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『東大卒、農家の右腕になる。』


先週末、久しぶりにいった本屋で平積みになっていたので手に取った。本屋には別な本を探しにいっていた。なんでこの本を手に取ったかといえば、「東大卒」とついていたからだ。

今年はコロナで、息子の学校の進路指導の一環で行われる毎年恒例の「東大見学ツアー」が中止になった。そのかわりに、卒業生の東大生が学校で講演したらしい。頭の中の9割が「野球」しかない息子。成績もいまいちで赤門をくぐれる可能性は、息子と下の名前が一緒のハンカチ王子が来年もプロを続けて、1軍で二ケタ勝利をあげちゃうくらいの可能性しかない。そういえば、ハンカチ王子の出身地は隣の県の太田だが、この本の著者の出身地は館林で太田高校卒だと書いてあったな。そんな成績宙ぶらりんな息子でも、時間はあるので、まだ夢を追っていい。

「大学で野球をやって、神宮で試合ができる唯一の方法といえば・・・『東大』に入ること!」と息子に発破をかけてみた。現役東大生もいいけれど、卒業生の話なんかも読ませるといいかなくらいに思って手に取ったのがこの本。

読み終えたのが、『半沢直樹』の最終回の日。半沢直樹にも泣いて心を揺さぶられたが、佐川さんの本にも泣いて心を揺さぶられた。本を読んでこんなに感動して、しかもnoteに仕事がある平日の深夜、睡眠時間を削ってわざわ感想文をだらっと書くくらいのことなんてめったにないこと。

この本は2部構成。前半は佐川くん(「くん」付けですみません。だって一回りも下なんだもん。)のかなり順風満帆な学生時代~社会人1年目と鬱発症による休職、退職、無職のどん底。そして社会復帰を兼ねての田舎の農家で無給のインターン開始から正規雇用、その中での農家の経営改善の実施。さらには、その経営改善のノウハウをウエブサイトで公開して、業界大絶賛、ついには「農家の何でも屋さんから農業界の何でも屋さんへ」として会社までたちあげちゃって、本までだしちゃったという天国~地獄~復活というストーリー。

「TBS!次の半沢直樹第3弾、俺が頭取になって銀行を復活させるぜの巻がクランクインするまでにはまだまだ時間がかかるから、それまでの間に、佐川君のお話を日曜劇場で1クールやってよ!タイトルは、この本と一緒でいいんじゃね~!」と思った内容。そして、それは佐川君のいる栃木県宇都宮市で撮影してね(笑)。いつも人気度ランキングが下位常連の栃木県。佐川君で倍返しだ。

話を元に戻すと、後半はこの経営改善のノウハウの100個が経営、総務、会計・・・と9つのチャプターに分かれて1項目につき1~2ページの分量で具体的かつ簡潔にドリル形式で書いてある。この100個の項目のうちのいくつかは、別に農家でなくても、中小零細企業とかNPOとか小さな事業体の経営改善に役に立ちそうなことも含まれている。それに、ところどころに経営学経済学の専門用語の解説なんかもついている。例えば、マイケル・ポーターなんかがでてきていた。もうびっくり。お~『競争優位の戦略』!大学の時のゼミのテキストだったよなあと遠い遠い過去を思い出してしまった。

いろんな人が読めると思う。もちろん農家の皆さんや農業にかかわる方々の役に立つと思うけれど、農業とは全く無関係の人、学生、無謀にも「東大」にひかれてしまった絶賛子育て中の主婦、仕事がうまくいかなくて落ち込んでいる人、就活をしていたり、農業や経済、経営学を学ぶ学生。前述したようになんらかの事業体で事業をしているけれど、ちょっとうまくいっていない人。そして・・・コロナとその余波でまいることが多いこのご時世、とにかく「わくわく」したい人。

半沢直樹はフィクションだ。あれには多くの人がはまったけれど、現実はあんなにうまくいかないよ。でも、佐川君のストーリーはノンフィクション。そこには派手な顔芸はないけれど、地味で地道なコツコツが、でっかく花開いた。そこが半端なく凄くて、わくわくさせられたところ。

そして、個人的なことになるけれど、もう四半世紀位前になる自分自身の姿にちょっと被ったところがあり、泣いた。

佐川君は自己実現とやりがいを求めて、外資系、ITベンチャーで仕事をしたが、鬱により挫折。夢を捨てて、縁がある宇都宮に出戻った。そして、出会った田舎の農家で折れまくった自尊心を癒すことができた。

「心理的に安全な環境を選べば、無理なく能力を発揮できる」

そうそう、今の世の中に必要なのはこれ。でも、コロナで心理的に安全な環境を得るのは難しくなってきている。

これは私の話。25歳の9月末(何年前の今日だ?)。大手町のあるビルの9階で、採用でお世話になったKさんに泣きながら「すみません。今月末で辞めます」と頭を下げた私。全く仕事ができなかった。私は就職氷河期の最初のころの世代。浪人してる、自宅外、私立コネなし、女でどうがんばっても苦戦が強いられた就職活動で、優秀で活躍している先輩がいたからなんとかそのつてでひっぱってもらい、超幸運にも第一志望に就職できた。それなのに、わずか1年半で辞めることになった。会社の寮に住んでいて、福利厚生もばっちりだったが、私は職場にいけなくなった。休職する選択もあったけれど、「私は何のために誰のために東京にいるんだろう?」と思って、東京での生活をあきらめた。そして10年ぶりに地元に出戻った。

高校や大学の同級生はキャリアを順調につみあげ、そして25歳ということで、結婚ラッシュの第一波がきていた。それなのに、私といったら「職なし、金なし、男なし、暇いっぱい」の状態。会社を辞めてそれまでの諸々のプレッシャーからは解放されても、失意のどん底だった。でも、実家暮らしで雨風しのげるし、食べるのには困っていなかったので、今から思うと、全然まし。それでも焦燥感と落ち込みは酷かった。

そんなやさぐれた私を癒してくれたのは、宇都宮の自然。遠くに見える男体山。チャリンコを飛ばしてぶらぶらしているときに、畑の向こうに見える日光連山に沈んでいく夕日はとっても美しくて、「あ~コンクリートジャングルにいて、仕事ばっかりしていたら絶対に見られない光景だなあ」とかしみじみ思いながらスーパーに行って買い物したり、家事手伝いをしながら過ごしているうちに、ぼちぼち復活した私。その後なんとか職につき、今もまあなんとか仕事をすることができている。

うちの近所は宇都宮でも郊外で、田んぼや畑が広がる。今でこそ数は減ったけれど、近所にいくつもの梨畑が広がっていた。佐川君の舞台の「阿部梨園」はうちからちょっといったところにある農園。でも、阿部梨園に行くまでもなく、うちの近所には〇×農園というところが複数あって、今でも阿部梨園にはいったことはない・・・(ごめんなさい)。

あの環境は間違いなく心癒される思う。佐川君も書いていた。活気あふれる収穫期にスタッフみんなで作業をして、梨を出荷して、疲れたら畑を散歩して季節を感じ、おいしい梨、おいしい野菜を食べること。

「そんな余白が、傷ついた私の人生を癒してくれたのかもしれません。」

あ~この一文に泣けました。そうなの、やっぱり人間には自然と触れ合うこと、誰かとリアルに接することが大事なのよ。特に参った心身は休んだら五感をフルに使うことで復活するし、メンタル崩壊の予防にもなる。よく食べてよく寝てよく休む。シンプルで当たり前だけれど、それができなくなるとだんだん落ちていく。精神科のお医者さんもいっていた。鬱に散歩はきくって。セロトニンを頭の中で減らさない、増やすのが大切。お日様、お散歩、規則正しい生活。これで鬱の予防とか鬱からの復活に役に立つんだと。話は横道にそれまくっているが、悲しいことに、この3か月、俳優さんの自殺が続いている。コロナもあって、外に出られない生活が続くと心身は蝕まれがちになる。

買いに行ったことはないけれど、阿部梨園の梨はおいしい。4年くらい前だったか、この本を買うきっかけになったうちの息子が塾に通っている頃、時々ご褒美と称して、街のジェラート屋でよくジェラートを食べていた時期があった。そこで「なしのジェラートおすすめです」といってすすめられたのが阿部梨園の梨を使ったジェラート。無茶苦茶美味しかったことを覚えている。今度は梨そのものを買いにいかなくっちゃね。

阿部梨園の近所はこんなところ。東京から出戻るまでは、田舎なんて大嫌いと思っていたが、今は大好きなふるさと♥️

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