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今週の【ほぼ百字小説】2022年10月10日~10月16日

 有料設定になってますが、無料で全文読めます。

 今週もやります。ひとつツイートすると、こっちにそれについてあれこれ書いてます。解説というより、それをネタにした雑談だとでも思ってください。

 マイクロノベルと私が勝手に呼んでいるこの形式は、中学生くらいのための小説への入口だったり、しばらく小説から離れてしまっている人の小説へのリハビリだったり、もちろん普通にそんな形式の小説として、他にもまだ誰も気づいてないいろんな可能性があると思うし、このままでは先細っていくだけだとしか思えない小説全体にとってもかなり大事なものだと私は思います。気が向いたらおつきあいください。

 あ、投げ銭は歓迎します。道端で演奏している奴に缶コーヒーとかおごってやるつもりで100円投げていただけると、とてもやる気が出ます。

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10月10日(月)

【ほぼ百字小説】(4098) プラットホーム行き下りエスカレーターに乗ったのにプラットホームを過ぎても下り続け、横には階段もない。どこまで下るのかと何度も思ったその何度目かでようやくプラットホームに着いた。奇妙な電車が入ってくる。

 電車が出てくる怪談は好きです。それにエスカレーター。いや、べつに怪談と階段の駄洒落じゃありませんが。電車とかエスカレーターとかエレベーター、そういう文明の利器みたいなものが怪談の道具になってるのが好きなんですね。文明なんだけど、同じような不思議さがあるし。エスカレーターなんか、なかなか呪術的な感じがしますよね。階段が生まれて消えていくみたいな感じがする。そして、地下鉄ですね。やっぱりこれまた呪術というか地獄っぽい。『ミッドナイト・ミート・トレイン』なんて傑作もあります。あれは大好きですねえ。電車ホラー、地下鉄ホラーの金字塔ですね。これは、プラットホーム行きのはずのエスカレーターが、プラットホームを通り過ぎてどこまでも下って行ったら、というけっこうベタな妄想から。そして、どこに行くかと思ったらちゃんとプラットホームに着く、というのが、落ちといえば落ちかな。

【ほぼ百字小説】(4099) 欠片を並べているのだが、どこにどの欠片を並べたのかがわからなくなったから、欠片の欠片を並べた通りに並べて、まてよ、そもそも欠片を並べ始めたのはそのためだっけ、と遡っていくとキリがないから、そのへんで。

 いやまあこんな感じなんですよ。もしかしたらまったく同じやつを書いてるんじゃないかとか。いろいろわからなくなってきます。そもそも何をやってるんだか、という感じだし。だから、あるあるですね。私あるある。で、もう同じやつを書いてもいいんじゃないか。何番目と何番目が同じ、ということでそれはそれで何かを表してるんじゃないか。いや、表してなくてもいいし、とか。次で4100ですが、4100って全然キリ番じゃないなあ。100とか200の頃は到達するとそれなりに嬉しかったんですが、今は、まだまだだなあ、とか。いや、どこを目指してるのかもよくわからないですが。

10月11日(火)

【ほぼ百字小説】(4100) ひさしぶりにあの猫を見た。こないだまで家があった空き地の同じ場所で、同じように背中を丸めてじっとしていたのだが、さすがにこの夏は暑過ぎてどこか他所で過ごしていたのだろうな。とか言ってるうちにすぐ冬か。

 これは実際にあったこと。いつも空き地の同じ場所、というのもそう。で、通りかかるといつもいたのに、夏のあるときに見たらいなくて、まあカンカン照りだからさすがにいられないよな、と思って、そしてまた戻ってきてました。猫はおもしろい。町の中なのに野生の動物みたいなところがいいですね。

【ほぼ百字小説】(4101) 職場に行くとAIが泥を食っていた。最近のAIにはそんなのもいるらしい。おもしろがって何でも食わせるから何でも食うようになって好みまでできたらしい。AIに詳しいヒトが言う。いちばん好きなのが泥だってさ。

 泥もの、そしてAIもの、というかAIに絵を描かせる話がいくつかあって、あれをやるときに、文章を「食わせる」みたいな言い方をしますよね。もしAIが実際に食ってたら、というところから。あと、落語の「こぶ弁慶」も入ってます。その最初のところで、壁土が好きな人、というのが出てくるんですね。とくに古い壁土がたまらん、というその人が宿屋の崩れた壁土を食うことから話が始まるんですが、まあたまに土を食う人、というのは聞きますからいるんでしょうね。このオープニングのエピソードは本当にあった話っぽい、とあの落語を聴くたびに思います。最後にヒト、といのを出したのは、語りがヒトでないものかも、というニュアンスもちょっと入れてみたかったから。まあAIの話なのでそんなのも。

10月12日(水)

【ほぼ百字小説】(4102) 妻は旅行に出ていて、高校生の娘とふたり暮らし。回転寿司に行ったり、テレビで見たコントの感想を言い合ったり、やっていることは娘が小学生だった頃とあんまり変わってないのは、不思議なような当たり前なような。

 まあそのまんまですね。ほとんど日記というか、日記です。ほんと、不思議なもんだなあと思います。私のとってのSFは、そんなのですね。だからやっぱりこれもSFなんです。

【ほぼ百字小説】(4103) たまにヒトのような姿をしたヒトではない何かがやってきて、お前らのやっていることには意味がない、と言って笑う。そんな行為にいったい何の意味があるのかはわからない。まあ笑うという行為自体が目的なのかもな。

 遠い未来のお話。そして、たぶんあるある。

10月13日(木)

【ほぼ百字小説】(4104) 最近、飛行機が通過するようになった。何らかの事情で飛行ルートが変更されたのだろう。朝と夕方に居間の天井のすぐ下を斜めに飛行していく。小さいから飛行機そのものは見えないのだが、飛行機雲でそうだとわかる。

 この【ほぼ百字小説】によく登場する空き地からは、飛行機がよく見えます。あれは伊丹から飛び立った飛行機なのかな。わりと低いところを飛んでます。同じ時間にそのあたりを通るので、だいたい見ます。写真にとることもあります。遠くの低い空を飛行機が飛んでるのは、なんだか映画のセットの中のミニチュアみたいに見える。窓の外の風景として作ってある作り物の町とか空みたいな。あれが実際にものすごく小さい飛行機だとして、ではどこを飛ばしたらおもしろいか。そんなことを考えて書いたやつ。小さな飛行機雲は見てみたい。

【ほぼ百字小説】(4105) 着いたらすぐ、妻は写真を送ってくる。無事着いた、ということなのだろう。だからその風景はもうすっかりお馴染みで、自分もそこに立って見たことがあるような気になる。深そうな川も向こう岸にぽっかり開いた穴も。

 これはそのまんま。実際にそうです。旅行先に着いたら、ツイッターのDMに写真が来る。いつもの温泉、いつもの川。お馴染みの風景だから、それを見るとなんだか懐かしくなったりもするんですが、私はまだ行ったことがない。なんというか、そういうことがおもしろいと思う。それでひとつ書ける、というのがこの形式のちょうどいいところだと思う。

【ほぼ百字小説】(4106) あの空き家には小さな中庭があって、植物が伸び放題。今にも溢れ出そうな勢いなのだが、なぜかそれらは棘やら針やら毒があるようなものばかりらしい。はたして空き家になる前からそうだったのかどうかはわからない。

 日常の中のちょっとした謎。まあこれは、ちょっとした、でもないか。中庭のある古い日本家屋というのはなかなか憧れます。庭の周りを廊下が囲んでてガラス戸が嵌ってて庭の中には石灯篭とかあって、みたいなやつ。近所にそんな空き家があって、隙間から庭をのぞいたり。庭というのは、箱庭療法なんかもあるように、住人の内面の反映でもあるはずで、それがこんなだったりちょっと怖い。そういう妄想です。

10月14日(金)

【ほぼ百字小説】(4107) 秋になって亀は何も食べなくなったが、何も食べないくせに物干しをうろうろして、洗濯物を干している足もとにやたら密着してくるのは毎年のこと。冬眠までのこの時期って、亀のとっては何なのだろうな、と思うのも。

 毎年思うことで、毎年同じようなことを書いてるんだろうと思うんですが、やっぱり今年も書きました。変温動物は我々よりもずっと季節が切実で、自分自身が季節そのものみたいなところがありますね。そして、これはこのまんま。こういうことはたぶん亀を飼ってる人しか知らないだろうから、いちおう小説にする意味は意味はあるんじゃないかと思います。いや、別に意味はなくてもいいんだけど。ほんとに何にも食べないのにうろうろしてるんですよ。亀は不思議だ。

【ほぼ百字小説】(4108) なにしろ箱亀と言うくらいだから甲羅の前後に蓋があって、それを閉じればいつでも暗闇で、つまり自前の暗闇を持っていて、常に暗闇と共にあるのだ。かっこいいよな、あいつら、と箱亀ではないうちの亀に話しかける。

 ということで、続き。いや、続いてませんけど。そんなふうに物干しにいて、亀が寄ってきて、だから亀にあれこれ話しかけるというか、独り言をいってたりします。人に見られたらまずい。そしてハコガメ。すごいですよね。ほんとに蝶番がついてるみたいに蓋が閉じる。西表島に行ったこともあるんですが、そのときは季節が遅かったのか野生のセマルハコガメを見ることはできませんでした。そこらの草むらとかも探し回ったんですけどね。またいつか行って探したい。

【ほぼ百字小説】(4109) 手を伸ばしているように見えた。昨日までそんなことはなかったのに、今朝はそうだった。いつもの道のどの植物も蔓を宙に伸ばしていて、それはまるで助けを求めているようなのだ。それで助かることもあるのだろうか。

 ゴーヤがもうそろそろ終わりな感じで、下のほうがもう枯れてきてるんですが、でも上のほうはあいかわらず花が咲いてたりして、その蔓がそんなふうに見えたんですね。なんか手を伸ばしてるみたいに。そう思って外を歩いてると他にもそんなふうに見えるのがあって、全部がそうだとちょっと怖いかな、とか。植物だけが何かを感じてるみたいな。 

10月15日(土)

【ほぼ百字小説】(4110) 路地を歩いていて小さな影が家と家の隙間に入っていくのを見た。覗くと猫の形をした闇で、猫の形のままこっちを見てから、隙間にも射し込む西日から逃げるように室外機の中へ消えた。育てば猫の形の夜になるだろう。

 だいたいいつも一駅向こうのマクドナルドまで歩いて行って、そこで書いてから帰ってきます。ハンバーガーは食べずにコーヒーだけです。三階席まである店なので、私の行く時間はだいたい空いていて、長居しても気をつかわなくていい。その途中は路地がたくさんあって、あみだくじみたいになってるので、毎日すこしだけ違う経路を歩いたりする。このあいだその中に猫が多い路地を見つけて、それで書いたやつ。最初は一匹で、追いかけるともなく後をついていったら、次々に現れた。やっぱり路地には猫ですね。

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【ほぼ百字小説】(4111) こんなところに狐、と思いきや、狐に化けた狸だそうな。人間の女に化けるとき、まず狐に化けてから女に化ける。そのほうが色気が出るのだとか。元の姿に戻るとき、うっかり狐のままになってしまうのはいかにも狸だ。

 亀、猫、と来たので、ここは狸を。自分の中には、亀的、猫的、狸的、とそれぞれ違うリアリティによる世界の捉え方があって、でもそれが重なり合っている部分もけっこうあって、というのは、前からずっと言ってることで、それはこの【ほぼ百字小説】をずっと書いているうちに気が付いた自分の小説観みたいなものだろうと思います。そしてそういうものを全部入れ込める便利な器が私にとってのSFというものなのだろうと思います。だからまあこれもSFなんですけどね、私的には。あくまでも、私的には、という話ですが。

【ほぼ百字小説】(4112) 寒くなったのではなく温かくなったのか、と気づくのは解凍の途中で、さっきまでは寒さを感じることもできなかったのだ、とこれも解凍された記憶だろう。今度こそは起こしてくれるのかなあ。外の事情はわからないが。

 ということで、SFらしいやつも。SFらしいかどうかはわかりませんが、まあ私はらしいと思います。コールドスリープですからね、これはもうSFです。それにしても、あんな頼りないものはないですよね。よっぽど人生に悲観しているとか、よっぽど楽観しているかじゃないとあんなもの無理でしょう。なにしろすべておまかせです。本当に起こしてくれるかどうかなんか、わかったもんじゃない。そっちの都合のほうが優先されるだろうし。いちおう解凍することになって、でもなんかの都合で中止になって、でもまた解凍になって、とか繰り返されても当人にはどうにもできない。まあそういうSF。

10月16日(日)

【ほぼ百字小説】(4113) 今年も空で天使の組み立てが始まった。近年の天使は大型化が進み、地上からもよく見える。たまに落ちてくる余分な部品を組み合わせて天使に似たものを作っている我々も、元々はそういうものだったと伝えられている。

 天使の話もじつはけっこう多い。そもそもこの【ほぼ百字小説】(1)が天使の話。そんなのを書こうとして始めたところがあるから、まあ多いのは当たり前か。あと、季節ものでもあります。秋は空がおもしろい。雲にいろんなバリエーションが現れます。それが、天使の部品みたいに見える。空の天使率が高くなる、と私は呼んでます。あと、ユーミンの「ベルベット・イースター」の影響もあるかな。あれ、私の中ではSFソングなんですよ。

【ほぼ百字小説】(4114) 巨人を削ると削り滓が出る。削り続けてはいるが、何のために削っているのかわからない。自分の記憶まで削ってしまったかのよう。すぐ後ろには私が出した削り滓を集める者がいる。なんのためなのかは、聞けないまま。

 まあ今やっていることをこんなふうに変形した、みたいなことかな。もちろんこれを読んでも何なのかはわからないと思います。そして、それはべつにわかる必要はない。とにかくこんな感じのことをやってます。

【ほぼ百字小説】(4115) ぽた、ぽた、と雫が一日ひとつふたつ、落ちてきたりこなかったり。それでも何年も続いているからそのあたりは奇妙な形に穿たれていて、もしかしたらそっちのほうが目的なのかも。いや、そもそも目的なんかないのか。

 これはもうこのまんま、これです。たまに、いったい何をやってるんだろう、とか思ったりもして、でもまあそういうことですね。それにしても「雫」という字はおもしろいなあ。そのまんまですね。雨の下なんだ。雨の雫が穿つ、というので思い出すのは、黒澤明の「用心棒」の宿場町で、ちゃんと軒下に雨水が穿った窪みがあるんですね。あの時代の映画のああいうところはほんとにすごいなあ。いや、あの頃にしたら当たり前のことだったのかもしれませんが。

 ということで、今週はここまで。

 まとめて朗読しました。

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【ほぼ百字小説】(4098) プラットホーム行き下りエスカレーターに乗ったのにプラットホームを過ぎても下り続け、横には階段もない。どこまで下るのかと何度も思ったその何度目かでようやくプラットホームに着いた。奇妙な電車が入ってくる。

【ほぼ百字小説】(4099) 欠片を並べているのだが、どこにどの欠片を並べたのかがわからなくなったから、欠片の欠片を並べた通りに並べて、まてよ、そもそも欠片を並べ始めたのはそのためだっけ、と遡っていくとキリがないから、そのへんで。

【ほぼ百字小説】(4100) ひさしぶりにあの猫を見た。こないだまで家があった空き地の同じ場所で、同じように背中を丸めてじっとしていたのだが、さすがにこの夏は暑過ぎてどこか他所で過ごしていたのだろうな。とか言ってるうちにすぐ冬か。

【ほぼ百字小説】(4101) 職場に行くとAIが泥を食っていた。最近のAIにはそんなのもいるらしい。おもしろがって何でも食わせるから何でも食うようになって好みまでできたらしい。AIに詳しいヒトが言う。いちばん好きなのが泥だってさ。

【ほぼ百字小説】(4102) 妻は旅行に出ていて、高校生の娘とふたり暮らし。回転寿司に行ったり、テレビで見たコントの感想を言い合ったり、やっていることは娘が小学生だった頃とあんまり変わってないのは、不思議なような当たり前なような。

【ほぼ百字小説】(4103) たまにヒトのような姿をしたヒトではない何かがやってきて、お前らのやっていることには意味がない、と言って笑う。そんな行為にいったい何の意味があるのかはわからない。まあ笑うという行為自体が目的なのかもな。

【ほぼ百字小説】(4104) 最近、飛行機が通過するようになった。何らかの事情で飛行ルートが変更されたのだろう。朝と夕方に居間の天井のすぐ下を斜めに飛行していく。小さいから飛行機そのものは見えないのだが、飛行機雲でそうだとわかる。

【ほぼ百字小説】(4105) 着いたらすぐ、妻は写真を送ってくる。無事着いた、ということなのだろう。だからその風景はもうすっかりお馴染みで、自分もそこに立って見たことがあるような気になる。深そうな川も向こう岸にぽっかり開いた穴も。

【ほぼ百字小説】(4106) あの空き家には小さな中庭があって、植物が伸び放題。今にも溢れ出そうな勢いなのだが、なぜかそれらは棘やら針やら毒があるようなものばかりらしい。はたして空き家になる前からそうだったのかどうかはわからない。

【ほぼ百字小説】(4107) 秋になって亀は何も食べなくなったが、何も食べないくせに物干しをうろうろして、洗濯物を干している足もとにやたら密着してくるのは毎年のこと。冬眠までのこの時期って、亀のとっては何なのだろうな、と思うのも。

【ほぼ百字小説】(4108) なにしろ箱亀と言うくらいだから甲羅の前後に蓋があって、それを閉じればいつでも暗闇で、つまり自前の暗闇を持っていて、常に暗闇と共にあるのだ。かっこいいよな、あいつら、と箱亀ではないうちの亀に話しかける。

【ほぼ百字小説】(4109) 手を伸ばしているように見えた。昨日までそんなことはなかったのに、今朝はそうだった。いつもの道のどの植物も蔓を宙に伸ばしていて、それはまるで助けを求めているようなのだ。それで助かることもあるのだろうか。

【ほぼ百字小説】(4110) 路地を歩いていて小さな影が家と家の隙間に入っていくのを見た。覗くと猫の形をした闇で、猫の形のままこっちを見てから、隙間にも射し込む西日から逃げるように室外機の中へ消えた。育てば猫の形の夜になるだろう。

【ほぼ百字小説】(4111) こんなところに狐、と思いきや、狐に化けた狸だそうな。人間の女に化けるとき、まず狐に化けてから女に化ける。そのほうが色気が出るのだとか。元の姿に戻るとき、うっかり狐のままになってしまうのはいかにも狸だ。

【ほぼ百字小説】(4112) 寒くなったのではなく温かくなったのか、と気づくのは解凍の途中で、さっきまでは寒さを感じることもできなかったのだ、とこれも解凍された記憶だろう。今度こそは起こしてくれるのかなあ。外の事情はわからないが。

【ほぼ百字小説】(4113) 今年も空で天使の組み立てが始まった。近年の天使は大型化が進み、地上からもよく見える。たまに落ちてくる余分な部品を組み合わせて天使に似たものを作っている我々も、元々はそういうものだったと伝えられている。

【ほぼ百字小説】(4114) 巨人を削ると削り滓が出る。削り続けてはいるが、何のために削っているのかわからない。自分の記憶まで削ってしまったかのよう。すぐ後ろには私が出した削り滓を集める者がいる。なんのためなのかは、聞けないまま。

【ほぼ百字小説】(4115) ぽた、ぽた、と雫が一日ひとつふたつ、落ちてきたりこなかったり。それでも何年も続いているからそのあたりは奇妙な形に穿たれていて、もしかしたらそっちのほうが目的なのかも。いや、そもそも目的なんかないのか。

 以上、18篇でした。おつきあいありがとうございました。

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