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食事時間は地獄の時間

 私は、食事が苦手です。
 
 極端に言えば、何かを食べるという行為が苦痛です。
 食べずに済むなら、栄養チューブか何かで済ませてほしいくらいです。
 
 好きな食べ物もありますが、食べなくても全然平気、美味しいものを食べに行く、という感覚もわかりません。

 美味しいものは美味しいとわかりますので、味覚はあります。
 ただ、美味しいものを味わうことができません。

 味わって食べる挑戦もしました。
 けれど、口に入れた途端、味わうことを忘れ、気づけば飲み込んでしまうのです。

 結局、何を食べたのかよくわからない、という感覚で、子供の頃からずっときました。

 その理由が最近わかりました。

 我が家では、食事の時間は緊張が走る、極限状態の時間でした。

 なぜなら、食事の時間が一番父がイライラし始める確率が高いからです。

 まず、食事の前に必ず部屋のゴミを10個拾うと決まっていました。小学校に上がる前の私は食事の時間に近づいたことに緊張して、ここで泣き始めることがしょっちゅうでした。

 姉が、小さな声で「ゆうかちゃん、泣かないの!」と父から私を必死で隠してくれました。

 私は、父に気づかれないように、涙をこらえるのですが、父に泣いてることを気づかれてしまうと最後、「怒ってないのになんで泣いてるんだ!!」と、激昂されるのです。そこから暴力や暴言が始まることもありました。

 さて、食事がどのように進むのかというと、まず、準備からが大切です。
 お手拭きを並べてから、次は箸、その後お茶、と順番が決まっていました。子どもたちが並べるのですが、間違えたり、母が、うっかり箸を置く前におかずを出してしまったら、父は怒鳴りつけ、暴言が延々と続きます。

 さらに、食事中となると、ご飯が固いだの、柔らかいだの、みそ汁の味が薄いだの、濃いだの、ネチネチと母を責め続けるのです。
 「まともなものを食べたことがない!」と母をなじるのです。

 今思っても、母は料理がとても上手で何でも手作り、お惣菜や冷凍食品は今の今まで使ったのを見たことがありません。

 父は何をそんなに責めたかったのか、いまだに不思議です。

 さらに食事中は箸の持ち方、スプーンの持ち方、姿勢などなど、私達は注意されることがありすぎるので、父の母に対する嫌味を聞きながら、自分に火の粉がとんでこないように、超極限状態で食事をしなければなりませんでした。

 小学校に上がる前からそのような環境でしたので、食事を味わえるようになるわけがありません。

 箸の持ち方が完璧にできるようになったことだけは良かったことにしておきます。

 しかも、まだ子供ですから、橋を落としたり食べ物を落としたりすることも度々ありました。
 幼児用の椅子に座っている私たちは、自分で勝手に椅子から降りることを許されてないませんでした。

 落とした場合は、3つのことを言わなければなりません。
 ① 〇〇を落としてしまいました。
 ② ごめんなさい。
 ③ これからは
  落とさないように気をつけます。
の3つです。
 
 けれど、大きくなるに連れて、③が難しくなってくるんです。
 
 「これからは、これからはっていつも言うけど、直らないじゃないか!どうすれば直るか考えろ!!!」と怒鳴られるのです。

 私達は、必死で
 ④ 今後落とさないようにする対策

 を父に伝えなければならないのです。
 しかも毎回違う言葉を使わなければなりません。父が納得する答えを探さなければならないのです。

 うまく言えなければ、父に殴られるので、恐怖の中で頭をフル回転させるのです。

 さらに、私達は、自分が美味しいと思ったものを、勝手に美味しいと言ってはいけないのです。
 
 父が美味しいと言ったものを美味しいと言い、父が美味しくないと言ったものを間違えて美味しいなどとと言ってしまったら、大変なことになりますから。

 そうこうしているうちに、自分が何を美味しいと思っていて、何を美味しくないなと思っているのかさえ、わからなくなっていったのです。

 こんな食事時間を過ごしていた私が、今、食事を楽しく思えない、どうしても食べ物を味わうことができない、それが後遺症なんだと思います。

 
 そんな私は、わが子には、食事時間にあまり細かいことを言いたくないと思いました。
緊張しながら食事をしていたら、食事を楽しめなくなることは身を持って経験していたからです。

 あるとき、小学生の息子が「給食のほうがうちのご飯よりも美味しい」と言ってから、「あっ」と「家のご飯もおいしいよ」と言ったことがありました。

 私はそんな言葉も全力で受け入れました。それは息子の本心で、子供が本心を隠す必要は全くないと思っているからです。優しい息子はフォローしてくれましたが。

 自分の本心を隠して生きるようになってしまうことが、どれだけ苦しいか私が一番知っているからです。

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