/Ba66PpnccB https://t.co/d72HKQ3jwG
【ほぼ百字小説】(4320) ついにぽこんと向こう側に抜けた。開通だ、と声が上がり向こうでも歓声が。やっと手が通る穴の中で固い握手を交わしたところで、待てよ、この相手は本当に人間か? と向こうも同じことを考えたのが、握手でわかる。
で、これは通し稽古とは関係ない、トンネルの話にして、そこからの連想。感動のシーンですね。でも、よく考えたら声と手の感触だけですからね。相手が本当にトンネルを掘ってきた仲間なのかどうかわからない。そして、考えてることはたぶん向こうも同じで、手は口ほどにものを言う、とか。
2月8日(水)
【ほぼ百字小説】(4321) カウントダウンなのだろう、と思っていた。いつもそれが行われていて、でもいつも唐突に中断されて、また初めからやり直しになる。このあいだはついに1まで行って、でも止まった。0になっても何も起きないのかも。
例によって通し番号ネタ。まあこれで、0までいくためにはあと十倍書かないといけない。さすがにそれは無理ですね。そんなに時間は残ってない。ということでそれもまたカウントダウンですが。
あ、それから、ついに書籍化が発表されました。なんと、三冊続けてです。【百字劇場】というシリーズ名でこの先も続けていきたいので、よろしくお願いします。その発表の日に4321番というのは演技がいいんだか悪いんだか。
早川で続けることはできませんでしたが、こうなりました。ここから始めます。
— 北野勇作100 (@kitanoyu100) February 8, 2023
「猫ノ巣二居リマス」 https://t.co/HXZEc0uyQH
【ほぼ百字小説】(4322) あ、猫、と見ると隣にも猫、後ろにも猫、猫を見下ろす猫、猫を見上げる猫、振り向けば猫、向き直っても猫。猫の集会に紛れ込んだのか。いや、集会、というより、巣だ。猫の巣。出られない、というより、出たくない。
というわけでネコノスさんにご挨拶を兼ねて。俳句でいう挨拶句みたいなことができるのもマイクロノベルの便利なところ。ある言葉で作ったりしますからね。猫の巣、というのはそういう言葉としてもかなりいい。もっとも、けっこうとんでもない内容になってしまったりもするんですが。これはまあ大丈夫なほうか。でも実際、猫の集会に迷い込んだことはあります。わりとこの前半みたいな感じ。夜、近道になるので資材置き場みたいなところを通ってて、ふと見たらまわりが猫だらけ。猫って本当に集会を開くんですね。あれはちょっと怖かった。
【ほぼ百字小説】(4323) あまり知られていないが、猫も巣を作る。猫は猫の巣の中で猫の卵を抱いて温める。あまり知られていないが、猫の卵は丸まった猫と見分けがつかない。そしてあまり知られていないが、猫の巣は炬燵と見分けがつかない。
ということでネコノスです。やっぱり猫の巣、という言葉はいいですね。そして猫の巣は存在してほしい。ということで、存在しているしみんなそれを見たことがあるんだけど、猫の巣だと気づかない、という理由を考えました。いや、気づくだろ、という突っ込みも含めて。
2月9日(木)
【ほぼ百字小説】(4324) 猫の巣を発見した。さっそく忍び込んで猫の宝を探す。猫の宝は乾いた音を立てる貝殻で、猫以外にとっては何の価値もないはずだが、高値で取引きされるようになったのは、それで猫の気を引こうとする人が増えたから。
猫の巣三連発。まあこれでお礼になっているのかはともかく、挨拶がわりの百字でした。『ありふれた金庫』(SF)、『納戸のスナイパー』(狸)、『ねこラジオ』(猫)、の三冊をよろしく。
猫の宝の話は知り合いに聞いたことがあって、実際にからから鳴るものを大事にしてたりするらしい。猫の宝、っていいですよね。猫の宝みたいなものに私はなりたい。
【ほぼ百字小説】(4325) 赤い星のようだと思った。どんよりと暗い空に散りばめられた赤い星々だが、そんなにたくさん赤い星の名前は知らなくて、ぜいぜい三つくらいか。でも名前を知らない赤い星もたくさんあるだろう。頭の上は南天の星だ。
毎日歩いている路地の中に思った以上に南天の木があることに最近気がつきました。実がなってるからですね。あ、ここにも、ここにも、こんなところにも、という感じ。いいですね、南天。真下に立って見上げると、ほんとに赤い星が散りばめられてるみたいで、まあサゲは駄洒落です。そのほうがかえってサゲっぽい。「すごい。満天の星だ」というのは、木星で消息を絶ったボーマン船長の最後の通信。
2月10日(金)
【ほぼ百字小説】(4326) 巨大な金庫の内部にまんまと侵入、まではよかったが、見つかりそうになって出られない。誰かが金庫に入ってくるとあわてて身を隠す。定期的に銀行員が水と食べ物を置いていく。銀行には内緒で飼ってくれてるのかな。
『ありふれた金庫』に合わせて、なのかどうかは自分でもわかりませんが、金庫もの。巨大な金庫、というのはなかなかおもしろいですよね。サンダーバードにそんなエピソードがあって、私はあれが大好きです。派手なことは起きない、でもすごく洒落たエピソード。パーカーが主役のやつです。それも金庫から出られなくなる話でした。書いてるときは気がつかなかったけど、意識してたのかもしれません。
【ほぼ百字小説】(4327) 百物語をやっている。蝋燭を百本立て、怪奇な話をひとつ語るとひとつ吹き消す。最後の蝋燭が消えると怪異が。そのはずなのに、最後のこれが吹いても吹いても消えない。これでは何も起こらない。百物語が終わらない。
子供の頃から憧れます、百物語。でも、お話として聞く分にはすごくおもしろそうな気がするんですが、実際に百も話を聞くのはかなり大変だし、そしておもしろい話がそうそうあるはずもない。みんな話がうまいわけじゃないしね。イメージとしてはすごくおもしろいんですが現実にやるとなると、途中で飽きるというかダレるんじゃないかなあ。ひとつ語るごとに蝋燭を消していく演出なんか、ああ、いいなあ、と思うんですが。これに関しては、怪異が起こっているのに気づかない、という怪談のひとつのパターンで、でもだいぶ間抜けな方に振ってます。
2月11日(土)
【ほぼ百字小説】(4328) 夜空を見上げるたびに思うのは、いつかはあの星に帰らねばならないこと。もっとも、この星での暮らしが楽しいわけではなく、むしろ苦しい戦いも多いのだ。でも、ありふれた平凡な者としてあの星で生きる自信がない。
ふたつ前に「金庫」で書いたので、こんどは「ありふれた」。ふたつあわせて「ありふれた金庫」。というわけでもないのですが、まあこういう大喜利みたいな書き方はたまにやります。何にもないよりかえってやりやすい。で、ウルトラマンですね。いや、どっちかと言えばセブンかな。あっちに帰ったらたぶん普通のマンで、こっちの扱いが普通になってしまうとこういうことも思うんじゃないかと。ヒーローが地球に居続ける理由。
【ほぼ百字小説】(4329) 新月の夜、その路地の奥では猫の集会が開かれている。まあ集会とは言っても、彼らにはとくに話し合わねばならないようなことなどなくて、本当にあった怖い話などを順にするだけ。というこれも、その集会で聞いた話。
ネコノスさんのおかげなのかどうか、ちょっと猫率が上がってますね。そしてこれまた猫の集会。たしかに集会は開いているみたいなのですが、彼らはいったいそれによって何を相談したり決定したりしているのだろう、というのはいちばんの疑問で、とりあえずこんなことでは、というのを。しかし猫の集会に参加できているこの語り手はいったい、というのがまあこれを小説にしているところなのかな。これが本当にあった怖い話なのかどうか、とかも。
2月12日(日)
【ほぼ百字小説】(4330) 何かが空を飛んでいる。飛行機でも鳥でもなく、ビニール袋っぽい。でも家くらいの大きさか。ビニール袋型ユーフォー? つぶやくと、ユー・エフ・オーだ、ユーフォーなんて言葉はない、って声が頭の中に響き渡った。
まああれです、昨今のあれですが、そもそものフライングソーサーとかロズウェルの頃から、気球なのでは、というのはありますよね。で、気球型、というか、ビニール袋型。でもテレパシー的なもので脳に直接話しかけてくるから、気球じゃなくて本物(?)っぽい。でも、こだわるのはそこかよ、というのがサゲ。
【ほぼ百字小説】(4331) すべて破壊されてしまったが、どうやら私だけがひと足先に再生されたらしい。それなら、と妻と娘が戻ってきたときのために、破片を集めて家を復元する。どうにか昔のように整ったところで、妻と娘と私が戻ってきた。
いやあ、我ながら嫌な話を書くなあ。今、突劇金魚の公演の中で、私はずっと「行き場がない人」の役をやってるんですが、そのせいかもしれません。いろんなものが帰ってくる話が、ありますよね。『猿の手』は死んだ息子、『ソラリス』は死んだ奥さん、『ペットセメタリー』は猫と死んだ息子。ということで、何が帰ってきたら嫌かなあ、とか考えてこうなりました。そして行き場がない。
【ほぼ百字小説】(4332) こんなことでも毎日やり続けて何年にもなるとそのための筋肉みたいなものがついてきて、そのぶんこんなことはやりやすくなったが、いかにもこんなことにしか使えない歪な筋肉らしく、こんなことに似た形をしている。
まああれですね、スポーツマン体形、というやつでしょうか。そんなの保健体育で習ったような。今もそんなの習うのかな。とにかく自分でルールを勝手に決めた変なスポーツを延々やっているようなもんでしょうね。おかげで400字とかが長い長い。原稿用紙30枚の短編なんて、荒野のように広く感じます。そんなことでいいのか、とは思うんですが、どうしようもない。これをやることも大事だと思ってますから。はてさて、どうなりますやら。
まとめて朗読しました。
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【ほぼ百字小説】(4317) 忍者が敵に捕まったとき、絶対に渡してはならない巻き物をその場で食ってしまう、というのがその行事の始まりで、肉体の働きすべてを逆転させていちどは食ったと見せた巻き物を再び口から取り出す、までが本来の形。
【ほぼ百字小説】(4318) 赤や青のペンキを路上にぶちまけたみたいなのは豆まきの跡で、映像作品の影響か最近の鬼はこんなふうに派手に爆散する。しかしこれでは後始末が大変だぞ、と思っていたらロボット掃除機が。いろいろ様変わりしたな。
【ほぼ百字小説】(4319) いろんなところから別々に掘り進めていて、全員の方向と距離が正しければ今日、とりあえずトンネルとして開通はするはず。ということは、最初はみんな地中に埋まっていて、そこから掘り始めたわけだな、などと今更。
【ほぼ百字小説】(4320) ついに、ぽこんと向こうに抜けた。開通だ、と声が上がり向こうでも歓声が。やっと手が通る穴の中で固い握手を交わしたところで、待てよ、この相手は本当に人間か? と向こうも同じことを考えたのが、握手でわかる。
【ほぼ百字小説】(4321) カウントダウンなのだろう、と思っていた。いつもそれが行われていて、でもいつも唐突に中断されて、また初めからやり直しになる。このあいだはついに1まで行って、でも止まった。0になっても何も起きないのかも。
【ほぼ百字小説】(4322) あ、猫、と見ると隣にも猫、後ろにも猫、猫を見下ろす猫、猫を見上げる猫、振り向けば猫、向き直っても猫。猫の集会に紛れ込んだのか。いや、集会、というより、巣だ。猫の巣。出られない、というより、出たくない。
【ほぼ百字小説】(4323) あまり知られていないが、猫も巣を作る。猫は猫の巣の中で猫の卵を抱いて温める。あまり知られていないが、猫の卵は丸まった猫と見分けがつかない。そしてあまり知られていないが、猫の巣は炬燵と見分けがつかない。
【ほぼ百字小説】(4324) 猫の巣を発見した。さっそく忍び込んで猫の宝を探す。猫の宝は乾いた音を立てる貝殻で、猫以外にとっては何の価値もないはずだが、高値で取引きされるようになったのは、それで猫の気を引こうとする人が増えたから。
【ほぼ百字小説】(4325) 赤い星のようだと思った。どんよりと暗い空に散りばめられた赤い星々だが、そんなにたくさん赤い星の名前は知らなくて、ぜいぜい三つくらいか。でも名前を知らない赤い星もたくさんあるだろう。頭の上は南天の星だ。
【ほぼ百字小説】(4326) 巨大な金庫の内部にまんまと侵入、まではよかったが、見つかりそうになって出られない。誰かが金庫に入ってくるとあわてて身を隠す。定期的に銀行員が水と食べ物を置いていく。銀行には内緒で飼ってくれてるのかな。
【ほぼ百字小説】(4327) 百物語をやっている。蝋燭を百本立て、怪奇な話をひとつ語るとひとつ吹き消す。最後の蝋燭が消えると怪異が。そのはずなのに、最後のこれが吹いても吹いても消えない。これでは何も起こらない。百物語が終わらない。
【ほぼ百字小説】(4328) 夜空を見上げるたびに思うのは、いつかはあの星に帰らねばならないこと。もっとも、この星での暮らしが楽しいわけではなく、むしろ苦しい戦いも多いのだ。でも、ありふれた平凡な者としてあの星で生きる自信がない。
【ほぼ百字小説】(4329) 新月の夜、その路地の奥では猫の集会が開かれている。まあ集会とは言っても、彼らにはとくに話し合わねばならないようなことなどなくて、本当にあった怖い話などを順にするだけ。というこれも、その集会で聞いた話。
【ほぼ百字小説】(4330) 何かが空を飛んでいる。飛行機でも鳥でもなく、ビニール袋っぽい。でも家くらいの大きさか。ビニール袋型ユーフォー? つぶやくと、ユー・エフ・オーだ、ユーフォーなんて言葉はない、って声が頭の中に響き渡った。
【ほぼ百字小説】(4331) すべて破壊されてしまったが、どうやら私だけがひと足先に再生されたらしい。それなら、と妻と娘が戻ってきたときのために、破片を集めて家を復元する。どうにか昔のように整ったところで、妻と娘と私が戻ってきた。
【ほぼ百字小説】(4332) こんなことでも毎日やり続けて何年にもなるとそのための筋肉みたいなものがついてきて、そのぶんこんなことはやりやすくなったが、いかにもこんなことにしか使えない歪な筋肉らしく、こんなことに似た形をしている。
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以上、今週は16篇でした。
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