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今週の【ほぼ百字小説】2023年1月23日~1月29日


 今週もやります。【ほぼ百字小説】をひとつツイートすると、こっちにそれについてあれこれ書いてます。解説というより、それをネタにした雑談だとでも思ってください。
 以前から、マイクロノベルという形式がもっと一般的になってほしい、もっと多くの人に届いてほしい、そのためには継続的な書籍化が必要、というようなことを言ったり書いたりし続けてきたんですが、それがようやくなんとかなりそうなところにきています。『100文字SF』の先を目指そうと思います。ということで、乞うご期待。

 あ、投げ銭は歓迎します。道端で演奏している奴に缶コーヒーとかおごってやるつもりで100円投げていただけると、とてもやる気が出ます。

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1月23日(月)

【ほぼ百字小説】(4299) 家と家の狭い隙間から、茶色の縞の尻尾だけが出ていて、手招きするように動いている。誘いに乗ってはいけない。尻尾だけの生き物で、様々な生き物に尻尾として寄生するらしい。猫又とか九尾の狐とかも、そうだとか。

 猫もの、というか、尻尾もの。まあたまに書いている架空博物誌の一環ですね。尻尾が分かれると魔物になる、ということに対する仮設みたなもの。尻尾が分かれてるんじゃなくて、あれは尻尾状の何かに寄生され乗っ取られているのか、とか書くともっともらしいですが、実際には歩いてて猫の尻尾が家の隙間から覗いてるのを見て、そこからそのまま書いただけですけどね。尻尾をつかんだんです、文字通り。

【ほぼ百字小説】(4300) 町の中を複雑に廻っている細い水路は家の台所にまで入り込んでいて、夜中に覗いてみると水底からこっちを見上げている主のような大きな魚と目が合ったりすることも。深夜に台所へ行く者だけがそのことを知っている。

 ずいぶん前に琵琶湖のほとりの針江というところに行ったんですが、そのときにこういう風景を見て、夢の中みたいでいいなあ、と思った。無意識というか夢分析できそうな風景ですよね。大きな鯉が家の中にまで入り込んでくる。そのまんま小説になるようなイメージで、それを舞台にするより、その不思議な感じそのものを書きたかったんですがなかなかうまくいかず、そうか、百文字ならちょうどいいな、と思って書いたやつ。深夜の台所、というのもなんだか夢の中っぽい。家の主はじつは鯉だったりして、とか。

1月24日(火)

【ほぼ百字小説】(4301) 四本足のものを家に迎え入れるときは、それなりのことをしなければならない。きちんとやらないとすでに家にいる四本足のものたちと仲たがいするらしい。それならば、と朝からあれこれやって椅子を引き取りに行った。

 四本足のもので食べないのは机だけ、という言い回しがあって、広東人を指しているんだったかな。まあいかにも中華料理という感じですよね。四本足のものとして机を出すのはなかなか洒落てます。ということで、これはその裏返しみたいなものですね。家にいる四本足のものたちの話。ちょっと必要があって、メルカリで椅子を買ったんですね。それを引き取りに行くときに思いついた。

【ほぼ百字小説】(4302) ベッドではないものをベッドということにしたり、窓はあるがないことにしたり、ドアはないがあることにして行っているのは、これが本番ではなくて稽古なのだから仕方がないし、どうせ本番はヒトではなくなるのだし。

 今、突劇金魚の公演『罪と罰』の稽古に行ってて、まあ芝居の稽古ってこんな感じなんですよ。実際に大道具とか揃ってないし、段差なんかもちろんない。ということでそんな風にしてやってるんですが、でもまあ芝居というのがそもそも本当じゃないことをそういうものとしてやってるわけですからね。でも、全員でその虚構を共有しているから、ないものをあるものにしたりその逆もできるんですね。そして、ヒトになりすましているものたちが、その正体をあらわして行うことのリハーサルをしているとしたら、ということで。まあそういうのには段取りは大事ですから当然、何度も稽古するでしょうし、でも本番じゃないからヒトの姿のままで、ヒトじゃなくなってる、という態でやるはずですから。

1月25日(水)

【ほぼ百字小説】(4303) 昨夜のあれは氷が押し寄せてくる音だったのか、と表を見て納得した。路地を流氷が流れていく。このまますんなり通り抜けてくれたらいいのだが。戸口に置かれていた回覧板で、隣町が氷山に衝突して沈んだことを知る。

 ということで、日本中凍りついてますが、大阪市内はなんともないです。台風もめったにこないし雪も降らない、夏は暑いですが、それでもかなり安定した気候の住みよいところなのだろうなと思います。流氷の音、というのはテレビで聞いたことがありますが、なかなかすごいですね。実際に聞いたら包囲されてる感じで、ほんとにすごいんだろうなと思う。風が強くてごおごお鳴ってて、そんなことを考えた。流氷が路地を流れていく、というのはなかなかいい絵ですよね。抵抗なく抜けていってくれたらあんまり被害がない。そして流氷、氷山、あの客船、の連想で、そしてその知らせはどうやってもたらされるか、という流れ。

【ほぼ百字小説】(4304) 芝居の稽古終わりで共演者に、足がきれいですね、と言われ、えっ、どういうこと? とあらためて見てみると、なるほど毛が無い。いつのまにこんなことに。老化なのだろうなあ。まあふくらはぎは昔より綺麗になった。

 このあいだあったことそのまんま。生きていると意外なことが起こりますね。まさか女優に、足がきれい、なんて言われるとは思わなかった。稽古着はちょっと短いジャージみたいなやつで、ふくらはぎが半分くらい出てるんです。見たら実際、脛毛が全然ないんですよ。太腿もない。いつからなのかなあ。髭も頭も脇の下も股間もあるんですけどね。不思議だ。大丈夫か? でも聞いたところでは、このくらいの年齢で足に毛がなくなった、という人はいるみたいで、たんなる老化なのか。そんなこと考えてもみなかった。おもしろいです。

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