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Carole King「Writer」(1970)

キャロル・キングのソロデビューアルバムが「Tapestry」だと思い込んでいる方もいらっしゃるかもしれません。
それくらい強烈な印象のセカンドの「Tapestry」…、それに比して印象の薄いデビューアルバムの「Writer」。でも実は両者発表時期の開きはたったの9ヶ月しかありません。「Writer」は1970年5月発表ですが、「Tapestry」は1971年2月。このわずかな期間でキャロルは作風が微妙に変わってきたのですが、「Writer」に魅力がないのかというと決してそんなことはありません。基本は変わっていないので、これもまたじっくり聴くべきアルバムかと思います。

プロデュースはルー・アドラーではなく、ジョン・フィッシュバック。レコーディングされたクリスタル・サウンド・スタジオの共同創設者ですね。
ダニー・コーチマー(G)、チャールズ・ラーキー(B)のシティ組、ラルフ・シュケット(Key)、ジョエル・オブライエン(Ds)といったミュージシャンが参加。こちらもセカンド「Tapestry」とそれほど変わりません。
2曲を除き、全曲キャロル・キング=ジェリー・ゴフィンの共作(2曲はキャロル・キング=トニ・スターンの共作)。ジェリーは1958年にキャロルと結婚し、1968年に離婚後もしばらくはライターチームとして活動しておりました。ジェリーが書く詞は、キャロルのメロディと実にマッチしており、素晴らしいライターチームだったと思います。

まずはオープニングの①「Spaceship Races」。
イントロのロック調のギターにビックリ。「Tapestry」のイメージで聴くと驚かれるかもしれません。
キャロルのヴォーカルも気のせいか、シャウト気味。でもよく聴くとメロディはキャロル節。アレンジがロック調なだけなんですね。ロックなダニーのギター、ちょっとラウド気味なジョエルのドラム。ですがリズムがスローに転換するエンディングのアレンジは流石だなあと思ってしまいます。

ダスティ・スプリングフィールドやバーズによって歌われてきた④「Goin' Back」がセルフカバーされてます。
味わい深いメロディですね。個人的には哀愁漂うバーズのバージョンが大好きです。
キャロルのバージョンはバーズのバージョンが下敷きにあるような気がします。そこにジェームス・テイラーの暖かいコーラスとアコギが加わりメロディを引き立て、かなりアコースティックな優しいアレンジに仕上がってますね。エンディングにかけてのJTらしいコーラスが素晴らしい。

アレンジが凝っている⑥「What Have You Got to Lose」。
サビに至るまでの、ちょっとマイナー調のパートのアレンジがかなり凝ってますね。ドラムはちょっとボサノバ調のリムショットで、ベースはそのリズムに合わせて自由に動いてますし、何よりギターがいい味出してます。
サビはいつものキャロル節。安心感ありますね。

トニ・スターンが書いた詞の⑧「Raspberry Jam」。
シティ時代の「Snow Queen」を彷彿させるワルツ調でこれがまたカッコいい曲なんです。
ダニーのギターがフューチャーされてますが、かなりジャズしてますね。ダニーってロック寄りな印象もあったのですが、こんなプレイも器用に弾けるんですね。よく聴くとキャロルのピアノもかなりアドリブ的なノリだし、ピアノとギター、オルガンのインタープレイも聴き所です。

1964年にベティ・エヴェレットに提供した⑩「I Can't Hear You No More」。
この曲は非常にソウルフルですね。ここでもダニーのギターが妙に強調されてます。キャロルのヴォーカルと対を為すような感じで実にスリリング。パーカッションとオーケストラがニューソウルな感じでこれもまたカッコいい。

こちらは1962年にドリフターズに提供した名曲⑫「Up On The Roof」。
この曲こそ、次作「Tapestry」に繋がる曲のような気がします。
疲れて打ちのめされたら屋根に上ってみようというメッセージソングであります。現実逃避とも取れなくもないですが、気分転換の重要性を説いた歌と解釈しております。レコ―ディング音源はアコギやオケを加えたものですが、アップした映像はちょうど「Tapestry」を発表した頃のピアノの弾き語りバージョンです。「Tapestry」に収録されていても違和感のない仕上がりですよね。また詞がメロディにマッチしております。この曲はもともとは違うタイトルだったようですが、ジェリーが「Up On The Roof」を進言したそうです。

キャロル・キングがスターダムにのし上がるのは時間の問題。その時はもうすぐそこまで来ておりました。
ちなみにこのSSWブームに乗り遅れてしまったと感じていたのがニール・セダカだったんじゃないかなと。

ご存じのようにニールはキャロルの幼馴染であり、ボーイフレンドでした。それからニールが1959年に「Oh!Carole」を発表すると、キャロルは歌詞を変えて「Oh.Neil」で返すという間柄。ライター時代も各々がモンキーズに楽曲提供していたりと、同じような道を歩んでいた二人。
それが突然、キャロルが大成功を収めてしまいます。当時のニールは少し落ち目だったんじゃないですかね。
そして一念発起、ニールにも再び黄金時代が到来して来ます。この時代のニールも大好きですが、この辺りのことはまた別途綴っていきたいと思ってます。


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