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「生まれてから死ぬまで人生すべてがイベント」~暮らしに寄り添う新しい介護のカタチ
大阪府守口市で介護保険外・外出付き添いサービス「ほな行こか」を営む泉野真衣さん。外出付き添い、美容ケア、そしてイベント企画という一見異なる3つのサービスを組み合わせることで、地域との関わりを意識し、少しずつ事業の認知度を拡大している。従来の介護の枠を超えた新しい可能性を探求する泉野さんのこれまでの歩みと現在の活動、これからの介護への想いを聞いた。(写真提供:泉野真衣さん)
介護保険外サービス事業 外出×美容×イベント「ほな行こか」
代表 泉野真衣さん
【プロフィール】
大阪府守口市在住。夫と娘の3人家族。18歳まで広島で過ごし、大学進学を機に神戸へ。その後、イベント会社でイベント制作・採用業務に従事。退職後、日帰り旅行の添乗員として働く中で、高齢者の外出付き添いの必要性に気がつき、介護職員初任者研修課程を修了。コロナ禍を機に有料老人ホームでのパート勤務を始め、トラベルヘルパー3級取得と介護福祉士実務者研修を修了する。2021年、介護美容研究所大阪1期生を卒業し、ケアビューティストとなり、シニアエスコートサービス「ほな行こか」を立ち上げる。2023年から(株)笑顔音が企画するシニアファッションショーにイベントディレクターとしてジョイン。外出付き添い×介護美容×イベントの独自の強みを生かして可能性を広げている。
故郷広島が教えてくれた、人との温かな関わり
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泉野さんは18歳まで広島で過ごした。3世代が共に暮らす地域で、近所の方々に見守られながら育った日々。
「道端で自由に遊んでいても、近所のおじいちゃんやおばあちゃんが見守ってくれました。悪いことをしたら叱られましたし、いつでも声をかけてくれて。高齢者の方がいつも身近にいる環境でした」
当時は2000年の介護保険制度が始まる前のこと。高齢者との交流が日常には当たり前にあった。しかしその時は、まさか自分が介護の仕事に携わるとは考えもしなかったという泉野さん。
「人との温かな関わりを大切にするベースは、広島にいた頃から自然と身につけてきたのかもしれない」と話す。
その後、関西への憧れを抱いて神戸の大学へ進学し、さまざまな職場でアルバイトを経験する。
「百貨店の催事販売、甲子園でのビールの売り子、お正月の巫女、神戸ルミナリエの警備やグッズ販売……。振り返ってみると、どの仕事も『接客』と『季節を楽しむ』が基本にありました」
旅行添乗員から介護の世界で見つけた新たな道
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泉野さんは、商学部で学んだ後、イベント会社に就職した。イベント制作や採用業務を経験し、退職を機に、時間の融通が利く日帰り旅行の派遣添乗員の仕事を始める。添乗員の仕事の経験が今の事業の原点となった。
「ツアー旅行の添乗で、車いすをご利用の方が乗車されたときのこと。バスの車内から降ろした車いすをスムーズに広げられず、ご不便をおかけしてしまいました。目的地についても、ご高齢で足が悪くバスから降りられない方など、せっかくの旅行を100%楽しめていない方を見るたびに、何かできることはないかと考えるようになりました」
そんなお客様の様子から、介護の世界への興味が芽生える。実は泉野さんの母は訪問介護員として働いた時期があり、仕事の話を学生時代から聞いていた。
「母は楽しそうに働いているように見えるのに、私が介護職に興味を持つと『やめときなさい』と言いました。でも、当時の母の話す介護の世界と、実際の現場は違うかもしれない。自分の目で確かめたくて、近所の有料老人ホームでパート勤務を始めました」
働きながら介護福祉士実務者研修を修了し、トラベルヘルパー3級も取得。施設での経験は、新たな気づきをもたらした。
「介護施設で働くようになって、自分で服を選ぶ意欲がない、外出について考えるのもおっくうな方がいらっしゃることを初めて知りました。入浴介助の時は、さっぱりとして気持ちよさそうに見えるのに、外見は構わなくなってしまう。介護の教科書に載っているような『整容』を越えた、その方らしい『きれい』をサポートできないかと考えるようになったんです」
この想いは、後に介護美容という新たな挑戦へとつながっていく。
美容とイベントで広がる介護の可能性
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「外出したいと感じていただくためには、まずはご自身が綺麗になっていただき気持ちを高めるのがよいのでは……」と考えていた泉野さん。SNSを見ているときに、介護美容研究所の大阪1期生募集告知が目に飛び込んできた。
「美容師の資格がなくてもできること、例えば高齢者の皮膚や肌の状態を知る授業、タッチトリートメントやネイルなど。美容をトータルで学べる機会を得ることにしました。実習で施設訪問に行った際には『きれい』は心の元気にもつながると実感しました」
卒業後、守口市地域福祉推進基金活動助成金を活用して、認知症の方やその家族が集うオレンジカフェで介護予防の講座を開く機会に恵まれた。
「直接シニアの方々に接する機会を探していたんです。ハンドトリートメント講座をさせていただいたら、『手のケアなんて今まで全然してこなかった』という声もあり、喜んでいただきました」
講座をきっかけに東京への結婚式付き添いをお願いしたいという依頼も舞い込んだそうだ。どこからご縁がつながるかわからない。
タイミングが重なり合い、外出付き添いのシニアエスコーター®で創始者の小嶌真央子(こじまなおこ)氏から、シニアファッションショー(Egaonショウサポートが企画・運営)のフィッティングに誘われ、そのまま制作補助に携わることに。現在の前身となる活動がスタートした。
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「Egaonショウサポートのショーは通常約60分程度。事前準備に約3か月かけ、その人の背後にある歴史や歩んできた道のりを大切にしてご本人と一緒に衣装選びをしていきます。
主に舞台準備や演出などでイベント会社時代の経験が活きるシーンがたくさんありましたね。さらに介護施設の方々が作られた作品を展示するなど、施設ならではの個性も大切にしました」と泉野さんは話す。
外出支援、美容ケア、イベント企画。
異なる経験が融合することで、介護保険外サービスの新たな可能性が見えてきた。
今では、病院への付き添いや、施設入居前の手続き支援、結婚式への同行、百貨店での買い物支援など。介護保険内ではなかなかできないサービスを提供し、その方にあった形で暮らしをサポートしている。
「『生まれてから死ぬまで人生すべてがイベント』という考えに至ったのは、サービスを利用してくださる利用者様との関わりからでした。通院も、買い物も、お孫さんの結婚式も、一つひとつが大切なイベント。時には私の娘を仲の良い利用者様のご自宅へ連れて行くこともありますが、それも相互にとっての大切な出会いと交流の時間になっています」と泉野さんは人生のさまざまな場面に寄り添う想いを語る。
つながりが育むやさしさの連鎖をこれからも
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泉野さんの長女は、2021年に誕生した。ちょうどコロナ禍の折でもあり、周囲にママ友も知り合いもほとんどいない状況で泉野さんは子育てをスタートした。
「娘と買い物に行くと、守口のおばあちゃん、おじいちゃんが話しかけてくれるんです。『可愛いねぇ』って声をかけてもらうことで当時は救われていました。幼い頃の広島での思い出とも重なって……その時のような高齢者の方と気軽に声をかわしあえる・助け合える地域づくりが今の世の中必要だなと思います」
介護保険外サービスを行う事業者とのつながりも広がり、新たな可能性も見えてきている。
「誰にでもできる仕事だと思われがちな介護ですが、実は違うんです。コミュニケーションが円滑にできなければ、いい支援はできません。認知症の有無にかかわらず、介護を受ける側の方々も『人』を見ているんです。そこを忘れてはいけないなと」
過去、学校や職場に行きづらい時期もあったという泉野さん。しかし、開業し、年齢を重ねるごとに、新しい発見と喜びに出会っている。
「今は仕事として介護に携わっていますが、近い将来、身内の介護を考える時期もくるでしょう。社会的にも介護離職など深刻な問題はありますが、介護保険外のサービスで支援できることもたくさんあります。『助けて』と声を上げやすい社会になってほしいですね」
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介護は誰もが直面する可能性のある人生の出来事。泉野さんの言葉には、介護を特別なものとせず、身近にしてくれる力強さが感じられた。困ったときには、誰かに頼ってもいい。できることを差し出せばいい。そんな双方向のやさしさが、これから広がっていくのを願ってやまない。
【泉野真衣さんプロフィールページ】