Gene Clark「Roadmaster」(1973)
ジーン・クラークをご存じでしょうか。あのザ・バーズの中心的メンバーでありながら、2枚のアルバムに参加しただけで脱退。ライブではタンバリンを叩いてた男。でも実際は優れたソングライターでもありました。
ジーン・クラークのソロというと1971年発表の「Gene Clark」、通称「ホワイト・ライト」とも呼ばれているアルバムが有名ですね。
このアルバムの評価に気をよくしたジーンは翌年から次作に向けたレコ―ディングを開始するのですが、その制作に時間がかかり、コストが嵩んできたことから、A&Mはプロジェクトを終了させてしまいます。
ちょうどその頃、プロデューサーのデヴィッド・ゲフィンがバーズ再結成を目論み、バーズの創世記メンバーであるロジャー・マッギン、ジーン・クラーク、デヴィッド・クロスビー、クリス・ヒルマン、マイケル・クラークが集結。1973年に「Byrds」を発表します。バーズはロジャーがリーダーであったバンドですが、もともとはジーンの自作曲を演奏することも多く、音楽的にはジーンがリーダーであったといっても過言ではないバンドでした。そしてこのリユニオン・アルバムもその色彩が濃厚となったものでしたね。
前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するアルバムは、この時期(1970年5月~1972年6月)の未発表曲集です。しかも当時はアリオラ/ユーロディスクというレーベルからオランダのみでの発表だったんですよね。やっぱりA&Mとの折り合いが悪かったのかなあ。未発表曲集というとあまりクオリティは期待出来ないものが多いのですが、このアルバムは全く別。さすがに纏まりに欠けたアルバムではあるものの、各々の楽曲のクオリティが高く、非常に楽しめるものとなっております。
アルバム冒頭からバーズじゃないか…と思わせる哀愁漂うメロディの①「She's the Kind of Girl」が素晴らしい。
12弦ギターといい、独特のコーラス・ハーモニーといい、やっぱりバーズ。このレコ―ディングはバーズの面々(ロジャー、デヴィッド、クリス、マイケル)が参加。クレジット上はバーズとしての未発表曲のようですね。あとこの曲のポイントは大御所バド・シャンクのフルート。これがジーンの哀愁漂うヴォーカル&メロディにピッタリ。相性いいんですよね。
こちらもバーズの面々が参加している②「One in a Hundred」。
ジーンの前作ソロにも収録されていたナンバーです。前作ではプロデューサーでもあったジェシ・エド・デイヴィスのスライド・ギターが堪能出来るアレンジでしたが、ここでは完全にバーズです(笑)。ロジャーの12弦ギターと唸りを上げるようなクリスのベース、デヴィッド・ロジャー・クリスのハーモニー、アレンジ次第で曲のイメージがこうも変わるんですね。
リユニオン・バーズのアルバムにも収録されていたナンバーの④「Full Circle Song」。完全にカントリータッチな楽曲ですね。
ジーンがお気に入りの楽曲らしく、彼自身のコンサートでも結構歌われていたようです。アップした映像は恐らく80年代のジーン。アコースティック・バージョンってやつですね。ハンドクラッピングしているのがマイケル・クラーク。ジーンとマイケルの付き合いは結構長いですね。あと右のアコギとコーラスはジョン・ヨーク。ジョンはバーズ時代、クリス・ヒルマンの後釜に加入した方。後期バーズを支えた一人。あと一番左のバンジョー弾きの方が分からないんですよね~。フライング・ブリトーにいたグレッグ・ハリスかなあ。どなたか分かる方がいらしたら教えて下さい。
ブルージーなイントロの⑦「Roadmaster」。ちょっと明るめなサザン・ブギーといったところでしょうか。
スティール・ギターはフライング・ブリトーのスヌーキー・ピート。間奏のギターソロはクラレンス・ホワイトでしょうね。
我々日本人にはこの曲の良さがあまり理解出来ないかもしれませんが、恐らく米国人はこのテの歌詞と歌詞にマッチしたブギーに心躍らせるのでしょうね。
♪ I'm a traveling musician and I'm carrying a pretty big load ♪
ドサ周りしているミュージシャンを歌ったものですね。女遊び中心の歌詞ですが、ジーンにしては珍しくそれを明るく歌い飛ばしてます。
バーズのシングル「Turn Turn Turn」のB面だった⑩「She Don't Care About Time」。ジーン自身のセルフカバーですね。バーズのバージョンとは全く違うアレンジでカバーされている点が興味深い。バーズではロジャーの12弦ギターをキーに、結構早いテンポで演奏してますが、ジーンはメロディを引き立てるためか、シンプル、かつフォーキーに仕上げてます。ジーンの持ち味が、より発揮されてます。
本作発表後、ジーンは更に2枚のソロアルバムを発表。たまたまあるステージでロジャーと共演する機会があり、再びロジャーと活動を開始。そこにクリス・ヒルマンが合流し、1979年に「McGuinn, Clark & Hillman」を発表します。彼等は来日もしているんですよね。
ジーンは容姿もカッコよく、味わい深い曲を書く方でもあったので、本来もっと知名度があって、一般的な人気もあっても良さそうなものですが、決してそのような存在でもなかったような気がします。1991年5月、46歳の若さで亡くなられたことが悔やまれます。