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不適切な保育とはなにか(2023年5月30日更新)

※改めてガイドラインを読み込み、一部訂正しています。ガイドライン自体も今後アップデートしていくものとも思われるので、都度更新します。

「不適切な保育」とはなにか。ニュースで取り沙汰される一方で、定義も曖昧なまま印象だけで片付けられる恐れもある。

実際に、こども家庭庁の2023年5月の通知では、

実態調査の結果、「不適切な保育」の捉え方、保育所等、自治体等における取組・ 対応にばらつきが見られた

昨年来の保育所等における不適切事案を踏まえた今後の対策について(PDF)

とし、以下のように、広義の定義と狭義の定義を定めている。そのなかでも、特に「虐待等と疑われる事案」を「不適切な保育」と定義している。

これまでの調査では、以下のように広義の定義を取っていたが、対応や認識にばらつきがある、と判断したとのこと。

広義の「不適切な保育」の定義

「不適切な保育」とは、「保育所での保育士等による子どもへの関わりについて、保育所保育指針に示す子どもの人権・人格の尊重の観点に照らし、改善を要すると判断される行為」

不適切な保育の未然防止及び発生時の対応についての手引き(PDF)

この広義の定義の「子どもの人権擁護の視点から望ましくないと考えられるかかわり」は、全国保育士会が作成した『保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト』が元となっている。その詳細は、以下のようになっている。

「良くない」と考えられるかかわりの類型
(1)子ども一人ひとりの人格を尊重しないかかわり 
(2)物事を強要するようなかかわり・脅迫的な言葉がけ 
(3)罰を与える・乱暴なかかわり  
(4)一人ひとりの子どもの育ちや家庭環境を考慮しないかかわり
(5)差別的なかかわり
 

保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト(PDF)

このセルフチェックリストは、より良い保育を目指すために保育士が二日の保育を振り返るために作られたもので、不適切な保育かどうかを判断する基準そのものではないが、それぞれの場面での具体的な事例も記載されているので、一旦そのまま転載する。

① 子ども一人一人の人格を尊重しない関わり

×朝、母親に抱かれて、なかなか離れられない子どもに「ずっと抱っこしてもらっていると恥ずかしいよ」と言葉をかける。
×排泄の失敗への対応をその場で行ったり、周囲に知らせたり、その失敗を責める。
×「そんなこともできないなら〇〇組からやり直し」「赤ちゃんみたい」などと言う。
×食事の際、こぼす等の理由で、テーブルに給食のメニューをすべて配膳しない。
×自分から訴えてトイレに行くことができる子どもに対して、無理にトイレに行かせる。
×子ども同士のトラブルが起きたとき、子ども達の言い分を聞かず、一方的に判断を下す。
×制作活動で子どもが描いた作品を見て、一方的に描きなおすよう働きかける。

② 物事を強要するような関わり・脅迫的な言葉がけ

×「〇〇しなさい」とどなったり、子どもが怖がるもの(鬼等)を使ったりして、子どもを保育者の思いどおりに動かそうとする。
×寝ずに話をしている子どもの布団を取り上げたり、友だちと離れた場所に敷いたりする。
×なかなか寝付けずにいる子どもに対して「早く寝てよ。あなたが寝ないと仕事ができない」と言う。
×集団行動を促す言葉がけを聞かない子どもに対し「〇〇しないなら〇〇できないからね」と言う。

③ 罰を与える・乱暴な関わり

×並ぶときなどに、子どもの自発的行動を待たず、腕をつかんで引っ張る。
×子どもの人数をチェックする際に、子どもの頭を手で叩くようにして数える。
×友だちを叩いた子どもに、叩かれると痛いことを分からせるために、子どもの手を叩く。
×言うことを聞かない子どもに対し、廊下に立たせる、散歩に連れて行かない(連れて行かないと脅す)などの罰を与える。

④ 子ども一人一人の育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり

×提出物が遅い、お風呂に入っていない等に対し、子どもに「またお母さん忘れたの」「昨日お風呂に入れてもらわなかったの」など、親を否定することを言う。
×時間ぎりぎりのお迎えになる子どもに「〇〇ちゃんのお母さん、今日も遅いね」と言う。

⑤ 差別的な関わり

×特定の子どもにだけ「おはよう」とあいさつする。
×少食の子どもに対して、子どもの意見を聞かず、初めから非常に量を少なくして配膳する。
×寝かしつける際に、いつも同じ子どものそばにばかりつく。
×「男の子はいつまでも泣かないの」「女の子は乱暴な言葉を使ってはいけない」など性別を理由に子どもを注意する。

引用が長くなってしまったけれど、具体的な事例ひとつひとつを見てみると、なんとなく「不適切な保育」のイメージが湧いてくる。同時に家でもこういう声かけしてしまっていないだろうか…と親としては思う。
していないとは言い切れないし、忙しくて感情的になって怒鳴ることなんていっぱいあるからだ。集団保育のなかで、限られた人員で保育をする、となるとさらに難易度は高い。

「〇〇しないなら〇〇できないからね」と言う。

例えば、ごはん食べないとデザートないからね、という声掛け。正しい声かけは、脅しのように言うのではなく、ごはん食べたらデザートだからがんばろう、と前向きに励ますことだろうと思われる。けれど、思わず「早くしないと~」と言ってしまうこともあるのではないか。それを言ってしまったら不適切な保育だ、というのもまた結構な無理ゲーじゃないだろうか。

狭義の「不適切な保育」の定義

次に、いわゆる「虐待」「虐待と疑われるもの」についての定義を見る。
今回策定された、不適切な保育の定義は以下のものになる。

次の①、②が疑われる事案。
① 虐待:保育所等の職員が行う次のいずれかに該当する行為である。
「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」
② 虐待等:虐待に加え「児童の心身に有害な影響を与える行為」を含めたもの。

※虐待についての類型と具体例については、心理的にハードなものが多く、閲覧するに耐えない方は、ここで一旦閉じてほしいです。

以下、それぞれの行為の定義と具体例を示す。

① 身体的虐待

こどもの身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

・首を絞める、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物を飲ませる、ご飯を押し込む、食事を与えない、戸外に閉め出す、縄などにより身体的に拘束するなどの外傷を生じさせるおそれのある行為及び意図的にこどもを病気にさせる行為
・打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、内臓損傷、刺傷など外見的に明らかな傷害を生じさせる行為など

② 性的虐待

こどもにわいせつな行為をすること又はわいせつな行為をさせること

・下着のままで放置する
・必要の無い場面で裸や下着の状態にする
・こどもの性器を触るまたはこどもに性器を触らせる性的行為(教唆を含む)
・性器を見せる・本人の前でわいせつな言葉を発する、又は会話する。性的な話を強要する(無理やり聞かせる、無理やり話させる)
・こどもへの性交、性的暴行、性的行為の強要・教唆を行う
・ポルノグラフィーの被写体などを強要する又はポルノグラフィーを見せるなど

③ ネグレクト

こどもの心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、他者の虐待行為の放置、また職員としての業務を著しく怠ること

・こどもの健康・安全への配慮を怠っているなど。例えば、体調を崩しているこどもに必要な看護等を行わない、こどもを故意に車の中に放置するなど
・こどもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)
・おむつを替えない、汚れている服を替えないなど長時間ひどく不潔なままにするなど
・泣き続けるこどもに長時間関わらず放置する
・視線を合わせ、声をかけ、抱き上げるなどのコミュニケーションをとらず保育を行う・適切な食事を与えない
・別室などに閉じ込める、部屋の外に締め出す
・虐待等を行う他の保育士・保育教諭などの第三者、他のこどもによる身体的虐待や性的虐待、心理的虐待を放置する
・他の職員等がこどもに対し不適切な指導を行っている状況を放置する
・その他職務上の義務を著しく怠ることなど

④ 心理的虐待

こどもに対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応や著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

・ことばや態度による脅かし、脅迫を行うなど
・他のこどもとは著しく差別的な扱いをする
・こどもを無視したり、拒否的な態度を示したりするなど
・こどもの心を傷つけることを繰り返し言うなど(例えば、日常的にからかう、「バカ」「あほ」など侮蔑的なことを言う、こどもの失敗を執拗に責めるなど)
・こどもの自尊心を傷つけるような言動を行うなど(例えば、食べこぼしなどを嘲笑する、「どうしてこんなことができないの」などと言う、こどもの大切にしているものを乱暴に扱う、壊す、捨てるなど)
・他のこどもと接触させないなどの孤立的な扱いを行う
・感情のままに、大声で指示したり、叱責したりするなど

また引用が長くなってしまったが、具体的な事例を見るとこちらについては明らかに不適切な行為だと認識しやすくなったのではないだろうか。

先に引用した『不適切な保育の未然防止及び発生時の対応についての手引き』では、背景には保育者の認識の問題と、職場環境の問題を挙げている。

認識の問題に対する対策としては、先に見たようなセルフチェックシートを活用した振り返りなどが考えられる。ただ、この認識の問題は保育士だけに対して行うべきものだろうか、といえばそんなことはなく、子どもと関わるすべての人に対して必要なことと思われる。

不適切な保育への対策

また、不適切な保育を防ぐための保育園としての対策を次のように掲げている。

・保育士が丁寧に子どもに向き合える職員体制の整備
・保育士の事務負担の軽減等による勤務状況の改善
・保育士が保育に関する悩みを相談できる仕組み等の整備

『人口減少時代における保育の多機能化』のなかで社労士でもある菊池加奈子氏は、不適切な保育は労務リスクであり、保育士間でその場で指摘しあえる良好な人間関係を築いておくこと、そのうえで懲戒のフローやハラスメント通報などの体制を整えておくことの重要性を指摘している。

では、これまでに見たような基準に照らして、不適切な保育のない保育園では、何も問題は起こっていないのだろうか。
保育士自身の意識の高さやマネジメント能力という属人的な要素をもってそれらを防ぐだけでは、限界がある。振り返りに十分時間をかければ労働時間は長くなる。保育の質を高めるために、保育士自身が疲弊してしまっては意味がない。保育士や保育園だけに対策を求めるだけでは不十分だ。

また不適切な保育をしないように『監視』することは正しいだろうか。一日中監視カメラのついた部屋で育児をしていて、本当に息苦しさを感じず楽しく子どもと関われるだろうか。保育士の労働条件や労働環境は良くなって欲しいが、保育環境の改善について変な方向に行ってほしくはない。

保育士が、有給休暇も使えず、残業代も出ず、持ち帰りで製作や書類仕事をしているのは、「不適切な保育」だろうか。少なくとも健全な職場環境ではない。こうした不適切な保育の問題を、保育士だけの、保育園だけの閉じた問題にしたくない。

保育士が適切な配置基準と適法な労働条件で働き、保護者も保育園に過剰な要求はせず、園の円滑な運営に協力する。子どもの変化や困りごとに保育士だけでなく周りの大人がちゃんと気づく。地域で助け合える環境があり、家と保育園・幼稚園・学校だけでない、第三の居場所がある。
そういう社会が成り立っていなければ、どれだけ保育士だけが意識を変えたとしても、どこかで子どもの命の危険にさらされるのではないか。

それでも、どこにでも悪い人はいる。外からみえない家庭や園という環境で、より弱いものに対し、悪意を持って自分勝手な行動を取る人がいる。そのときに、正しくセキュリティとしてのガイドラインや管理体制、社会のなかでの相互監視やホットラインが働けばいいなと思う。

こども家庭庁ができ、徐々に啓発されるとは思われるが、子ども一人ひとりを人として尊重する「子どもの権利」について、今後も関心が高まってほしいし、正しく広まってほしい。保育園と保護者で不要な分断生まれることなく、子どもにとって一番望ましい保育のあり方はなにか、ということを真ん中に社会全体で議論が深まってほしい。


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