Badfinger「Wish You Were Here」(1974)
悲劇のバンドの悲劇のパワーポップの名作!
今回はパワーポップの代表格、バッドフィンガーをご紹介します。
ビートルズの弟分として有名なバッドフィンガーですが、彼らの代表アルバムっていうと、1970年発表のセカンド「No Dice」、1971年発表のサード「Straight Up」辺りが挙げられると思います。これら2枚のアルバムはいずれご紹介するつもりですが、今回はあまり一般的に知られていない彼等の6枚目のアルバム「Wish You Were Here」をご紹介します。皆さん、この作品、ご存じですか?私は本作が彼らの最高傑作ではないか…と思い始めてます。
悲劇のバンド、バッドフィンガーの諸悪の根源は、1970年にマネージャーとして雇い入れたスタン・ポリーなる人物。闇の人脈を広く持つ人物だったようで、以降、バッドフィンガーを餌に、資金を引き出していく動きをしていきます。織り悪く、所属レーベルのアップルも財政的に苦しく、バッドフィンガーはアップルから4枚アルバムを発表して、ワーナーへ移籍。この間の契約トラブルもスタンが原因。
本作はそういったゴタゴタの最中に制作。でもワーナーも再び契約上のトラブルから、全くプロモーション活動を行わず、挙句の果てには1975年、バッドフィンガーのすべてのレコードの発売を停止してしまいます。マネージャーのスタンはバンドメンバーへの給料支払いを停止。そんな劣悪な状況下、バンドのリーダー、ピート・ハムは1975年4月、自殺してしまいます。う~ん、なんか、すごく切ない…。だって本作、決して酷い作品ではなく、むしろ素晴らしい作品なので…。
以上のような(本アルバムの制作後の)背景を踏まえて、是非本作を聴いてほしいです。
まずは快心のオープニング・ナンバーの①「Just A Chance」。ピート・ハム作のハードなナンバー。カッコいい~!
バッドフィンガーには素晴らしいソングライターが3人も居ります。ピートにトム・エバンス、ジョーイ・モランド。そして実は更にドラムのマイク・ギビンズが本作では良作を作ってます。それが②「You're So Fine」。ちょっとカントリータッチな、かなりビートルズっぽい楽曲。しかも「Beatles for Sale」の頃のサウンドにそっくり。
本作中、一番人気の高いナンバーは恐らく④「Know One Knows」でしょう。こちらもピート作。とにかくこの曲のイントロがスリリングでカッコいい。パワーポップの代表曲といってもいいんじゃないでしょうか。スリリングなイントロから、キャッチーなメロディへいく展開もGOOD!。唯一、とても残念なのが、間奏部分。よく聴くと幽霊のような日本語が聴こえます。外国の方にとっては、コレ、ミステリアスに聞こえるのかな~。日本人にとっては気味が悪くて、ちょっと興ざめ。皆さんはどう思われます?
ちなみにご存じのようにこのセリフを語っているのはプロデューサーのクリス・トーマスの恋人だったミカです…。
私はこの後に続く⑤「Dennis」も大好きなんです。ピート作。バッドフィンガーの典型的な泣きのメロディの美メロナンバーです。曲の後半から聞かれるキャッチーなコーラスや、エンディングにかけてスローに展開していくアレンジも実に素晴らしい。
今までご紹介した①~⑤がA面。素晴らしいですよね。そしてB面は1曲目と4曲目が2曲を繋げて1曲にしている凝った作り。
そのB面1曲目、つまり⑥「In the Meantime/Some Other Time」は一瞬プログレ?と思ってしまうような展開の楽曲。こちらはマイクとジョーイの共作。
バッドフィンガーに先入観を持っている方がこの曲を聴くと、ちょっとビックリするかも。でもこれがかなりクオリティ高いです!実はこうした展開の楽曲、ビートルズのアビーロードのB面を思わせるもの。きっと彼らはこのB面をそういった意識で作ったと思います。バッドフィンガーって、こんな素晴らしい曲もやっているんですよ。
ちなみに最初の「In the Meantime」のヴォーカルはマイク。
そろそろまた美メロが聴きたいなあと思う頃にやってくる⑦「Love Time」。ジョーイ・モランド作。ポール・マッカートニーの作品に似てなくもないですね。こうした泣きのメロディのポップス、大好きなんですよね。
こうして聴いてみると、やっぱり素晴らしい作品ですね。いろいろと考えて作られているような気がします。またメンバー4人の個性がうまく噛み合った1枚かなあと。メンバーはこの勢いで次作を1974年12月には完成させていたのですが、前述のゴタゴタの中、お蔵入り…。そのアルバム「Head First」が陽の目を見たのはピートも、そしてトムも自殺してしまった後、2000年のことでした。
そう、後にトム・エバンスも、あの名曲「Without You」で、メンバーだったジョーイと利権を争うこととなり、1983年11月に自殺してしまいます。トムはピートの自殺のショックから立ち直ることは出来なかったとも云われています。名曲は莫大な資産となり、利権が絡んでくると、人間の欲というものが出て来てしまいます。バッドフィンガーというバンドは、実に悲劇的なバンドでした。