The Byrds「Untitles」(1970)
バーズ・・・。一般的にはあまり知られていないし、知っていたとしても「Mr.Tambourine」や「Turn Turn Turn」あたりが有名で、本作を含め、バーズ後期の作品は埋もれた存在かと思われます。
私も以前はせいぜい1968年発表のカントリーロックの名盤「Sweetheart Of The Rodeo」止まりで、以降のバーズ作品は完全にスルーしておりました。
ところが数年前にたまたま録音してあった本作を耳にして以来、本作を見直しております。
バーズはメンバーの入れ替えの激しいグループで、1968年の「Sweetheart Of The Rodeo」発表以降、「Dr.Byrds & Mr.Hyde」「Ballad of Easy Rider」、そして本作の「Untitles」まで、残ったのはロジャー・マッギンだけ。オリジナル・メンバーのクリス・ヒルマンも脱退。その代わり脚光を浴びたのが、ギターのクラレンス・ホワイト。彼は60年代中頃からスタジオ・ミュージシャンとして活躍、モンキーズやバーズのレコーディングするなど売れっ子となっていきます。そしてバーズに正式加入したのは「Dr.Byrds & Mr.Hyde」から。本作のメンバーは他に「Dr.Byrds & Mr.Hyde」から加入のドラムのジーン・パーソンズ。そして本作から加入のベースのスキップ・バッテン。スキップのベースプレイもかなりインパクトがあります。この4人のメンバーが演奏面でみると、過去最強のバーズの布陣かもしれません。
その証拠に本作はライヴ・アルバムとスタジオ・アルバムのダブルアルバムとなってます。ライヴには自信があったのでしょうね。ライヴ盤には新曲が2曲、①「Lover Of The Bayou」とお得意のボブ・ディランのカバーの②「Positively 4th Street」。①「Lover Of The Bayou」は骨太で激しいロックで、ロジャーのヴォーカルもわざとドスの効いた声で歌っているように聴こえます。ここには力強いバーズがおります。
このライヴ盤「So You Want to Be a Rock 'n' Roll Star」「Mr. Tambourine Man」「Mr.Spaceman」と名曲が続きますが、やっぱりB面すべてを費やしている⑦「Eight Miles High」がハイライトでしょう。クリームばりのインプロビゼーション満載の白熱の約16分の演奏です。もともとの原曲がサイケ感覚いっぱいの名曲だっただけに、それを最高のバーズ・メンバー4人で、熱く演奏しております。当時のライヴでも、コレ盛り上がったでしょう。アップした映像は、本作が発表された頃のライヴ。バーズって、こんなにも激しいグループだったんですね。
でも本作がこのライヴ盤のみでしたら、私の思い入れも違ったものになっていたと思います。そう、やっぱりこのスタジオ盤が素晴らしいんですね。
まずはシングル・カットされた①「Chesnut Mare」。
本作はこの曲の他数曲、実はロジャーと心理学者のジャック・レヴィが企画した「ジーン・トリップ」というミュージカル用に書き上げた曲なんですが、その企画が頓挫し、結果的にはそれらが本作のコアとなった訳です。
バーズらしいほろ苦いメロディとカントリーフレーヴァーたっぷりの演奏。
アップした映像はスタジオ・ライヴの模様ですが、当時の演奏がじっくり聴けます。特にクラレンスの華麗なギタープレイに見とれてしまいます。
カントリー好きの私には④「Yesterday's Train」が堪りません。
これぞカントリーって感じ。スキップ・バッテンとジーン・パーソンズの共作。ハーモニカとヴォーカルはジーンです。そして印象深いペタルスティールギターはスニーキー・ピート。カントリー好きでなければあまりこのテの曲って注目されないと思うのですが、哀愁漂うハーモニカとペタルスティールの共演は素晴らしいです。
私の本作中のいちばんのお気に入りが⑥「Just A Season」。
初期バーズっぽいメロディとアレンジなんですが、やっぱり演奏力が高まっているのか、ロジャーとクラレンスのギターのハーモニーに厚みがあり、実に味わいがあります。
恐らく当時のこの曲を初めて聴いた日本人は誰でも驚いたことでしょう。それがエンディングで「南無妙法蓮華経」が聞ける⑨「Well Come Back Home」。
お経をこうして洋楽に載せたのはバーズだけかもしれません。
作者はスキップ・バッテン。ベトナム戦争の反戦歌のようです。当時、仏教を学んでいたスキップが、お経を見事に取り入れてます。実に効果的で、サイケな感じにも聴こえますね。
1970年、カントリーロックの源流を切り開いたバーズが、見事にスワンプロックへの橋渡し的なアルバムを発表してくれました。
このアルバムがバーズのなかで一番好きなアルバム、とする声が多いのですが、納得の1枚ですね。