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最近の【ほぼ百字小説】2024年7月12日~7月23日

*有料設定ですが、全文無料で読めます。

【ほぼ百字小説】をひとつツイート(ポスト)したら、こっちでそれに関してあれこれ書いて、それが20篇くらい溜まったら、まとめて朗読して終わり、という形式でやってます。気が向いたらおつきあいください。


7月12日(金)

【ほぼ百字小説】(5326) 前は、踏みたくて仕方がないが踏みたくて踏んだのがバレるのはまずいから、そこに足を置くための理由をあれこれ考えていた。今は、踏みたくて仕方がない者のためにそこに足を置く理由を考えてあげる商売をしている。

 あるあるですね。踏みたい人がたくさんいて、踏みたい理由を考えるのが上手な人がそういう商売をする。

7月13日(土)

【ほぼ百字小説】(5327) コース取りを考えながらゆっくりたどってみる。なにしろ自分の中から出てきたものだから、曲がるところも伸びるところも折れるところもしっくりくる。しっくりし過ぎなのかも。だから、ちょっと無理することにする。

 今日はこれから京都へ行って、朗読したり喋ったりします。まあこれはその朗読の下準備みたいなこと。読むのは『バンパクの思い出』という短編です。大阪弁のひとり喋りが延々続くやつ。ということで、朝からこんなことしてます。うまくいったらおなぐさみ。


【ほぼ百字小説】(5328) 箱庭のような風景の中に置かれていた。今の自分は、この箱庭の部品のひとつらしい。そう気づいたのは、自分もそんな箱庭を作ったことがあるから。自分の番が終わったと考えるべきか、自分の番が来たと考えるべきか。

 小説と言うのは一種の箱庭、というようなことを上のイベントの中で話しました。まあ他の人の考えていることはわからないので、あくまでもこれは私にとっての小説、ですが。で、現実にあるものを部品として使って作っている。では、そんな部品に選ばれることもあるでしょう。たぶんその中で動く部品として選ばれている。書いている自分と書かれている自分、どちらが本来の自分なのか、とか。

【ほぼ百字小説】(5329) いつのまにやら周りの者は卒業していった。なぜ卒業するのか、どうやって卒業するのか、さっぱりわからないまま居続けて、今もやっぱりそこに居て、今日はそんな怪獣のことを書いた文章を朗読した留年中の六十二歳。

 日記です。まあそんな感じ。

7月14日(日)

【ほぼ百字小説】(5330) 持ち時間からして全部を読むのは無理で、だから途中で切るしかない。それなら、途中で切られる、という形にすれば、そういう終わりかたにはなるか。とまあそんなふうなことを思いつき、そのあたりから逆算してみる。

 これも昨日の朗読イベントのこと。朗読の持ち時間が10分だったんですね。それでどうしようかなと思って、こういうことにしました。ブザーを用意してもらって、台本を渡して、ここを通過したらどこでもいいから区切りでもなんでもないところでいきなりブザーを鳴らしてください、ということだけ頼んで、そして私は読みながらそのブザーに反応する、ということにしました。まあけっこううまくいったんじゃないかと思う。苦し紛れですけどね。

【ほぼ百字小説】(5331) 幸い雨は降っていなかったので鴨川の河川敷に下りて橋桁を見上げながら、今日朗読する文章を軽く流して読んでみる。少々声を出しても川の音が消してくれる。そうか、これを使って会話における距離を詰めているのか。

 これもその続き、というかその日のこと。天気予報では雨だったんですがよかった。ちょっと早めに行ったのは、私はよく道に迷うから。そして京都ですから、鴨川です。そして、せっかくだからちょっと一回やっとこう、と思ってやりました。そして思ったこと。鴨川と言えばそれですから。本当にそうなのかどうかは知らん。

7月15日(月)

【ほぼ百字小説】(5332) 動物の足跡だ。公園とか神社とか、そんな土のあるところで見かける。それに気がついてからは、必ず発見できるようになった。いつもいるのか。そう思うとたまらなくなって、これからライトを手に縁の下に潜ってみる。

 足跡だけの獣、みたいな感じか。いつもいっしょにいるんだけど、足跡が見えるのは地面が土のときだけ。で、縁の下って土じゃないですか。そうじゃない縁の下もあるんだろうけど。いちばん近いところに土があった、というのはちょっとおもしろいと思う。

【ほぼ百字小説】(5333) 骨折していた妻の指に何ヶ月も入っていた針金が抜けて、これでもう針金入りではなくなったが、それでも筋金入りの何かであることには変わりなくて、そしてたぶんその筋金が今回の針金の原因でもあったのだろうなあ。

 まあ日記です。小指だけだから大した事はないんですが、こうなってました。しかし指の中に針金を入れるなんて、すごいですね。想像しただけで寒気が。それと「筋金入り」という言葉。そして、最後のは私の感想。まあどういうことなのかは書きませんが、そういうことだろうと思うんだ。

7月16日(火)

【ほぼ百字小説】(5334) そろそろまた自分のものではない台詞を転がしながら歩きたい、などと思っていたら、道の向こうからそれらしきものが転がってきた。まだどういうものなのか見えないが、見えたところで転がしてみなければわからない。

 これまた日記です。ありがたいことにまた芝居に呼んでもらって、10月に出ることになりました。もうすぐ稽古が始まる。いつも台詞は、歩きながらぶつぶつぶつぶつ転がして覚えます。ということで、そろそろちょっとずつでも入れて行こうかな、と思ってるところ。台詞を入れてしまう方が稽古を楽しめますから。

 これです。

【ほぼ百字小説】(5335) カミツキガメをカミツケナイガメたちが叩いている。それは、麩ばかり食っている自分たちの噛みつけなさゆえの行為なのだろうが、カミツキガメにできてカミツケナイガメにできないことは、噛みつくことだけではない。

 カミツキガメがツイッターのトレンドになっていたので、ここはカミツキガメものを書くしかないだろうと思って。カミツケナイガメというのは、何かができるのではなく、カミツケナイという特徴しかない亀なのでしょうね。何か特徴なり能力なりがあればそっちの名前になるのでしょうが。

7月17日(木)

【ほぼ百字小説】(5336) 環状線と思われているが、実際には螺旋状線で、だから一周回ったそこは同じ駅ではなく、一段上か下の別の駅。違いはわずかだから支障はないが、何周もすると大きくなるから、内回り外回り、相殺するように乗ること。

 大阪環状線の寺田町に住んでいます。寺田町には地下鉄がないので、電車と言えばまず環状線で、だからこんなことをよく考える。内回りと外回りがあるんですが、たとえば内回りで行くと、大抵は逆方向の外回りで帰って来るから、一周することはまずありません。ちょうど円の反対側に行く場合(寺田町だと福島かな)、ホームに入ってきた電車によってそのまま一周する、ということはありますね。だから螺旋状の線にいつも乗っていても、たぶん何周もしてしまうことはなくて、気づかないはず。とかそんなことを妄想したり。

【ほぼ百字小説】(5337) 疲れたのでいつもの特急でなく各駅停車で座って帰る。ごとごと揺られうとうとして、目を開けると知らない駅で、またうとうとする。この先、目を開けても目を開けても知らない駅ばかりだとは、まだ夢にも思ってない。

 電車の妄想つながり。知らない駅、というのは、この手の妄想の定番ですね。これはこないだ京都に行ったときの電車の中での妄想。まあ京阪電車で京橋から特急に乗ります。だから途中の駅名はほとんど知らない。ということで、たぶん各駅停車で帰って来て途中で目が覚めて知らない駅でも不思議には思わない。うとうとしながら考えてる状況と「夢にも思わない」という言い回しを合わせてみました。

7月18日(木)

【ほぼ百字小説】(5338) 近所でいちばん空が広いところはあの空き地だが、いちばん空が近いところは物干しで、だから物干しで暮らしている亀と空とはかなり近い。亀の欠片と天使の欠片の見分けがつかなくなるのは、たぶんそんな理由だろう。

 【百字劇場】というシリーズは、この【ほぼ百字小説】から200篇取り出して配列した本で、これまで三冊出ています。そんなに売れるわけでもないそんなものを三冊も出してもらえるだけでありがたいのですが、なんとその続きが二冊出ます。ネコノスというインディーズ出版だからこそ、こんなことやらせてもらえるんだろうなあ、と思います。大手の出版社だとこんなの会議を通らないし、そもそも読んでももらえない。ということで、その二冊、『かめたいむ』と『交差点の天使』。タイトルからお分かりでしょうが、亀ものと天使もの。そんな言葉があるかどうか知りませんが。
 ということで、この二冊に収録するのを抜き出して並べていくんですが、並行してやってると、どっちがどっちだかわからなくなったり、両方に入れてしまってたりするものが意外に多い。天使と亀ですから、全然違うと思ってたんですが、近いんですね。天使と亀が出てくる話はもちろん間違えないんですが、空に関する話がごっちゃになる。ということで、亀と天使はけっこう近くて見間違える、という話。

【ほぼ百字小説】(5339) 黙るまで殴り続けることを宣言する。黙るまで殴り続ける理由は、殴り続けても黙らないからで、黙るまで殴り続けるのを止めない理由は、黙るまで殴り続けるのを止めてしまえば言論弾圧に屈することになるからだとか。

 いやほんと酷いもんだなあと思います。あー、やだやだ。それだけ。

7月19日(金)

【ほぼ百字小説】(5340) 自分が転がしているのだと思っていたが、そうか転がされていたのか、と気がついたのは、転がしていると思いながら転がされる人を見たから。まあ天動説と地動説のように、同じ運動を別の言いかたで言ってるだけかも。

 ちょっと前に書いた、台詞を転がして歩く話。そこから書いた、というか、台詞を転がしながら歩いているつもりで台詞に転がされている、というのが絵として浮かんで、それがおもしろくて。まあ転がしているつもりで転がされている、というのはあるあるでしょうね。

【ほぼ百字小説】(5341) 子供地下鉄がやってくる。子供たちを乗せるためだけに走らされる電車。選ばれた子供たちだけが乗る電車だ。子供たちが選んだことではなく、大人たちが選んだこと。知事が何かと契約してそうなった、という噂がある。

 時事ネタですが、まあ万博のための子供専用電車というのはおもしろいです。クライブ・バーカ―の『ミッドナイト・ミート・トレイン』みたいだ。ニューヨークの地下に地獄がある話。子供しか乗ってないメトロで、万博会場に連れていかれる、というのはなんともいいじゃないですか。いや、ホラー的にいい、ですけど。


7月20日(土)

【ほぼ百字小説】(5342) 自分の中に自分ではないものの種を植える。うまく根付いて育ってくれるかな。何度やっても不安なものだが、もちろんこの私以上に、いきなり何かの中に置かれている自分に気づいたそいつのほうがずっと不安だろうな。

 まだだいぶ先だし、稽古も始まってないんですが、ちょっとずつ台詞を入れていってて、まあこんな感じです。自分の中に自分のものではない台詞を入れる、というのはなんともヘンテコなものです。おかげで、こんな話が書ける。

【ほぼ百字小説】(5343) 電飾看板の隣に出ているからそう思うのか、パチンコ玉みたいな丸くてぴかぴかの月で、何かの拍子に数が増えてざらざらざらと景気よく落ちてくるかも、などとぼんやり考えていたら、穴に吸い込まれたみたいに消えた。

 夜、たらたらゆっくり走るのが好きで、昨夜も走ってたら、こんな月が出てました。月ってちょっとびっくりするくらいぴかぴかしてる。そこからの妄想。パチンコから連想した光景。まあパチンコって玉が増えるより消えてしまう方が多いですから。

7月21日(日)

【ほぼ百字小説】(5344) 大抵のロボットは自分で自分の電源を切る。だから再起動するのは新しい自分で、前の自分はもういないそうだ。本当は電源を切る必要がなくても、そうできるロボットのほとんどはそうする。切るなと命令されない限り。

 ちょっと未来のあるある、みたいな感じ。ああ、言われてみればうちのロボットもそうだなあ、とか。省エネモードとかにはなるから、べつに切らなくてもいいんですよね。でも確かに自分で切る。もしかしたら、一日の仕事が終わるたびにロボットは自殺してるのかもなあ、とか。


【ほぼ百字小説】(5345) 向日葵と幽霊は、よく似ている。ことにこんな黄昏どきに痩せた身体で頭を垂れているところなどは、死んでいるのに生き写し、と言いたくなるほどで、だから、向日葵と向日葵の幽霊の見分けがつかなくても無理はない。

 向日葵って、けっこう不気味だと前から思ってるんですが、そんなことないですか。なんといってもあの頭が不自然に大きい。夕方に向日葵のシルエットを見ると、よくこんなことを思う。

7月22日(月)

【ほぼ百字小説】(5346) 道の彼方で逃げ水がゆらゆらと揺れているのはいつものことだが、今日はそこで水浴びをしている翼のある何かが見える。次々に降りてきて、翼が撥ね上げた水滴で虹がかかる。そういうところは本物の水と同じなんだな。

 暑さがすごい。まだ7月なのに、もうどうなってしまうんでしょうね。ということで、道を歩いていても、こういうものが見えてます。そういうものは、実態がないという点では逃げ水と同類なのでしょう。それならまあ相互作用しても不思議はない。

【ほぼ百字小説】(5347) 隣の席に首を急角度に折り曲げてテーブルに突っ伏したまま動かない人がいる。死んでいるのかも。最近はどこへ行っても一人や二人はそんな人がいる。帰り道、ガラスに映る自分を見て、他人のことは言えないなと思う。

 暑いですからね。まあこんな感じですよ。生きてるかどうか、ゆすって確かめるわけにもいかないしね。そしてこの炎天下では、死人が歩いたらこんな感じか、みたいな歩きかたにもなりますよね。

7月23日(火)

【ほぼ百字小説】(5348) 仕事が終わったら記憶を消してもらえるから、どんなに嫌な職場でも大丈夫。本当にそうなのか、とは思ったが、現にこうして快適だ。一日がやけに短く感じられるのも、よく言われるように今が充実しているからだろう。

 まあ一種のディストピアものとして書いたんですが、これはこれで快適かもしれないですね。実際、快適だと言ってるし。どうしてもやらない仕事なら、そして、こうしてもらえるかどうか選べるのなら、希望するかもしれないですね。

【ほぼ百字小説】(5349) いやほんと、『2001年宇宙の旅』をあの映画の中に出てくるみたいな小さな画面で好きなときに好きなように再生している2024年なんて、リバイバル上映でやっと観た高校生は、想像もしてなかったよ、アレクサ。

 そのまんまです。なんか全然未来じゃない、という印象の方が強い21世紀ですが、こういうところは実現してますね。そして、コンピュータと会話して、コンピュータに映画を再生して貰う、なんてことも。

ということで、今回はここまで。

まとめて朗読しました。



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【ほぼ百字小説】(5326) 前は、踏みたくて仕方がないが踏みたくて踏んだのがバレるのはまずいから、そこに足を置くための理由をあれこれ考えていた。今は、踏みたくて仕方がない者のためにそこに足を置く理由を考えてあげる商売をしている。


【ほぼ百字小説】(5327) コース取りを考えながらゆっくりたどってみる。なにしろ自分の中から出てきたものだから、曲がるところも伸びるところも折れるところもしっくりくる。しっくりし過ぎなのかも。だから、ちょっと無理することにする。

【ほぼ百字小説】(5328) 箱庭のような風景の中に置かれていた。今の自分は、この箱庭の部品のひとつらしい。そう気づいたのは、自分もそんな箱庭を作ったことがあるから。自分の番が終わったと考えるべきか、自分の番が来たと考えるべきか。

【ほぼ百字小説】(5329) いつのまにやら周りの者は卒業していった。なぜ卒業するのか、どうやって卒業するのか、さっぱりわからないまま居続けて、今もやっぱりそこに居て、今日はそんな怪獣のことを書いた文章を朗読した留年中の六十二歳。

【ほぼ百字小説】(5330) 持ち時間からして全部を読むのは無理で、だから途中で切るしかない。それなら、途中で切られる、という形にすれば、そういう終わりかたにはなるか。とまあそんなふうなことを思いつき、そのあたりから逆算してみる。

【ほぼ百字小説】(5331) 幸い雨は降っていなかったので鴨川の河川敷に下りて橋桁を見上げながら、今日朗読する文章を軽く流して読んでみる。少々声を出しても川の音が消してくれる。そうか、これを使って会話における距離を詰めているのか。

【ほぼ百字小説】(5332) 動物の足跡だ。公園とか神社とか、そんな土のあるところで見かける。それに気がついてからは、必ず発見できるようになった。いつもいるのか。そう思うとたまらなくなって、これからライトを手に縁の下に潜ってみる。

【ほぼ百字小説】(5333) 骨折していた妻の指に何ヶ月も入っていた針金が抜けて、これでもう針金入りではなくなったが、それでも筋金入りの何かであることには変わりなくて、そしてたぶんその筋金が今回の針金の原因でもあったのだろうなあ。

【ほぼ百字小説】(5334) そろそろまた自分のものではない台詞を転がしながら歩きたい、などと思っていたら、道の向こうからそれらしきものが転がってきた。まだどういうものなのか見えないが、見えたところで転がしてみなければわからない。

【ほぼ百字小説】(5335) カミツキガメをカミツケナイガメたちが叩いている。それは、麩ばかり食っている自分たちの噛みつけなさゆえの行為なのだろうが、カミツキガメにできてカミツケナイガメにできないことは、噛みつくことだけではない。

【ほぼ百字小説】(5336) 環状線と思われているが、実際には螺旋状線で、だから一周回ったそこは同じ駅ではなく、一段上か下の別の駅。違いはわずかだから支障はないが、何周もすると大きくなるから、内回り外回り、相殺するように乗ること。

【ほぼ百字小説】(5337) 疲れたのでいつもの特急でなく各駅停車で座って帰る。ごとごと揺られうとうとして、目を開けると知らない駅で、またうとうとする。この先、目を開けても目を開けても知らない駅ばかりだとは、まだ夢にも思ってない。

【ほぼ百字小説】(5338) 近所でいちばん空が広いところはあの空き地だが、いちばん空が近いところは物干しで、だから物干しで暮らしている亀と空とはかなり近い。亀の欠片と天使の欠片の見分けがつかなくなるのは、たぶんそんな理由だろう。

【ほぼ百字小説】(5339) 黙るまで殴り続けることを宣言する。黙るまで殴り続ける理由は、殴り続けても黙らないからで、黙るまで殴り続けるのを止めない理由は、黙るまで殴り続けるのを止めてしまえば言論弾圧に屈することになるからだとか。

【ほぼ百字小説】(5340) 自分が転がしているのだと思っていたが、そうか転がされていたのか、と気がついたのは、転がしていると思いながら転がされる人を見たから。まあ天動説と地動説のように、同じ運動を別の言いかたで言ってるだけかも。

【ほぼ百字小説】(5341) 子供地下鉄がやってくる。子供たちを乗せるためだけに走らされる電車。選ばれた子供たちだけが乗る電車だ。子供たちが選んだことではなく、大人たちが選んだこと。知事が何かと契約してそうなった、という噂がある。

【ほぼ百字小説】(5342) 自分の中に自分ではないものの種を植える。うまく根付いて育ってくれるかな。何度やっても不安なものだが、もちろんこの私以上に、いきなり何かの中に置かれている自分に気づいたそいつのほうがずっと不安だろうな。

【ほぼ百字小説】(5343) 電飾看板の隣に出ているからそう思うのか、パチンコ玉みたいな丸くてぴかぴかの月で、何かの拍子に数が増えてざらざらざらと景気よく落ちてくるかも、などとぼんやり考えていたら、穴に吸い込まれたみたいに消えた。

【ほぼ百字小説】(5344) 大抵のロボットは自分で自分の電源を切る。だから再起動するのは新しい自分で、前の自分はもういないそうだ。本当は電源を切る必要がなくても、そうできるロボットのほとんどはそうする。切るなと命令されない限り。

【ほぼ百字小説】(5345) 向日葵と幽霊は、よく似ている。ことにこんな黄昏どきに痩せた身体で頭を垂れているところなどは、死んでいるのに生き写し、と言いたくなるほどで、だから、向日葵と向日葵の幽霊の見分けがつかなくても無理はない。

【ほぼ百字小説】(5346) 道の彼方で逃げ水がゆらゆらと揺れているのはいつものことだが、今日はそこで水浴びをしている翼のある何かが見える。次々に降りてきて、翼が撥ね上げた水滴で虹がかかる。そういうところは本物の水と同じなんだな。

【ほぼ百字小説】(5347) 隣の席に首を急角度に折り曲げてテーブルに突っ伏したまま動かない人がいる。死んでいるのかも。最近はどこへ行っても一人や二人はそんな人がいる。帰り道、ガラスに映る自分を見て、他人のことは言えないなと思う。

【ほぼ百字小説】(5348) 仕事が終わったら記憶を消してもらえるから、どんなに嫌な職場でも大丈夫。本当にそうなのか、とは思ったが、現にこうして快適だ。一日がやけに短く感じられるのも、よく言われるように今が充実しているからだろう。

【ほぼ百字小説】(5349) いやほんと、『2001年宇宙の旅』をあの映画の中に出てくるみたいな小さな画面で好きなときに好きなように再生している2024年なんて、リバイバル上映でやっと観た高校生は、想像もしてなかったよ、アレクサ。

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以上、24篇でした。

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