〘異聞・古事記1〙スサくんとクシナダさんの場合
八雲たつ 出雲八重垣 妻籠みに
八重垣つくる その八重垣を
「古事記」より
*
素戔嗚(スサノオ)さんの奥さんは櫛名田(クシナダ)さんと言います。すごく漢字変換が面倒くさいので、以下、カタカナ表記のみにします。
スサくんは、かの有名なイザナギさんとイザナミさんの息子で、アマテラスさんの下の弟です。強いくせに甘えん坊で、お姉さんであるアマテラスさんに甘えまくりです。お母さんのイザナミさんが死んでしまった寂しさから荒れている弟を、アマテラスさんは大目に見てあげてるのでした。
ところが、自分は何をしても許されるとか勘違いしちゃった挙句に奢り昂り、ついにスサくんはアマテラスさんを激怒させる事件を起こしてしまいました。今度ばかりは優しいお姉さんも赦してくれず、スサくんは高天原から所払いされてしまいます。(江戸時代か)
仕方なしに諸国漫遊の旅に出たスサくんは、出雲へと降り立ち、そこで大山津見神の子であるアシナヅチ・テナヅチと言う夫婦に出会いました。
何故かさめざめ嘆く二人。不思議に思ったスサくんが理由を訊ねました。すると、8人いた娘のうち7人がヤマタノオロチ(八岐大蛇)と言う大蛇に食われてしまい、最後に残った娘ももうすぐ食われてしまうのだ、と言うではありませんか。
哀れに思った、と言うようなこともなくはないですが、もっと手っ取り早く言えばクシナダさんの美しさに一目惚れしたスサくんは(恐らくヤマタノオロチに勝るとも劣らない舌なめずりをしたと推測される)、彼女との結婚を条件に退治を申し出ました。
最初は何処の馬の骨とも知れない怪しい男に娘をやるなど、ヤマタノオロチに食われるのとあんまり変わらないじゃないか、などとちびーっと考えてしまった夫婦も、スサくんがアマテラスさんの弟となれば話は別です。掌を返したように快諾しました。
契約成立パパンがパン。
クシナダさんはスサくんの神通力によって櫛(湯津爪櫛/ゆつつまぐし)に姿を変えられます。彼はこの櫛を頭に挿して、ヤマタノオロチと戦って無事に退治したのでした。
そして、約束通りスサくんとクシナダさんは結婚するワケなんですけど。そして、そのための新居を構えた折にスサくんが詠んだ日本最古の和歌、と言われているものが冒頭のアレですね。
八雲たつ 出雲八重垣 妻籠みに
八重垣つくる その八重垣を
これで、めでたし、めでたし……と思いますでしょ?
ところがどっこい。
この話には、ホントは裏があったって、奥さんご存知?
あら、やだ! 高天原を追放されたスサくんが、偶然哀れな親子に出会い、あっぱれ窮地を救って英雄になった上に別嬪のお嫁さんを手に入れた、って話の裏ですわよ! 裏の飯屋の話じゃなくてよ!
実はですね。
スサくんが高天原を追放されて出雲に向かったらしいと言うウワサは、そこら中に知れ渡っていたんですよ。何しろ、スサくんはアマテラスさんの弟ですよ? 超がつく有名人です。(人ちゃうねん。神やねん)
そのウワサを聞きつけたクシナダさんは、自分の運命をスサくんに賭けたんです。
クシナダさんは両親であるアシナヅチ・テナヅチに企み……もとい、作戦を打ち明けました。
「父上、母上、ウワサによれば、アマテラス様の弟君であるスサノオ様が出雲にお出でになるとか。ここは、もう、スサノオ様のお力に縋るより他に方法がございません。7人の姉上たちも食べられてしまい、せめてわたくしが残らねばこの家は……ナンチャラカンチャラ以下省略……」
……ってな具合です。
「……なるほど。スサノオ様であれば婿として申し分ない。少々、暴れん坊将軍とは聞いておるが、そこはそれ。そなたの美貌で虜にすれば問題なしじゃな」
アシナヅチの心も動き始めた汽車の如く。
「父上、いかがでしょうか?」
クシナダの提案に、両親も一か八か、伸るか反るかの賭けに出ることにしました。
「ふむ、クシナダよ、妙案じゃ! よし、テナヅチよ。わしらは泣きの演技の特訓じゃ!」
「はい、おまえさま!」
……みたいなやり取りがあり、スサくんはまんまと蜘蛛の巣に飛び込んで来た蝶になったのでした。
その後も、何だかんだで転がし上手なクシナダさんの尻に敷かれ続けたスサくんですが、それはそれで嬉しそうと言うか幸せそうだったので、まあ、良しとしましょう。
あの『八雲立つ』は、妻であるクシナダさんの虜になってもう抜け出せなくなっちゃたスサくん自身のことなのかも知れませんね。(テキトー)
めでたし、めでたし。
~おしまい~
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