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きょうの出来事~1月2日
目が覚めたら既に10時だった。やっちまった、寝坊した。まあ当然の流れではあった。テレビを見ながら寝落ちして目覚めたのが午前5時。そこからベッドに潜り込んで、7時過ぎにアラームでまた目覚めて、ふとん滞在時間が足りないものだからぬくぬくにしがみついたのがいけない。三度寝を決め込んでしまったのだ。午前中にやろうと思っていたことを全部やるにはどう計算しても時間が足りない。あーあ。
でも。寝坊していなかったら、あの出来事に遭遇することはなかったのだ。だとしたら結果オーライと言いたい。そういうことにしたい。
私は一昨年の12月から、日盤吉方なるものをやっている。できる限り毎日。簡単に言うと吉方とり、吉散歩。晩に4時間以上寝た場所――基本的には自宅――を中心として、自分にとっての吉方の750m地点より向こうでお茶などをするというもので、なんというか、その日1日を気分良く、機嫌よく過ごすための一手のようなものである。お正月など季節の節目にその年の恵方やら吉方やらが話題になるが、それの仲間。その年の方位があるように、月ごとにもあるし、日々方位が変わり、私やあなたにとっての吉方も毎年、毎月、毎日変化する、のだそうだ。
数年前から薬膳を学んでいるやわるしすが属する亘lab.で教えていただいたことで、まあ私はかじった程度なのでこれ以上の説明は難しい……。
興味がある方はググってください。
私は今日はこの吉散歩を午前中のうちにやってしまって、午後はのんびり勉強して過ごそうなどと思っていたのだった、前の晩には。だがしかし、三度寝までキメてしまったがために、計画がすっかり狂ってしまったというわけである。
悔やんでも仕方ない。洗濯しながら掃き掃除を超絶簡単に済ませ、本日の方位を確認して吉散歩に出発した。目指すは北北西。我が家から見てこの方位には二つの神社があり、750m先にそのうちのひとつがある。コンビニや自販機が周囲にないので、境内の水道から持参したコップにお水をいただくのが決まりだった。この神社は高台にあって見晴らしがいい。ベンチに座って景色を眺めながらお水をいただくのは、なかなかに気持ちの良いひとときになる。特に冬は空気が済んでいるからか空の青が美しく、なおさら気分が良くなる。
今日もベンチに座ってお水を飲み、清々しい青空を仰いでから帰路についた。神社の石段を降り、公園の通路に入る。神社はその昔はお城の中にあったそうで、周辺が城址公園となっている。雑木林にもなっていて、整備はされているけれど森の中を歩いているような道がしばらく続く。日が暮れかけたらちょっと恐いよなあという雰囲気だ。
このとき、私はひとりだった。境内には二人ほど参拝客がいたが、この方角に歩いてきている人もいないし、こちらに向かってくる人もいない。スーパーにも寄りたいからとっとと下ろうぜ、と足早に歩を進めていた。
その時だった、落ち葉を踏みしめる私自身の足音とは別の足音が聞こえたのは。思わず足を止める。確かに聞こえる。しかし私の前にも、後ろにも人はいない。でも、いる。誰かが歩いている。しかも、それは通路ではなく林の中を歩いている。落ち葉を踏む音だけでなく、乾いた枝が折れるような音がする。え、人なの。なんなの。ここのところWOWOWの配信で『クリミナル・マインド』を視聴している。しかも直近で観た回は、ジョギング中の女性が林道でシリアルキラーに襲われた。シチュエーション、似過ぎなんですけどーーー!
まああんな青空眩しい昼日中に行動しているシリアルキラーはいなそうだけれど。多分。でも今この瞬間、茂みの中には生きているものがいる。鳥じゃない、そんな軽い感じじゃない。だからきっと妖精じゃない。木の葉だって1箇所だけ揺れているようなこともないから妖精説は消えた。
仮にこの林の中にいるとしたら、人間だったらヤバい系だよね、9割……。
なんて思いながらじーっと目を凝らすと――
いる。いた、木々の隙間から、5mくらい向こうにその姿が見える。
狸だった。
うん、絶対狸。猫じゃない。お互いに目があったまま動けなかった。
「ねえ、写真、撮ってもいい?」
にらめっこの挙げ句、なんとなく声をかけながらスマートフォンを取り出す。狸、動かない。了解してくれたのか。カメラを立ち上げて狸に向けた。
いやー、ここからが長かった。木々の隙間だから全然うまく撮れない。撮ったのを確認しても、狸がいるように見えない。でもいる。私の目は狸をあはっきり見ている。でも何枚撮っても姿が確認できない。ようやく撮れたと思って確認すると、うっすら映ってはいたけれど、ブレッブレで心霊写真にしか見えない。だからまた撮影を再開する。それに付き合ってくれる狸も相当気が長い。え、ホントはいないの? と疑いたくもなるが、私には見えている。こっちをじっと見たり、時には俯いたりしながらもその場から動かない。途中で若い男女が通り過ぎた。いっそのこと二人にも見てもらおうかとも思ったが、それをやると狸が消えてしまいそうな気がしてやめた。小鳥も何羽か来ては飛び去った。
何度シャッターを切っただろう。やがてようやく、狸がいると言えそうな写真が撮れた。
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「つきあってくれてありがとね!」
狸に手を振って立ち去った。
家の近くに狸がまだ生息していたことが、実はとても嬉しい。30年くらい前までは狸がいると言われていたし、市民センターだったかどこだったかに地元で捕獲された狸の剥製が飾られていたりして、東京の中でも里山風というか、自然が残っている感じではあった。それでも少しずつ雑木林が減っているし、野生のキジも見なくなったし、狸が棲める場所もなくなったんだろうなあと思い込んでいた。食料をどうやって調達しているのか。あの小山のどのあたりに巣があるのか。そもそもずっと生息している狸なのか、どこからか連れてこられたのか――疑問を数えるとキリがないけれど、なんだか楽しい気持ちで吉散歩を終えた。
もし早起きしていたら出会ってなかったかもしれない。
早起きできなくても得する日はある。
ではまた明日。