Paul McCartney & Wings「London Town」(1978)
クインシー・ジョーンズが亡くなれた報に接し、彼の偉大なる功績のひとつ、マイケル・ジャクソンの「Off The Wall」を聴いていたところ、ポール・マッカートニーの作品が収録されていたことを思い出し、更にその曲が本作に収録されたいたことに気付き、早速本作をじっくり聴いております。
「Wings Over America」と題されたアメリカ・ツアーを含むワールドツアーの成功で、このウィングスの5人は結束が堅いと思っていたのですが、本作レコ―ディング後、ジョー・イングリッシュとジミー・マカロックが脱退。結局、ジャケットの3人、ポール、リンダ、デニー・レインの3人だけとなった作品。ウィングス好きな方でも、本作はスルーされがちな印象でしたし、私自身もスルーしておりました(苦笑)。
大成功に終わったワールドツアーから英国へ戻り、一息つきたかったポールは、本作ではデニーの影響もあり英国音楽への回帰が試みられております。またアビーロードスタジオでの収録と共に、なんと西インド諸島上のヨット(「フェア・キャロル号」)に機材を持ち込み、そこでも収録されてます。なので全体的にはリラックスムード溢れるサウンドが聞けます。これが本作の物足りなさに感じる要因の一つでもあるのですが…。
アルバムタイトルトラックの①「London Town」。あまりにも地味なオープニングナンバー(笑)。これが本作を象徴しているかもしれません。霧深いロンドンを思い起こさせるような、気怠い展開…。この曲はそういったロンドンの情景が味わえるナンバーです。そしてこの曲は本作の大事なパートナーとなったデニー・レインとの共作です。この曲の原型は1975年にはポールが書き上げていたようです。そこにデニーが書いた別の曲を合算させて仕上げたのが本作でした。デニーとの共作は本作にはボートラを含めれば6曲も収録されてます。
そしてこちらがマイケル・ジャクソンに提供した⑦「Girlfriend」。
実はこの曲は1974年に当初からマイケルを意識して作られた曲だったのです。その後、1975年に「ヴィーナス・アンド・マース」の発売記念パーティにポールはマイケルを招待し、そこでお互い初対面を果たし、ポールはマイケルにこの曲を歌ったのでした。後にマイケルは「Off The Wall」にこの曲を収録しますが、それはクインシー・ジョーンズの強い薦めがあったから。本作でのポールは、よく聴くとマイケル風に歌ってますね(笑)。ほのぼのしたポール流のポップスです。
ハードなナンバーの⑧「I've Had Enough」。カッコいいですね~。これは前述の洋上セッションでのナンバー。ジョーのドラム、ポールのベース、ジミーのギターがうまく絡み合ったタイトなロックンロールです。
こちらのPVはアルバム発表時に撮影されたものですので、当時のウィングスのメンバーとなったスティーヴ・ホリー(Ds)とローレンス・ジューバー(G)が参加してます。
シングルヒットした⑨「With a Little Luck」、邦題「しあわせの予感」。ポールらしいミディアムテンポのポップスです。
ウィングス時代のポールはこのテの楽曲を得意としてましたが、この曲は妙にシンセが強調されてますね。5人のウィングス、特にジミーのギターが強調されたロックチューンが好きな私としては非常に物足りなさを感じる楽曲なんですが…(実際この曲では殆どギターの音が聞こえないですね)。
この曲はアルバムバージョンは6分近いナンバーですが、あまりにも間奏が長過ぎるので、シングルではそこをカットしたショートバージョンが採用されてます。ですからこのPVは本来短いものなのですが、アルバムバージョンに合わせて編集、間奏部分は繰り返した映像が使われてます。ここでもドラムには新加入のスティーヴが映ってますね。
シングル「Mull of Kintyre」のB面の⑮「Girls' School」、こちらはボーナストラックとして収録されているもの。
洋上セッションからの1曲。実にストレートなロックです。ジミーのギター、タイトなジョーのドラム、それが活かされたこの頃のウィングスの脂の乗り切った演奏ですよね。この曲は私も最近まで知らなかったですが、結構お気に入りのナンバーです。
デニー・レインとの共作の⑯「Mull of Kintyre」。邦題「夢の旅人」。スコティッシュ・ワルツ形式、バグパイプの演奏、これらが英国音楽情緒溢れるものとして、とくに英国で大ヒットを記録しました。
この曲は当時ウィングスのベスト盤に収録されてましたが、私が中学生の頃、このアルバムを購入した際には、実はこの曲だけはあまり好きになれなかったんですよね。どうもその印象が強く、あまりじっくり聴いて来なかった曲ですが、ここ数日、仕事に忙殺され、疲れて帰宅することが増えていた中、何気にこの曲を聴くと妙にまったりと落ち着くことに気付きました。精神安定剤的な効果があるんですよね。そうか、そういう聴き方があるのか、と今更ながら気付かされた名曲…。
こうしてボートラも含めて聴いてみると、実はいろいろな音楽が詰まったアルバムで、地味ながらも意外と楽しめるアルバムなんですよね。皆様はどう感じられたでしょうか?
洋上セッションは和やかに進んでいた筈なのに、ジョー・イングリッシュ、ジミー・マカロックはウィングスを脱退。さすがにポールも気落ちされたようです。ウィングスというバンドはポールのプロジェクトでもあるわけで、極論メンバーは誰でもいいのですが、本作はデニー・レインの嗜好が反映されたアルバムとなりました。ポールの片腕となり得たのはデニーだけだったということでしょうね。そのデニーも昨年12月に亡くなられてましたね…。