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真冬のソウルで、あたたかいおでんを食べませんか?
冬のソウルはかなり寒い。
それでもどうしても冬に行きたい理由がある。
望遠市場の入り口にある立ち食いおでん屋さん。私はその時、韓国で初めておでんを食べようとしていた。どうやって注文するのかな。少し遠くから様子を眺める。
「こっち来て食べな〜。」
一足先に、そのお店でおでんを食べていたオモニが声をかけてくれた。
「寒いから、おでんであったまらないとね〜。好きなん食べ。」
と山積みになったおでんを指差す。どうやら食べたいものを食べたいだけ食べて、長い串の本数で精算するスタイルらしい。
まずはこのベーシックおでんから食べてみよう。と考えていると、
「スープも自由に飲んでいいんだよ〜。」
と、今度はお店のオンニが紙コップに出汁スープを入れてくれた。皆の飾らない優しさと、昆布ベースの出汁がマイナス5度のソウルの町をずっと歩いてきてすっかり冷え切った私の身体に染み渡る。さつま揚げはふわふわで、味が奥の奥まで染みている。その間に、さっきとは別のオモニがおでんにつける醤油を準備してくれた。
「スープちょうだい。」
と通りがかりのおじさんがお店のオンニに話しかけている。
「美味しくどうぞ〜。」
とオンニが私と同じ紙コップをおじさんへ手渡す。おじさんは、それをもちろん飲み干して、おかわりまでしたのに、お金も払わずに帰っていった。韓国では、おでんスープがフリーらしい。
「先週はもっと寒かったからあなたはラッキーだね〜。」
「韓国で勉強してるの?」
「そこのカフェのコーヒーが美味しいで。」
メウンオデン(辛いおでん)を含めて2本食べ終わる頃に、どれくらいのひとと他愛もない話をしただろうか。
「また来なよ〜。」
と手を振るお店のオンニに別れを告げ、なんだか身も心もとても満たされた。市場で食べ歩きなんて辞めて、この暖かい気持ちで今日を終えようと思って、そのまま帰ることにした。
なぜ、韓国の人たちは皆、こう自然に、飾らずに暖かいのだろう。その原点について少し考えてみたくなった。
そう言えば、韓国では「アンニョンハセヨ(こんにちは)。」の次に「パブモゴッソヨ?(ご飯食べましたか?)」と聞くことで相手を労る。初めて耳にした時は、何故皆ご飯を食べたか聞いてくるんだろう、と不思議に思った。
そう言えば、韓国で食事をする時どこに行っても、白菜キムチ、オキアミ、豆の煮物、ケランチム・・・・・と、メイン料理の他にたくさんのおかずが出てきて驚く。「サービス。」と言って大きいピビンパが出てくることもある。「私、どれを注文したんだっけ?」と分からなくなることもしばしば。
これこそが自宅の冷蔵庫にある「常備薬」で人をもてなす韓国文化の根本であり、韓国の人が食べることを大切にする原点だ。韓国は、貧しく、食べ物を確保するのがやっとの時代が長かった。そのため、人びとは当たり前のように近所の人たちと声を掛け合い、食べ物を分け合い、助け合ってきた。訪ねてきた人には、ご飯を食べたか聞いて、食べていなければその「常備薬」でもてなした。そして家族のように皆で食卓を囲んでその日あったことを話した。これがいかに幸せなことか、私は忘れていたかもしれない。
韓国で「飾らない優しさ」を感じるたびに、私はその原点を思い出す。そして、これまで以上に食べることが愛おしくなった。
食べることを通して人と人とのつながりを大切にする韓国。
真冬の韓国で、あたたかいおでんを食べませんか。