
Badfinger「No Dice」(1970)
今日は悲劇のパワーポップバンド、バッドフィンガーのご紹介です。
あまりこうした修飾語は使いたくないのですが、やっぱりこのバンドを語る上で、この悲劇的な事実は事実として認識しなければなりません。
それは中心メンバーのピート・ハムとトム・エヴァンズの自殺です。ピートは1975年4月。前夜にトムとは酒を酌み交わしていたらしい。曲からも推察出来ますが、ナイーヴな方だったようですね。
そしてトムは1983年11月、前日にはメンバーのジョーイ・モランドと印税の件で揉めていたのですが、トムはピートの自殺のショックから立ち直ることは出来なかったと、後にトムの奥さんが語ってます。
メンバーは自殺、マネージャーには騙され、実際に商業的なヒットにも決して恵まれなかった。
でも今ではパワーポップの元祖として、評価もそこそこ高く、実際彼等の楽曲は素晴らしかったのです。
バッドフィンガーには「Straight Up」(1971)という名盤もありますが、今回はその前に発表された彼等の代表作「No Dice」をご紹介致します。

このアルバムは何といっても⑤「No Matter What」と⑥「Without You」の流れが素晴らしい。
⑤「No Matter What」はパワーポップの代表曲のひとつに数えられるくらいポップでハード。甘ったるいだけでなくて、適度に重いリズムがまたいいですね。
1本のマイクで2人コーラスを取るあたりなんかはビートルズそっくり。
そしてニルソンのカバーがあまりにも有名になってしまった⑥「Without You」。
もちろんバッドフィンガーがオリジナルです。この事実さえ知らない人って結構いらっしゃると思います。
この曲はピート・ハムが中心になって作り、サビはトム・エヴァンズが作ったというもの。ニルソンのヴァージョンが耳に馴染んでしまっているせいか、バッドフィンガーのヴァージョンは新鮮です。
バッドフィンガーには3人の優れたライターがいました。ピートにトム、そしてジョーイ・モランド。ジョーイの曲はちょっとロック色が強かったりして、そこがまたピート、トムとうまくバランスが取れて良かったりします。
③「Love Me Do」はビートルズにも同タイトルの曲がありましたが、全然雰囲気の違う曲。いかにもジョーイらしい曲です。
2大名曲の前に収められている④「Midnight Caller」も私のお気に入りです。ピートらしいメロウなメロディが胸を打ちます。結構この曲が好きだという方、いらっしゃるのではないでしょうか。
⑪「Believe Me」はトムのヴォーカルが光るビートルズらしい1曲。後期ビートルズのちょっとブルージーなナンバーに似ています。
最近、今頃になってバッドフィンガーの良さが分かってきたような気がします。ピートがもっと厚かましいくらいの性格だったら、ここまで評価されなかったかもしれませんね。