価格のマネジメント
価格設定は、マーケティングにおいて重要な意思決定のひとつである。価格をどのように設定するかは、製品を販売する企業の売上に直結するからだ。また、販売価格から一製品当たりの開発・製造・販売に関わるコスト(原価)を引いたものが企業の利益となるため、価格設定は企業が獲得できる利益率にも直接影響する。
価格設定においてまず考慮すべきなのは、「需要の大きさとの関係性」である。つまり、ある価格で販売したときに、どれくらいの販売量が見込めるかということである。一般的に、製品を購入したいと考える買い手は、価格が安いほど増加し、価格が高いほど減少し、その関係を示した「需要曲線」がある。価格の変化率に対する需要の変化率の大きさは、需要の価格弾力性と呼ばれるが、需要曲線の傾きが急であれば、仮に値上げをしても販売量の減少はわずかですむ。しかし、値下げをしても販売量の増加は期待できないだろう。このように、価格の変化に対して需要量があまり影響を受けない場合を「非弾力的」であるという。それに対して、需要曲線の傾きが緩やかな場合、価格が高くなれば需要は大きく減少し、値下げによる需要量の大幅な増加が期待できる。このように、価格の変化に対して需要量が大きく影響を受ける場合を「弾力的」であるという。ある製品の価格を高く設定することが有効であるかどうかは、こうした需要曲線の形状、すなわち需要の価格弾力性を考慮して検討されるべきである。
価格設定の重要なもう一つの点は、「競合製品(代替品)の価格を考慮すること」である。競合製品(代替品)とは、消費者にとってのニーズを、異なる方法で満たす製品やサービスのことを指し、自社製品と競合製品が買い手にとって同様の価値を持つ場合、競合製品の価格が高く設定されていれば、自社製品の価格も上げることができるし、競合製品の価格が低ければ、自社製品の価格も下げざるを得ない。
価格は、マーケティングミックスの他の要素である製品、チャネル、プロモーションと独立に設定されるべきものではなく、それらと整合性を持つことで、一貫して製品価値を顧客に伝える要素にならなければならない。したがって、競合とは異なる高品質な製品でポジショニングを行いたい場合、むしろ価格を高く設定することで、その価値を顧客に伝えやすくなる。なぜならば、「価格が高いということは、品質も優れているだろう」というように、価格は消費者にとっての「品質のバロメーター」にもなるからだ。
以上のように、価格設定は企業側の売上や利益率に関わるだけではなく、消費者に製品の価値を伝えるためのマーケティングミックスの重要な要素なのである。