Deep Purple「The Book of Taliesyn」(1968)
ディープ・パープルというと、イアン・ギランとロジャー・グローバー加入後の第二期パープルばかりが注目されがちですが、ジョン・ロードが主導権を握っていた第一期パープルも捨て難いのです。
そういう私も第一期パープルは、せいぜい「Hush」くらいしか知らなかったのですが・・・(苦笑)。
この第一期パープルとして2枚目のアルバム「詩人タリエシンの世界」、そもそもこのアルバムをご紹介する方も殆ど、いや全くいないと思いますが、たまたま縁あり、じっくり聴く機会があったのですが、相当イイ。第一期のヴォーカリスト、ロッド・エヴァンスもなかなかの実力者だったんですね。
特にロッドのヴォーカリストとしての実力が分かるのが③「Kentucky Woman」。ニール・ダイヤモンドのカバーですが、本作からのシングルナンバーで、ビルボード38位を記録してます。
ロッドの渋い声は、ニール・ダイヤモンドに近いものがあります。でもここではしっかりシャウトもしているし、ロッドが意外と器用なヴォーカリストであることがよく分かるかと思います。またニック・シンパーのベースもグルーヴ感を感じさせますね。
でもこの軽快なナンバー、最大の聴き所はジョン・ロードのソロでしょう。もちろんパープルといえばリッチー・ブラックモア。間奏はリッチーのギターソロから始まりますが、その後に続くジョンのキーボードソロがやっぱり圧巻。そしてそれを煽るようなイアン・ペイスのドラミングが素晴らしい!イアンのスネア捌きって神業です。そういった意味ではこの「Kentucky Woman」ってカバーソング、この当時のパープルの実力を堪能出来るナンバーです。
②「Hard Road (Wring That Neck)」はジョンの独壇場。インストナンバーです。でもジョンが得意とするクラシカルなナンバーではなく、むしろリッチーが好みそうな強力なブギー、3連ナンバーです。出だしこそジョンのソロが続きますが、リッチーのギターソロも堪能出来ます。もっとリッチー色を前面に出せば、第二期パープルの幕開け的なナンバーの「Black Night」に近いかもしれません。この曲に限っては、ひょっとしたらリッチーが主導権を握って作ったのかもしれませんね。
④「Exposition-We Can Work It Out」はタイトルからお分かりの通り、ビートルズのカバー。このカバーソングの意外性もユニークですが、その前半のオリジナル作品のExposition、ジョンのクラシカルな作風がモロに現れてます。でもなかなかスピーディーでスリリングな展開が結構いいです。そしてそれに続くWe Can Work It Out。リッチーがメロディを弾きまくります。後のハードロッカーのリッチーが、こんな曲を弾いていたんですね。
でもこれもアリ!もちろんこれはイアン・ギランのヴォーカルでは合わなかったでしょうね。
当時パープルはアートロックとかニューロックとも呼ばれていたようです。サイケに近いイメージでしょうか。⑤「The Shield」はそれに近い楽曲かもしれません。決して第二期パープルでは見られなかった楽曲。淡々とメロディーが進む、ちょっと怪しげな楽曲。途中からフューチャーされるパーカッションが怪しげです。
本作では実は⑥「Anthem」が一番影の名曲、影の人気ナンバーかもしれません。メロディが実に美しい。これもロッドが歌ってこそ成り立った楽曲かもしれません。途中のストリングスなんかは完全にジョンの趣味ですね。ストリングスとオルガンが絡むところなんかはバッハを連想させます。こんなところも第一期パープルの魅力だったのでしょう。
ちなみにロッド・エヴァンスはパープルを解雇された後、いくつかのバンドを結成したようですが、完全に忘れ去られた人物となってしまいました。ただ1980年にディープ・パープルの名前を使ってバンドを再結成させ(もちろん他のメンバーは容姿がそっくりな偽者)、ファンから総スカンを食らったことは記憶にあるかもしれませんが(苦笑)。
第一期パープルはもう1枚アルバムを発表し、そしてイアン・ギランとロジャー・グローバーが新たに加入したことが第二期パープルがスタート。但し引き続き主導権はジョンにあったわけで、一枚、ロイヤル・フィル・オーケストラとの共演アルバムを発表します。その時の映像がこちら。
でも時はレッド・ツェッペリンが人気を博していた頃。もう時代はハードロックを望んでいたのです。それを敏感に察知したリッチーがジョンに直談判。そして1枚だけハードロックアルバムを作ることの了承を得て制作されたのが名作「In Rock」。こうして第二期パープル、パープル全盛期がスタートするのです。