見出し画像

今週の【ほぼ百字小説】2022年10月10日~10月16日

 有料設定になってますが、無料で全文読めます。

 今週もやります。ひとつツイートすると、こっちにそれについてあれこれ書いてます。解説というより、それをネタにした雑談だとでも思ってください。

 マイクロノベルと私が勝手に呼んでいるこの形式は、中学生くらいのための小説への入口だったり、しばらく小説から離れてしまっている人の小説へのリハビリだったり、もちろん普通にそんな形式の小説として、他にもまだ誰も気づいてないいろんな可能性があると思うし、このままでは先細っていくだけだとしか思えない小説全体にとってもかなり大事なものだと私は思います。気が向いたらおつきあいください。

 あ、投げ銭は歓迎します。道端で演奏している奴に缶コーヒーとかおごってやるつもりで100円投げていただけると、とてもやる気が出ます。

******************

10月17日(月)

【ほぼ百字小説】(4116) 妻は旅行に出ていて、しばらくは娘とふたり暮らしか、と思っていたら、娘まで修学旅行。高校三年のつまり最後の修学旅行だ。ありきたりだが、あっという間だったよなあ、とひとり留守番をしながら、ひとり旅の気分。

 というわけでそのまんまです。娘の修学旅行もコロナで二回中止になって、もう無理だと思ってたんですが、なんと行けました。先生がんばってくれたんだろうなと思います。ということで、今はひとりでこれを書いてるところ。そしてそういう気分です。

【ほぼ百字小説】(4117) 前を通ると、もうずいぶん経つのにまだ空き店舗のままで、正面の壁には昔の看板の跡が亡霊のように浮かんでいた。いつもいた窓際の席にもなにやら人影みたいなものが見えるが、それが自分なのかどうかはわからない。

 これもそのまんまですね。もう十年以上ほぼ毎日行ってたマクドナルドで、閉店してからはあんまりそっちに行かなくなってしまってたんですけど、ひさしぶりに行ったらこうでした。こう、というか、ずっとそのままですね。そして今も中に自分がいるみたいな気はします。

画像1

10月18日(火)

【ほぼ百字小説】(4118) いつも歩いている道から一本外れたところに猫の多い路地を発見。家の隙間、屋根の上、物置の下、いたるところに猫の顔があって、いやしかしいくらなんでもこれは多すぎるのでは、と首を傾げてブロック塀の上にいる。

 こういうことがありました。おっ、とカメラを向けてそっちに集中して顔を上げると、そこにもここにもあそこにも、という感じでああいうときは多幸感が溢れてきますね。ありがたいことです。ということで、そっちに夢中になっているうちに、というのと、その猫たちはじつは、というのを匂わせてサゲにしました。

【ほぼ百字小説】(4119) 酒の倉庫でフォークリフトを運転していた。荷物が載せられたパレットに鉄の爪を刺し入れ、持ち上げて運んでいくあの感じは今も体感として残っていて、フォークリフトを見るとやりたくなる。そんな施設はないものか。

 これ、ほんとによく思うんですよ。あれって一種のパワードスーツだしね。リーチ型って言われてる立って運転する奴はとくにそんな感じがします。爪だけしかないけど、ティルトレバーで爪を斜めに起こしたり寝かしたりできるから、かなり細かい動きができるんですよ。床を転がってくる缶コーヒーをつぶさずに止めて、爪の操作で立てたり、そういう遊びをやってました。「エイリアン2」でフォークリフトの延長みたいな形のパワードスーツが出てきたときはなかなか感動した。兵器じゃなくて作業機械としてのパワードスーツですね。カラーリングとかもそんな感じ。いや、あんなのじゃなくても、フォークリフトでもエイリアンとけっこう戦えると思う。そういう映画どうですかね。

10月19日(水)

【ほぼ百字小説】(4120) 朝になっても部屋のあちこちに闇が残っている。このあいだうっかり部屋に入れた闇がすっかり居ついて、増えてしまったらしい。まあせっかくだから飼ってみるか
。仲良くやれるかもしれない。どうせひとり暮らしだし。

 妻と娘が旅行、の続きですね。続きというか、ひとり暮らししてた頃の感じを思い出して。暗闇というか、ちょっと暗いものと同居する話。ひとりだと静かだからそういうのが目立つだけで、べつにひとり暮らしじゃなくても変わらず同居しているんだろうとは思いますが。まあ闇をペットとして飼う、というのはなかなかおもしろいと思います。いつか、短編としてでも書いてみようかな。

【ほぼ百字小説】(4121) 帰宅するなりバジルの葉に黒い小さな糞を発見、かっとなりながらも葉を一枚一枚執拗に調べ小さな芋虫を発見するなり躊躇なく指で潰せるようになったのはいつからなのか。宇宙から来たあの銀色の巨人もこんな感じか。

 これもそのまんま。なんかもうそのまんまばっかりですね。頭でいろいろ考えるよりもこっちのほうがいい気はするんですけど、実際のところはよくわからない。向こうから来たのをそのまんま受ける。ということで、玄関の横にバジルの苗があるんですけど、それがこうなってた。そしてそうしました。虫はほんと困ったもんで、一晩でぜんぶやられてたりする。いや、虫はただ自分の食べるものを食ってるだけですけどね。だから、ウルトラマンもこんな感じなのかも。おれがせっかく世話してるのに何やってくれてるんだ、と焼き払う。人間を好きになるというより、そっちなのではなかろうか、とか。

10月20日(木)

【ほぼ百字小説】(4122) 散歩の時間が少なくなっちゃってイルカがかわいそうで。隣の席からのそんな会話が気になって、ああそういう名前の犬だったか、と納得したところで、でもやっぱり海に還すことにした、という展開にもやもやしている。

 あるあるですよね。喫茶店とかでは、よくこんな話するなあ、というような会話が聞こえてきたりして、もちろんそういうときはずっと聞いてます。いや、そのハンコは押さないほうがいいのでは、とかいろいろあります。どう考えてもそんなこと大声でしゃべるのはまずいだろうと思うようなことが、けっこう頻繁に聞こえてきたりします。隣の席の人間とか、いないことになってるんでしょうか。人間の心理というのは不思議ですね。そういえば、ユーミンは深夜のコンビニでの会話を聞いて歌詞を書いたりするみたいなことを聞いたことあります。最初のフレーズは本当に聞こえてきた会話。もっとも喫茶店でもマクドナルドでもない、道を歩いていたときですが。イルカの散歩はなかなかいい。

【ほぼ百字小説】(4123) 海が後退していく速度もどうやら安定して、何百年後にはこのあたり、と予測して今はまだ海中の土地を売り買いする者も増えた。そのことが海の後退速度に影響を及ぼすのでは、という説もあるが、海のみぞ知る、だな。

 後退する海の話もけっこう書いてて、まあ住んでるところがそうだからです。大阪はそうなんですよね。淀川が運んできた砂できてます。まさに砂上の楼閣。ということで、上町大地の上からあのへんもあのへんもあのへんも昔は海だったとか思って眺めるのは、なかなか楽しい。それともうひとつ、これもよく書いてる「生きている海」つまり「ソラリスの海」ですね。後退する、というイメージからそっちとも繋がるんでしょうね。

【ほぼ百字小説】(4124) 年々後退していく海を追いかけて旅を続けているらしい。そんなことしても追いつけはしないのでは。そう言うと、追いつくのが目的ではなく追いかけ続けるのが目的なのです、ときっぱり。まあ皆そんなことを言うのだ。

 ということで、後退していく海。というか、逃げ水ですね。いや、逃げ水はこんなことではないですが、まあ逃げ水という言葉からのイメージ。あと、追いかけるとなると「夢」みたいなもんですから、そういう人がいかにも言いそうなことを。

10月21日(金)

【ほぼ百字小説】(4125) 妻と娘が帰ってきた。別々に出かけたのに、同じ日の同時刻に帰ってきた。なぜか、と頭につけたくなるが、それをすると他にもいろいろ疑わしくなりそうでやめておく。最近、自分のことに関しても、そんなのが増えた。

 ということで、妻と娘が旅行に出て、という続き。まああれは本当です。そして同じ日の夜に帰ってきたのも本当。ということは、何かあるんじゃないか、とか考えるじゃないですか、普通。で、こうなりました。自分のいる世界が何かにコントロールされてて、自分の知らない規則とか目的で動いてるんじゃないか、とかそういう妄想というかSFの定番ですね。

【ほぼ百字小説】(4126) 巨大浴場の伝説は今も各地に残っているが、彼はそんな伝説のひとつを信じて探し続け、ついにあのジャングルの奥にその遺跡を発見した、というかそのジャングル自体がそうだったのだ。ジャングル風呂と呼ばれていた。

 ジャングル風呂、知ってますか? 私の子供の頃には、よくテレビでCMをやってたりしました。風呂の中がジャングルみたいになってるレジャー風呂というか、まあそういう老若男女向けのレジャー施設というか、農協のバス旅行で行ったりするようなそういうのがあちこちにありました。あ、それからこれは番号ネタでもあるんですね。ヨイフロです。これまたそういうCMがありました。そこにジャングル風呂があったのかどうかは知りませんが。とにかくそのジャングル風呂というものに私は子供の頃から憧れていて妄想を膨らませていました。『かめくん』という長編の中にジャングル風呂を登場させたくらいです。そして大人になって自分で行けるようになったときには、もうそういうものは無くなってしまってました。あ、四国の道後のちょっと町からはずれたところだったかな、ジャングル風呂が残ってると聞いて行きましたよ。でもまあ憧れは憧れのままにしておくほうがよかったかもしれませんね。ということで、そういう伝説の遺跡を探している男の話にしてみました。

10月22日(土)

【ほぼ百字小説】(4127) 空き地にもこもこしたものが並んでいる。刈った草を積み上げたのかと思っていたら、それが動いて草を食っていた。近づくと食うのをやめて動かない。翌日にはいなくなっていて、空き地は雑草がなくなりすっきりした。

 そういう時期なのか、うちの近所の空き地ではいっせいに草刈りが始まってます。それで実際に草が積み上げてある。それを見ての妄想です。ちょっと妖怪みたいに見えるんですね。草で出来た芋虫みたいなものが、草を食ってる。そして食いつくしていなくなる。

10月23日(日)

【ほぼ百字小説】(4128) あの山があんなに尖っている理由は、このあたりでよく目撃される謎の飛行物体と関係がある。さあ、回転する空飛ぶ円盤があの尖った先端に接触すると何が起こるかは、もうすぐわかる。たぶん君の思っている通りだよ。

 まあ単純な見立てというか、ひとコマ漫画みたいなやつですね。こういうのもたまにやりたくなる。それに「空飛ぶ円盤」というのが一種の見立てだし。レコード盤も「お皿」って呼ばれたりしますね。もうあんな空飛ぶ円盤みたいな空飛ぶ円盤というのは、イメージとしても共有されてないんでしょうね。そういう記録というか記憶としても。尖った山も、共有されたイメージとしてのマッターホルン。空飛ぶ円盤、映画、マッターホルン、という連想もあるんでしょうね。あのマッターホルンの向こうから星が飛んでくるパラマウント映画のマークは好きです。

【ほぼ百字小説】(4129) 道路の先に茶色い毛糸玉が落ちている、と思ったら、それが宙に跳ね上がり猫の形になって、そしてまた毛糸玉のようなものに戻った。何か奇妙な技を見せられた気がする。毛糸玉と猫、どちらが技なのかはわからないが。

 このあいだこういうことがあって、それをツイートしたりもしましたが、まあそのまんま。猫の身体能力というのはすごい。見とれてしまいます。見とれてるんだけど、何が起きてるんだかよくわからない。ちょっと感動する。もしかしたら、あの猫の形もたくさんあるひとつの形態に過ぎないのかも、という気にもなります。まあそういうのも小説の形にしとくか、ということで。

【ほぼ百字小説】(4130) その手品を見るために大勢が集まった。奇跡ではなく手品であることはわかっているから何かを信じる必要はなくただ手品を見ればいい。手品で世界は変わらない。それでも何かは変わるのだ。そのくらいは信じてもいい。

 昨夜、『水中、それは苦しい』のライブに行きました。とてもいい。「農業、校長、そして手品」という曲があって、それに触発されて書きました。「手品で世界は変わらない。」はそこからの引用。もちろん小説だって手品ですね。いい手品をやりたい。

画像2

【ほぼ百字小説】(4131) 台風一過の亀の甲羅には渦が出来る。亀自体が一種の渦であることは、甲羅干しの際に手足と頭と尾で卍を作ることからも明らかだが、台風との相互作用がその渦の中に小さな渦を一時的に発生させるのではと考えられる。

【ほぼ百字小説】(4132) 台風が直撃した日、いつもと変わらず物干しで平然としていた亀だったが、今は台風一過の青空の下で甲羅干し満喫中。それもまたいつもと変わらず、と言いたいところだが、よく見ると反時計回りにゆっくり回っている。

【ほぼ百字小説】(4133) 亀は一種の渦であると考えられ、その運動は他の渦との相互作用として捉えることができる。亀であり同時に渦である複数の亀の状態をいかに記述するか、というのがこの親亀子亀力学、略して亀子力学の甲羅であります。

 亀三連発。いちおうどれも独立して読めるようにしているつもりですが、まあこういう連作もたまにやります。ひとつ書いたあともうちょっと書き足りない部分があるような気がしてそこを書くか、ちょっと長くなってしまったものを分割する場合もありますが、これは前者。台風の翌朝、亀が甲羅干しをしていたのは本当。昔は家の中で飼ってたんですが、今の家に移ってからはずっと外で、だから台風のときとかもそのままです。まあ亀ですからね。物干しの仕切りが壊れて外に転げたりしない限りは大丈夫。そして、卍の形になるのも本当。ストレッチしてるみたいにそういうポーズをよくやります。これはたぶん亀あるある。ということで、台風も渦なので、そこからの連想でひとつ。ついでに台風の渦が反時計回り、というのも入れたくなって、それから、亀を渦として捉える、というところから粒子と波との量子力学にひっかけて謎理論みたいなものをでっちあげたくなった。ということで、亀三連発でした。亀にはほんとお世話になってるなあ。

【ほぼ百字小説】(4134) もう会えない人がこんなふうに増えていって、そのうち自分ももう会えない人に仲間入りするのだろう。仲間入り、などと言うとゾンビの集団に加わるみたいだが、それならそれで楽しそうだ。おもしろい顔ぶれだからな。

 ここ数年、こんなことばっかりで、もうそういう年齢なんだなってつくづく思います。自分より年下の人が亡くなるのは、ほんとにきついです。まあしかしそんなこと言ってても仕方ないんで、こんなふうに思ってやっていく、ということを私は落語の「地獄八景」で教わりました。そんなこと言ってられるのも生きてるからですけどね。

 ということで、今週はここまで。

 まとめて朗読しました。

********************

【ほぼ百字小説】(4116) 妻は旅行に出ていて、しばらくは娘とふたり暮らしか、と思っていたら、娘まで修学旅行。高校三年のつまり最後の修学旅行だ。ありきたりだが、あっという間だったよなあ、とひとり留守番をしながら、ひとり旅の気分。

【ほぼ百字小説】(4117) 前を通ると、もうずいぶん経つのにまだ空き店舗のままで、正面の壁には昔の看板の跡が亡霊のように浮かんでいた。いつもいた窓際の席にもなにやら人影みたいなものが見えるが、それが自分なのかどうかはわからない。

【ほぼ百字小説】(4118) いつも歩いている道から一本外れたところに猫の多い路地を発見。家の隙間、屋根の上、物置の下、いたるところに猫の顔があって、いやしかしいくらなんでもこれは多すぎるのでは、と首を傾げてブロック塀の上にいる。

【ほぼ百字小説】(4119) 酒の倉庫でフォークリフトを運転していた。荷物が載せられたパレットに鉄の爪を刺し入れ、持ち上げて運んでいくあの感じは今も体感として残っていて、フォークリフトを見るとやりたくなる。そんな施設はないものか。

【ほぼ百字小説】(4120) 朝になっても部屋のあちこちに闇が残っている。このあいだうっかり部屋に入れた闇がすっかり居ついて、増えてしまったらしい。まあせっかくだから飼ってみるか。仲良くやれるかもしれない。どうせひとり暮らしだし。

【ほぼ百字小説】(4121) 帰宅するなりバジルの葉に黒い小さな糞を発見、かっとなりながらも葉を一枚一枚執拗に調べ小さな芋虫を発見するなり躊躇なく指で潰せるようになったのはいつからなのか。宇宙から来たあの銀色の巨人もこんな感じか。

【ほぼ百字小説】(4122) 散歩の時間が少なくなっちゃってイルカがかわいそうで。隣の席からのそんな会話が気になって、ああそういう名前の犬だったか、と納得したところで、でもやっぱり海に還すことにした、という展開にもやもやしている。

【ほぼ百字小説】(4123) 海が後退していく速度もどうやら安定して、何百年後にはこのあたり、と予測して今はまだ海中の土地を売り買いする者も増えた。そのことが海の後退速度に影響を及ぼすのでは、という説もあるが、海のみぞ知る、だな。

【ほぼ百字小説】(4124) 年々後退していく海を追いかけて旅を続けているらしい。そんなことしても追いつけはしないのでは。そう言うと、追いつくのが目的ではなく追いかけ続けるのが目的なのです、ときっぱり。まあ皆そんなことを言うのだ。

【ほぼ百字小説】(4125) 妻と娘が帰ってきた。別々に出かけたのに、同じ日の同時刻に帰ってきた。なぜか、と頭につけたくなるが、それをすると他にもいろいろ疑わしくなりそうでやめておく。最近、自分のことに関しても、そんなのが増えた。

【ほぼ百字小説】(4126) 巨大浴場の伝説は今も各地に残っているが、彼はそんな伝説のひとつを信じて探し続け、ついにあのジャングルの奥にその遺跡を発見した、というかそのジャングル自体がそうだったのだ。ジャングル風呂と呼ばれていた。

【ほぼ百字小説】(4127) 空き地にもこもこしたものが並んでいる。刈った草を積み上げたのかと思っていたら、それが動いて草を食っていた。近づくと食うのをやめて動かない。翌日にはいなくなっていて、空き地は草がなくなってすっきりした。

【ほぼ百字小説】(4128) あの山があんなに尖っている理由は、このあたりでよく目撃される謎の飛行物体と関係がある。さあ、回転する空飛ぶ円盤があの尖った先端に接触すると何が起こるかは、もうすぐわかる。たぶん君の思っている通りだよ。

【ほぼ百字小説】(4129) 道路の先に茶色い毛糸玉が落ちている、と思ったら、それが宙に跳ね上がり猫の形になって、そしてまた毛糸玉のようなものに戻った。何か奇妙な技を見せられた気がする。毛糸玉と猫、どちらが技なのかはわからないが。

【ほぼ百字小説】(4130) その手品を見るために大勢が集まった。奇跡ではなく手品であることはわかっているから何かを信じる必要はなくただ手品を見ればいい。手品で世界は変わらない。それでも何かは変わるのだ。そのくらいは信じてもいい。

【ほぼ百字小説】(4131) 台風一過の亀の甲羅には渦が出来る。亀自体が一種の渦であることは、甲羅干しの際に手足と頭と尾で卍を作ることからも明らかだが、台風との相互作用がその渦の中に小さな渦を一時的に発生させるのではと考えられる。

【ほぼ百字小説】(4132) 台風が直撃した日、いつもと変わらず物干しで平然としていた亀だったが、今は台風一過の青空の下で甲羅干し満喫中。それもまたいつもと変わらず、と言いたいところだが、よく見ると反時計回りにゆっくり回っている。

【ほぼ百字小説】(4133) 亀は一種の渦であると考えられ、その運動は他の渦との相互作用として捉えることができる。亀であり同時に渦である複数の亀の状態をいかに記述するか、というのがこの親亀子亀力学、略して亀子力学の甲羅であります。

【ほぼ百字小説】(4134) もう会えない人がこんなふうに増えていって、そのうち自分ももう会えない人に仲間入りするのだろう。仲間入り、などと言うとゾンビの集団に加わるみたいだが、それならそれで楽しそうだ。おもしろい顔ぶれだからな。

以上、19篇でした。

ここから先は

94字 / 1画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?