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本が好きなのは

本が好きですと言うと、大抵同年代の人からは-我が子を本好きにさせるアイディアを探るために- どうして好きになったの?と聞かれる。

だが、私が本好きになったのは極めて消極的な理由からだった。

幼稚園児の頃、ファミコンが発売された。
父が珍しく買ってくれた。
私は夢中になってしまい、わずか三週間で眼科に行く事態になるほどやりこんでしまった(らしい)

そのため父は知らない間に私のいとこにファミコンを献上してしまった。
そのお礼に届いたのが図鑑だった。

地球、生物と文学にこれまたハマった。
蜘蛛の糸など恐怖に慄きながら読み進め、地球の歴史や星々の光が何億光年もの時を経て今届いている事にも驚いた。
図鑑なので読みやすかった事も幸いした。
めくるめく図版に刻まれたこの世の真実にどんどん吸い込まれていった。

私は知ることの楽しさをその時知ったのだ。

そもそも、母は活字を三行読んだら疲れてしまうタイプ。父は商売をしていて家におらず、彼もまた字を読むのはサンデー毎日のみと言う人だった。
時代的にも活発ではなかったが、図書館に連れていってもらった事もなく、家に本もなかった。

そして、両親は近所とも家族ともあまりコミュニケーションを取らない人だった。
私は幼稚園に友達もおらず、隣の家の子にたまに呼び出されてはいじめられていたので、その歳にして引きこもりだったのだ。

母も、子育てや同居の義父との関係に疲れ余裕もなかった。結果、あまり私に幼少期の思い出はなく、家にいて、ただ母に怒られないようにぼんやりと教育テレビの歌を聞いている子どもだった。

だが、私はありがたい事に公文に通わせてもらっていて、国語だけは異常に進行が早かったのだ。読解力だけはあった。
砂漠の砂が水を吸うように、意味ある文章をどんどん読んでいった。

人と接する事は怖かったし、今でもそれに苦しめられている。
だが、ゲームと取り替えてもらい、文字によって知識を得る事を知れたのは、私の人生にとって本当に宝物だと思う。

それで、なぜ本を好きになったのか。
それは、
人が怖かったから。
その状態で、文字や物語から世界を体感する事が出来たから。
だと思う。

私の場合は、そんなに美しいものではなく、本当に命綱だったと思う。

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