The Beach Boys「Surf's Up」(1971)
「Sunflower」はビーチボーイズの70年代の幕開けに相応しい渾身の1枚で、ブライアンをフォローする他のメンバーの活躍、バンドとしての力量が十分発揮されたアルバムでした。にも関わらず商業的には散々な結果に終わってしまいました。
ちょうどこの「Sunflower」が発売される直前に、ブライアン・ウィルソン、ブルース・ジョンストン、マイク・ラブはKPFK局のDJ、ジャック・ライリーからインタビューを受けます。その際にブライアンは多くの悩み、例えば「イメージを変える努力が足りていない…」等といったことを吐露。これを受けて、ジャックが1週間後にレコードの売り上げと人気を高める方法を提案していた、というやり取りがありました。
そして「Sunflower」が発売されたのですが、これが前述の通りグループ結成史上最低の売上を記録してしまいます。
こうした経緯があった中、主にブルースやマイクにより、マネージャーをジャックに変えることとなったのです。このジャックがビーチボーイズを立て直すべく、ウィルソン兄弟の三男、カールをグループリーダーに任命。コンサート活動も強化し、1971年1月からアルバムのレコ―ディングを開始。ここでジャックはメンバーに、世間のビーチボーイズのイメージを変えるべく、社会意識が高く時事的な歌詞の曲を書くよう推奨し、メンバーも奮起します。そして完成したのが本作です。
本作ではアル・ジャーディンやカール・ウィルソンの活躍が目覚ましいですね。それでもやっぱりブライアンの才能は突出しております。アルやカールがいくら頑張っても、並みより少し上って感じ。そういったことがよく分かるアルバムでもあります。あ、ブルース・ジョンストンは提供曲こそ少ないですが、彼はブライアンに近い才能を感じさせますが。
一方、前作では奮闘していたデニス・ウィルソンの存在が全く感じられないのも本作の特徴です。本作では楽曲提供すらしていないですし、そもそも2曲にしか参加しておりません。そもそも2曲提供する予定だったのですが、ウィルソン兄弟に比重が偏ることを嫌ったからとか、デニスがソロ作品を優先させたかったからとか言われてますが、デニスの調子がドラッグやアルコールの影響であまり良くなかったということかもしれません。あとケガによりドラムが叩けなかったということもありますが。
まずはオープニングナンバーからご紹介致します。
アルが奮闘している①「Don't Go Near the Water」。
サーフィンソングを歌っていたビーチボーイズが、水に近寄っちゃいけないと歌っているのだから面白い。もちろん水が汚染されていることを歌っているのですが、水を大事にしないといけないといったメッセージソングになってます。マイク・ラブが中心になって歌詞は書かれたと思います。
アップした映像は当時のPVでしょうか。貴重ですね。ブライアンの姿はなく、代わりにブロンディ・チャップリンが映ってます。あ、ドラムはリッキー・ファターですね。デニスはこの頃、手をケガしてドラムは叩けなかったんですね。
②「Long Promised Road」はカールが初めてソロで作曲した作品。
こちらはジャック・ライリーがビーチボーイズに初めて作詞した楽曲です。バックの演奏は殆どカール一人の演奏、コーラスはメンバーも参加。
イントロから甘味なバラードの予感がしますが、25秒過ぎから強烈な8ビートを刻んできます。このバラードと8ビートのリズムが交互に続くナンバーです。途中、ビーチボーイズらしくない女性のコーラスも入りますが、こちらはブライアンの奥様、マリリン・ウィルソンが参加しております。なかなかの好ナンバーですね。
ブルース・ジョンストン一世一代の名曲④「Disney Girls (1957)」。
こうしたメロウなポップスは、ブライアンの世界観とはまた一味違うものがあります。
ブルースが、観客の中には麻薬に酔いしれている若い子がいるのを見て、古き良き時代、健康的だった良き時代を歌ったもの。郷愁を感じさせる歌詞とビーチボーイズならではの豊潤なコーラスが相俟って、素晴らしい楽曲に仕上がっております。
ブルースは本作ではこの曲のみ提供。後にジャックと喧嘩し、バンドを解雇されてます。但しブルースは1978年に発表された「L.A.」で復帰します。やはりビーチボーイズには無くてはならない存在だったんですよね。
本作の魅力はブルースの「Disney Girls (1957)」と、ラスト3曲じゃないかなと思います。
そのラスト3曲の最初の1曲が⑧「A Day in the Life of a Tree」。
一瞬、ブライアンが歌っているものと思っちゃいましたが、このヴォーカルはマネージャーのジャック。ガイドヴォーカルをジャックに歌わせ、それをそのまま採用したということらしいのですが、環境汚染を歌った悲しい唄なので、誰も歌わないからジャックに(最初から意図して)歌わせたとのアルの証言もあります。
ブライアンらしいメロディ、そしてコーラスが凄く崇高なアレンジで素晴らしい。一節、ヴァン・ダイク・パークスが歌っております。
ブライアン単独作品の名作⑨「'Til I Die」。
精神的に混沌とした時期に書かれた作品。後にブライアンのソロアルバムにも収録されてました。
スネアドラムやリズムマシンもブライアンによるもの。デニス以外の5人のメンバーのイントロからエンディングまでのヴォーカル&コーラスが素晴らしい。ブルースは「ブライアン・ウィルソン最後の偉大な曲」と称賛しておりますし、これこそビーチボーイズらしい名曲かと思います。
エンディングに世紀の名曲⑩「Surf's Up」が置かれてます。
言わずと知れたブライアンとヴァン・ダイク・パークスの共作で、幻のアルバム「Smile」のハイライトとなる予定だった曲。ブライアンはこの曲の収録をどういった経緯か分かりませんが承諾します。ただ、頑なに歌うことを拒否し、カールに歌うことを主張。ここに収録されているバージョン、第一楽章はカールが歌ったもの。そして第二楽章、ピアノの弾き語りはオリジナルの音源、つまりブライアンが歌い、そして最後のパート、これは「Child Is Father of the Man」という曲のリフレインを流用したもの。こちらのリードヴォーカルはアルが務めてます。
非常に美しい曲ですよね。とにかくコーラスが素晴らしい。ブライアンが輝いていた時代の作品。
「Surf's Up」を持ってきて、歌詞もイメージチェンジを図った本作ですが、それでもビーチボーイズは混沌とした時代を抜け出すことは出来ませんでした。そして1974年にビーチボーイズは突然復活するのですが、それは皮肉なことに過去のヒットソング、昔のビーチボーイズのベスト盤がヒットしたことに拠るものでした…。