J.D. Souther 「A Natural History」 (2011)
私が敬愛していたJ.D.サウザーの訃報が届きました。享年78歳。同い年のリンダ・ロンシュタットの気持ちを察すると、悲しくてやりきれません。
晩年のJ.D.サウザーの枯れ具合が大好きでした。そんな彼の魅力が詰まったセルフカバー集をご紹介させて下さい。
ひょっとしたらJ.D.サウザーは一般的には「You're Only Lonely」の一発屋って思っている方もいるのかもしれません。でも本当は5人目のイーグルとも呼ばれていたくらいにイーグルスを陰で支えたライターであり、ジャクソン・ブラウン、リンダ・ロンシュタットとも交流の深かった、ウェストコーストロック史の重要人物なんです。彼の作品を好んで歌っていたアーチストも多く、玄人好みのアーチストなのかもしれません。
そんなJ.D.ですが、自身の作品は極めて寡作。オリジナルアルバムは45年に及ぶ長い活動の中でも、7枚だけ。本作はその内の貴重な1枚で、自身の作品のリメイク・セルフカバーアルバムなんです。しかも演奏はアコースティックを貴重としたシンプルなもの。それだけ素朴な、飾りっ気のないサウンドで、ともすると味気ないものになりがちなんですが、メロディがしっかりしているだけに、極めて味わい深い内容に仕上がってます。
収録曲は全11曲(日本盤は13曲なのですが)。先に収録曲と、オリジナルの収録アルバムを列記させて頂きます。
①「Go Ahead And Rain」~ HOME BY DAWN (1984)
②「Faithless Love」~ BLACK ROSE (1976)
③「You're Only Lonely」~ YOU'RE ONLY LONELY (1979)
④「The Sad Cafe」 ~ THE LONG RUN by Eagles (1979)
⑤「Silver Blue」~ BLACK ROSE (1976)
⑥「New Kid In Town」 ~ HOTEL CALIFORNIA by Eagles (1976)
⑦「I'll Take Care Of You」 ~ HOME BY DAWN (1984)
⑧「Little Victories」 ~ THE DISTANCE by Bob Seger & The Silver Bullet Band (1982)
⑨「Prisoner In Disguise」~ PRISONER IN DISGUISE by Linda Ronstadt (1975)
⑩「Best Of My Love」~ ON THE BORDER by Eagles (1974)
⑪「I'll Be Here At Closing Time」~ IF THE WORLD WAS YOU (2008)
なんとイーグルスのカバーが3曲も収録されております。
イーグルスが歌った④「The Sad Cafe」は後期特有のAOR系サウンドが魅力的でしたが、それがどんな仕上がりになったのかというと、ピアノとアコギ、間奏はフリューゲルホルンでしょうか。実にシンプル、かつメロディが胸に染みる仕上がり。
それは⑩「Best of My Love」にも通じます。イーグルスはスィートなアレンジに仕立ててましたが、J.D.はここでも極めてシンプルに歌ってます。通常、こんなシンプルにされてしまうと、ホント味気ないものとなってしまうんですが、J.D.の声がナチュラルで胸に響いてくるし、余計に美しいメロディが引き立って聞こえます。いいですね。
私が大好きなトラックは②「Faithless Love」。リンダ・ロンシュタットもカバーした名曲ですね。J.D.も自身のセカンドで発表してますし、そのオリジナルも素晴らしいのですが、ここでのアコギの弾き語りバージョンも、「Best of My Love」と同様に、美しいメロディが胸に染みます。
そしてディクシー・チックスもカバーした⑦「I’ll Take Care of You」。1984年に発表した自身のアルバム「Home by Dawn」に収録されたバラードで、こちらはオリジナルに近い感じの仕上がり。これもまた美しいメロディなんです。
ついでにこのライヴバージョンもアップしておきます。飾りっ気のない、髪がボサボサのJ.D.(笑)。いぶし銀と呼ぶに相応しいヴォーカル。酔いどれ親父って感じでしょうか。味わい深いです。なんだか涙が出そうで…、ちょっと感動してしまいます。やっぱりこのライヴ、生で観たかった…。
⑧「Little Victories」はボブ・シーガーが歌ったバージョンがオリジナルで、私は聴いたことがなかったので、今回初めて聴いてみました。なんとヘビーなロック。言ってみればイーグルスの「Heartache Tonight」みたいなサウンド。「Heartache Tonight」もJ.D.とボブ・シーガー、グレン&ドンの共作でした。ボブ・シーガーといえば「デトロイトの巨星」と呼ばれるくらいデトロイト出身であることが有名。そしてグレン・フライも同出身で、実は60年代後半から2人は仲が良かったらしい。その繋がりからJ.D.も早々にボブとは懇意であったと推察されます。
で、この「Little Victories」、J.D.単独の作品で、本家がカバーした形。ボブがロック調だったのに、J.D.が歌うと随分爽やかな感じ。これはヴォーカルの声質に拠るところが大きいと思います。せっかくなのでJ.D.のライブバージョンとボブのバージョンをアップしておきます。
⑪「I'll Be Here At Closing Time」は2008年に発表されたナンバーで、どちらかというと最近(でもないんですが)の曲。でもJ.D.は昔と変わってない。味わい深いナンバーで、J.D.の声も年相応に枯れてきて…。でもその枯れ具合が、こうした曲にぴったり。ジャズバーでじっくり聴いていたい曲ですね。ということでこちらもライブバージョンをアップしておきます。
アルバムタイトル「A Natural History」にぴったりな、素敵な珠玉の曲たち。いい感じに枯れたJ.D.の声が堪りません。素敵なアルバムです…。
でももうJ.D.のライブが観れないと思うと辛いですね…。
最後にリンダと共演した貴重な音源をアップし、J.D.を追悼したいと思います。もちろん曲はJ.D.の名作「Faithless Love」・・・。