今週の【ほぼ百字小説】2022年10月3日~10月9日
有料設定になってますが、無料で全文読めます。
今週もやります。ひとつツイートすると、こっちにそれについてあれこれ書いてます。解説というより、それをネタにした雑談だとでも思ってください。
マイクロノベルと私が勝手に呼んでいるこの形式は、中学生くらいのための小説への入口だったり、しばらく小説から離れてしまっている人の小説へのリハビリだったり、もちろん普通にそんな形式の小説として、他にもまだ誰も気づいてないいろんな可能性があると思うし、このままでは先細っていくだけだとしか思えない小説全体にとってもかなり大事なものだと私は思います。気が向いたらおつきあいください。
あ、投げ銭は歓迎します。道端で演奏している奴に缶コーヒーとかおごってやるつもりで100円投げていただけると、とてもやる気が出ます。
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10月3日(月)
【ほぼ百字小説】(4082) 納屋で遊んでいて、大きな魚の外側を見つけた。大人くらいある魚。鰭も鱗も目玉もある。お腹に切れ目からすっぽり中に入れる。ずっと昔、ヒトは魚だったってことは知ってたけど、思ってたほど昔じゃなかったんだな。
4080の続き、というか、その世界観に引っ張られて書いたやつ。だからまあ、日本の田舎を舞台にした人魚姫みたいな感じかな。いや、べつに繋がってなくてもいいですけどね。ヒトと魚がけっこう近い世界だと思ってください。納屋で昔の変なものを見つける、という話は好きです。子供の頃、親戚の家の納屋で遊んだことがある、というのはなかなか幸せな体験のような気がします。
【ほぼ百字小説】(4083) 泥の中で働いているのは生きているポンプだ。泥から栄養を得て動き続けていて、そのおかげで町はなんとか泥に沈んではいないのだが、すぐそこまで返却期限が迫っている。借りた心臓は利息を付けて返さねばならない。
これはなんだろうなあ。まあ泥人間ものでもあるのかな。ずっと泥を外に出し続けないと沈んでしまう、というイメージは昔からありますね。『大卒ポンプ』なんて短編もそんな感じ。で、ずっと仕事をし続けないといけないものとしての心臓かな。そうやって生命を保ってるわけですからね。で、最後は心臓からの「ベニスの商人」の連想がちょっと入ってるかも。
10月4日(火)
【ほぼ百字小説】(4084) 攻撃するあの町の模型として作られた小さな町、そこで暮らす住人として作られた。逃げ出したのは、攻撃が行われることをあの町の住人に知らせるため。私の町と同じことが起こらないように。私のあの町は、もう無い。
ミニチュアの町の話。D-dayのドキュメンタリーを見てて、立体写真から作った立体地図というか模型がすごく役にたったというのがおもしろくて、砂を敷いて作ってる地形の上にミニチュアの町が作られてて、それをパイロットとかに見せるんですね。それをもっと精密にして、住人も作って、そして同じように攻撃して、となるとこういうこともあるだろう、と。まあ怪獣映画に限らず、ミニチュアの町というのは破壊するために作られることが多い。そういう町の住人の話。そりゃ恨むだろうな。
【ほぼ百字小説】(4085) 感染を避けるためずっと中止だったが、今年はひとだまつりが行われる。ひとだまつりは、人魂の祭りであると同時に人魂釣りでもあるそうな。昔は人魂の流れでこの路地が光の川みたいになったもんだ、と年寄りは言う。
今年はけっこうあちこちで秋祭りが復活しましたね。まあいいかげんにやっとかないと、もうやれなくなってしまいそうです。それならそれで仕方ないとは思うけど。これは、地蔵盆みたいなものをイメージしてます。今年はまだなかったですねえ。あちこちの路地が夜店になって、あれはなかなかいいもんですが。まあそういうのと、ひとだまつり、という駄洒落から。夜店にはヨーヨー釣りとか、つきものですから。
10月5日(水)
【ほぼ百字小説】(4086) 今日も、四角い夕陽が落ちていった。あの日から、夕陽は四角くなった。夕陽が壊れたのか、世界のどこかが壊れたのか、我々のどこかが壊れたのだと言われている。ずっとこのままなのかな、と思っていたら数が増えた。
これも見たまんまなんです。ここのいちばん上に貼ってる写真。あれを取ったときに、ちょうど夕陽が向こう側のホームの窓のあたりで、窓が三つ、夕陽の色に光ってた。四角い夕陽みたいに見えたので、これはなかなかいいなと思ってそのまんま。夕陽が四角くなった世界。でも、こっちの認識がおかしいのかもしれない。そして、三つ並んでるので、四角になる、の次は、数が増える、でいいか、と。そんなのばっかりですね。
【ほぼ百字小説】(4087) 公園の植え込みの中に穴を発見。これが噂の抜け穴か、と入ってみたら、穴の先は地獄極楽の絵にある地獄みたいなところ。こっちからではなく向こうからの抜け穴かな、とあのときは思ったが、やっぱりこっちからかも。
これもわりとシリーズっぽいやつ。何回か出てきている抜け穴。元にしているのは、真田の抜け穴。大阪にあります。真田山公園
にある。公園に抜け穴がある、というのは、ほんとに夢の中みたいで大好きなので、私はよく使います。抜け穴と同じくらい好きなのが、物理的に存在する地獄、という設定で、これ、どちらも小松左京のショートショートからです。中学くらいのころに、ほんとに何度読んだかわからないくらい読みました。で、地獄からの抜け穴か、と思ってたら、こっちが地獄よりひどい世界になってしまった、というわりとストレートなサゲ。
10月6日(木)
【ほぼ百字小説】(4088) 亀と猫と狸とが重なり合い、ひとつの波を作っている。その波自体は目に見えないが、点在する田んぼの稲が波打つのを観測することで、それが存在しているのがわかる。亀にはふたつ、猫と狸にはひとつずつ在る田んぼ。
この【ほぼ百字小説】の自分にとってのイメージでもあります。亀的世界と猫的世界と狸的世界の重なったもの。ということで、波の重ね合ねという量子論的イメージに重ねてみました。で、漢字ネタでもありますね。どの感じにも田が入ってて、そこに実った稲が波打っている、というのは、まあ稲刈りの季節だからかな。
【ほぼ百字小説】(4089) 夢の中で聞いた妻と娘の会話が夢だったのか実際に交わされたものだったのか確かめようとしたが、ふたりだけの会話のままにしておくほうがいいかと思い直し、でもこうしてたまに反芻していることを妻と娘は知らない。
これはあったことそのまんま。寝るのはたいてい私がいちばん早い。昔から早寝早起きなんです。で、夏場は唯一エアコンの効く部屋で三人、いわゆる川の字で寝ているので、寝てから妻と娘が会話をしているのが夢うつつで聞こえてくることあります。夢だったり本当にそうだったり両方が混ざっていたり。本当にあったことなのかどうかもわからないままそれを記憶していて、でもそんなことは私しか知らない、というのが、なんだか夢と現実は変に入り組んでいて、こういう感覚は好きなんですね。だからそのまんまにしておきます。どういう会話だったのかはもちろん書きません。
10月7日(金)
【ほぼ百字小説】(4090) 社内にアラートが響き渡る。不安に駆られた誰かがまたボタンを押したのだろう、と今では誰も反応しなくなっているが、押したのが社長、となるとそうも言ってはいられないか。ここが危機的状況であるのは間違いない。
まああるあるですね。いちおう時事ネタでもありますが。しかし最近はどうなのかな。私が中学生くらいの頃は、よく学校の火災報知器が鳴ってました。あの頃ってまだ火災報知器が珍しくて、ボタンを押したくて押したくてたまらない、という感じでした。ほんとです。私も押したかった。あのプラスチックを押し破るのをやってみたいんですね。だからあれは、いたずらというより、衝動だったんだと思います。今の子は、もうそんなことないかな。今だとたぶん防犯カメラで特定されてしまうしね。ということで、アラートよりもそれが鳴ってるという状況のほうがだいぶやばいかも、というのを落ちにしときました。
【ほぼ百字小説】(4091) 暗闇で暗闇のことを書いた文章を読んでいると、暗闇が寄ってきて、周りの闇がもっと深くもっと濃くなっていく気がする。闇に埋もれながら、でもいつもより声が響いているっぽいのは、暗闇が助けてくれているのかも。
これは一昨日、朗読barというイベントに出て朗読をやったときのことそのまんま。コモンカフェ、という地下の店なんですが、ほんとに真っ暗闇になる。明かりも蝋燭一本と小さなライトだけで、なかなかの暗闇です。まあそういうところなんで、今回私は、暗闇に関する【ほぼ百字小説】を6つと暗転を題材にした1500字の怪談を読みました。ああいい暗闇だったなあ。
10月8日(土)
【ほぼ百字小説】(4092) 内心の自由は侵害しませんから、職務命令として行ってください。職務命令として銃をとってください。職務命令として敵を撃ってください。職務命令として爆弾を抱えて戦車の前に倒れ込んでください。内心は自由です。
あるあるですね。これまでも、これからも。
【ほぼ百字小説】(4093) 星空が必要で星が集められた。もっとも舞台の上だから、それなりの大きさというか小ささじゃないといけない。そのぶん寿命も短いが、楽日まで保てばいい。そんな星にも惑星があって、文明や劇場なんかもあるかもね。
お話の型としては古典SF(と言ってもいいでしょう)「フェッセンデンの宇宙」ですね。それと舞台ものでもある。まあ舞台というのも、実験室の宇宙とか、箱庭みたいなものですからね。これは実際にそういう舞台を観て思いついた話。最後のシーンで星空が出てくる。舞台で背景が星空になると、クライマックスらしくなる。今はもっとハイテクになってるんだろうけど、私の知ってるのは麦球という小さな豆電球みたいなのをいっぱいぶら下げて星空を作ったりしてました。ああいうものすごく簡単な仕掛け(けっこう手間はかかるんですけどね)が星空に見える、というのが好きですねえ。いかにも嘘っぽくて。書き割りの月なんかもいいなあ。とかそんなことを考えて、それからやっぱり「フェッセンデンの宇宙」を連想して、そんな星にも生き物がいて、というのはそのまま使いました。で、そこに文明があれば劇場もあって、その舞台の上には偽物の星空が、という落ちで、これも「フェッセンデンの宇宙」の裏返しというか、ひとつ戻した感じですね。
10月9日(日)
【ほぼ百字小説】(4094) ぶつかったら入れ替わる、ということでやたらとぶつかる者たちが増えた結果、ぶつかって消滅する例が見つかり、ぶつかって融合する例も。むしろそのほうが圧倒的に多いらしく、あの肉塊は日に日に膨れ上がっている。
まあぶつかったら入れ替わるのは、映画「転校生」からでしょうねえ。あれ以来、けっこう入れ替わりものがたくさんできました。さすがにぶつかって入れ替わるは、あんまりないと思うんですが、でも「ぶつかって入れ替わる」はひとつのお約束みたいに認知されて、コントとかでは当たり前のように使われてますね。なかなかすごいことです。でもまあ考えたら、入れ替わるというのはさすがに難しいんじゃないかと思います。いろいろ複雑です。で、入れ替わりが起こるのはすごく例外的なことだと考えると、こっちのほうが起こりやすいんじゃないかと。消滅というか、対消滅で爆発する、というのはSFの反物質ネタなんかで昔よくありました。ぶつかって融合なら、物理的にはそんなに難しいことじゃないし、あってもそんなにおかしくないと思うんですが。
【ほぼ百字小説】(4095) 雨が激しいので川の様子を見に来た。見に行ってはいけないとわかっていたが見に来た。水は土手とほぼ同じ高さまで来ていて見ているだけで引き込まれそうで実際そうなる、と未来であり過去でもある出来事を思い出す。
いわゆる死亡フラグ、その典型的なやつですね。これをやるとそうなるな、ということをやって実際にそうなる。だから一種のあるあるでもあります。これはそういうことをやってそうなった人が、そうなることがわかってるのにそれを繰り返してる、みたいな話。幽霊というのは、そういうものなんじゃないかと昔から思ってます。ある時間をずっとリピートしているようなもの。そういう存在にとっては、今から起きることは未来でもあり過去でもあるんだろう、とそういう話。
【ほぼ百字小説】(4096) よくある水色のポリバケツで、蓋に漬物石みたいなのが載っている。ごとごと鳴るから、何かがいるのは間違いない。石はどけないよう大家に言われている。こんなので封じられるんだから大したことはないけどね、とも。
こういう風景はよく見かける。路地とか歩いてると。いや、ごとごとは言ってません。蓋の上に石が置いてあるだけ。石というのは、なんとなく呪術的な感じがしますよね。漬物だってそうかもしれないなあ。そこからの妄想です。『人面町四丁目』でも、そんなのは書いたな。よくわからないままに、これだけは守ってね、というのは借家あるあるのような気がします。ああ、そういえばそういうのも『万象2』に書いたなあ。「借家惑星カメダス」という短編です。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08X446WV6/
【ほぼ百字小説】(4097) AIと泥は相性がいいのか、泥で出来たものたちのことを書いた文章を食わせると、それを咀嚼したAIは、なかなかいい絵を吐き出す。では、泥で出来たAIのことを書いた文章を食わせたらどうだろう。やってみるか。
AIが作る絵、なかなかおもしろいですね。どうもそこには「意味」というものの処理が絡んでいる感じで、それをかなりおもしろいです。泥の話を食わせたらなかなかいい絵が出てきた、というのは本当。これをどうやって食わせればいいのか。あんまり長文だとダメっぽい。やれるとしたら、「泥で出来たAI」くらいかな。「泥で出来たAIを書いた文章」くらいまではいけるのかな。
ということで、今週はここまで。
まとめて朗読しました。
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【ほぼ百字小説】(4082) 納屋で遊んでいて、大きな魚の外側を見つけた。大人くらいある魚。鰭も鱗も目玉もある。お腹の切れ目からすっぽり中に入れる。ずっと昔、ヒトは魚だったってことは知ってたけど、思ってたほど昔じゃなかったんだな。
【ほぼ百字小説】(4083) 泥の中で働いているのは生きているポンプだ。泥から栄養を得て動き続けていて、そのおかげで町はなんとか泥に沈んではいないのだが、すぐそこまで返却期限が迫っている。借りた心臓は利息を付けて返さねばならない。
【ほぼ百字小説】(4084) 攻撃するあの町の模型として作られた小さな町、そこで暮らす住人として作られた。逃げ出したのは、攻撃が行われることをあの町の住人に知らせるため。私の町と同じことが起こらないように。私のあの町は、もう無い。
【ほぼ百字小説】(4085) 感染を避けるためずっと中止だったが、今年はひとだまつりが行われる。ひとだまつりは、人魂の祭りであると同時に人魂釣りでもあるそうな。昔は人魂の流れでこの路地が光の川みたいになったもんだ、と年寄りは言う。
【ほぼ百字小説】(4086) 今日も、四角い夕陽が落ちていった。あの日から、夕陽は四角くなった。夕陽が壊れたのか、世界のどこかが壊れたのか、我々のどこかが壊れたのだと言われている。ずっとこのままなのかな、と思っていたら数が増えた。
【ほぼ百字小説】(4087) 公園の植え込みの中に穴を発見。これが噂の抜け穴か、と入ってみたら、穴の先は地獄極楽の絵にある地獄みたいなところ。こっちからではなく向こうからの抜け穴かな、とあのときは思ったが、やっぱりこっちからかも。
【ほぼ百字小説】(4088) 亀と猫と狸とが重なり合い、ひとつの波を作っている。その波自体は目に見えないが、点在する田んぼの稲が波打つのを観測することで、それが存在しているのがわかる。亀にはふたつ、猫と狸にはひとつずつ在る田んぼ。
【ほぼ百字小説】(4089) 夢の中で聞いた妻と娘の会話が夢だったのか実際に交わされたものだったのか確かめようとしたが、ふたりだけの会話のままにしておくほうがいいかと思い直し、でもこうしてたまに反芻していることを妻と娘は知らない。
【ほぼ百字小説】(4090) 社内にアラートが響き渡る。不安に駆られた誰かがまたボタンを押したのだろう、と今では誰も反応しなくなっているが、押したのが社長、となるとそうも言ってはいられないか。ここが危機的状況であるのは間違いない。
【ほぼ百字小説】(4091) 暗闇で暗闇のことを書いた文章を読んでいると、暗闇が寄ってきて、周りの闇がもっと深くもっと濃くなっていく気がする。闇に埋もれながら、でもいつもより声が響いているっぽいのは、暗闇が助けてくれているのかも。
【ほぼ百字小説】(4092) 内心の自由は侵害しませんから、職務命令として行ってください。職務命令として銃をとってください。職務命令として敵を撃ってください。職務命令として爆弾を抱えて戦車の前に倒れ込んでください。内心は自由です。
【ほぼ百字小説】(4093) 星空が必要で星が集められた。もっとも舞台の上だから、それなりの大きさというか小ささじゃないといけない。そのぶん寿命も短いが、楽日まで保てばいい。そんな星にも惑星があって、文明や劇場なんかもあるかもね。
【ほぼ百字小説】(4094) ぶつかったら入れ替わる、ということでやたらとぶつかる者たちが増えた結果、ぶつかって消滅する例が見つかり、ぶつかって融合する例も。むしろそのほうが圧倒的に多いらしく、あの肉塊は日に日に膨れ上がっている。
【ほぼ百字小説】(4095) 雨が激しいので川の様子を見に来た。見に行ってはいけないとわかっていたが見に来た。水は土手とほぼ同じ高さまで来ていて見ているだけで引き込まれそうで実際そうなる、と未来であり過去でもある出来事を思い出す。
【ほぼ百字小説】(4096) よくある水色のポリバケツで、蓋に漬物石みたいなのが載っている。ごとごと鳴るから、何かがいるのは間違いない。石はどけないよう大家に言われている。こんなので封じられるんだから大したことはないけどね、とも。
【ほぼ百字小説】(4097) AIと泥は相性がいいのか、泥で出来たものたちのことを書いた文章を食わせると、それを咀嚼したAIは、なかなかいい絵を吐き出す。では、泥で出来たAIのことを書いた文章を食わせたらどうだろう。やってみるか。
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以上、16篇でした。
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