界 ポロト | ポロト湖の懐にひたる
\前回のnoteのつづきです/
ウポポイで満喫したあと、わたしたちは界 ポロトへ向かった。今回楽しみにしていたのは、専ら温泉である。ここで堪能できるのは、世界的にも珍しい「モール温泉」。「モール」とは亜炭という意味のドイツ語からきており、植物由来の有機物を含有しているらしい。特徴的な茶褐色の色をしているとのこと。モール温泉を楽しめる浴場が界ポロトには2つある。
まずは、「△の湯」。わたしたちはチェックインして早々、大浴場へ向かった。象徴にもなっている建物の「とんがり湯小屋」のなかにある。とんがり湯小屋は、アイヌ民族が野山で狩りをする際に、風雪を避け、寝泊りや煮炊きをするために建てていた小屋を指す「クチャ」をモチーフにして建てられた。クチャの構造は「ケトゥンニ」という三本の丸太を立て掛け合わせているため、これが△の湯と名付けられている由来になった。
さて早速、冬の北海道で冷えた身体を湯に浸からせたわけであるが、その泉質のなめらかさに驚いた。そういえば「美肌の湯」とも呼ばれているらしい。とろりとろりとした湯が身体にしっかりくっついて、冷えをとっていってくれる。ポロト湖を一面に眺めながら、身体の芯から温まっていく時間は極上だった。
湯に浸かると、どうしてこうもすべてがほぐれていく気持ちになるのだろうか。こんがらがった考え事が、あっという間にするするとほどけてゆく。出るころには、体も心も頭もすっきりして、気分爽快になる。魔法のようだ。
心身を調え、夕食を楽しんだ。先付けを熊さんが運んでくれて、ふっとさらに心がほぐれた。どこまでほぐれてしまうのだろう。やがて立てなくなりそうなほどに、わたしたちは身も心もゆるんでいた。
夕食後は、もうひとつの大浴場「〇の湯」へ。開放的な△の湯とは対照的に、洞窟のようになっている。ドームの天井にはまるーく穴が開いていた。夜だったので、明かりは入ってこなかったけど、外と繋がる一筋の冷たい空気が、この囲まれたドームの外に、どこまでも続く空と広大な湖がすぐそこにあることを感じさせてくれた。きっと朝の光が差し込む時間はもっと心地いい空気が漂うのだろうという気がして、明日の朝にも入りに来ることを決意する。
部屋に戻りベッドに体を沈める。ああ、横になる瞬間が好きだ。まだ残っている体の疲れがすこしずつベッドにうつっていき、体の力が抜けていくのが分かる。部屋のいたるところにあるアイヌ文様がわたしがいま日常から離れた場所にいることを思い出させる。いつもとは違う、という感覚がわたしを喜ばせる。満たされた思いのまま眠りにつき、部屋の大きな窓から差し込む光で目が覚めた。
朝いちばん、そのまま〇の湯へ行く。寝ている間に固まった肩や首がほぐれていく。昨晩想像した通りの、美しい朝の光が天井の穴から差し込んでいた。
朝食を済ませ、チェックアウトの前に界での滞在の楽しみのひとつである「ご当地楽」に参加する。イケマというアイヌ民族が昔魔除けとして身に着けた植物を使った魔除けづくりだった。イケマ以外にも数々の花や葉があり、好きなように包んだ。
トラベルライブラリーで本を読んだあと、もう一度△の湯へ。空は昨日より澄んだ青色をしていた。この空をたどっていけば、どこにでも行ける。空は続いている、という事実は(事実じゃない可能性もあるけれど)ものすごい奇跡みたいなことなのではないか思う。一生のうちに、すべての人に会い、すべての場所に行くことはきっとできない。でもこうして空を見ていると、いろんな時代、いろんな国、いろんな人、いろんなものと繋がれる気がした。人が空を見上げる理由がなんとなく分かったような気がした。
まだまだこの広大な自然に身をゆだねていたい気持ちだったが、わたしたちはこの街に別れを告げ、駅に向かった。
白老の街をまた好きになった。次は夏に、秋に、来てみよう。その頃にはゴールデンカムイを読み終えて。